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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:1 突然の依頼猫

     ←エドさんのプロフィール(イラストも) →エドさん探偵物語:2 海賊たちが来た日
    突然の依頼猫

     小さな探偵事務所を覆っていたのは、依頼人の泣き声でした。しかし、泣きたいのは、事務所の主のエドさんのほうでした。

    「あなたの、お名前は?」

    「シロ……」

     椅子の上にちょこんと乗った、まっ白い猫は、そうとだけいうと、泣きに泣きました。エドさんは、半分やけになって、机の上のメモ帳に、「シロ」と大きく書きました。

     エドさんは、この街で長いこと探偵の仕事をやってきました。しかし。猫が依頼にやってくるなんて、ついぞ経験したことがありません。しかも、この依頼人、いや、依頼猫ですか、は、泣きじゃくっています。なんとかしてあげたいのはやまやまなのですが。

     泣き声の合間から、シロが三軒隣のアパートに住んでいることまで聞き出したエドさんは、なにが起こったのか訊ねました。

    「同居している、ナオミさんが……」

    「ナオミさん? 三軒隣のアパートの? ああ、あの小さなおばあさん」

     記憶をたどって、ようやくエドさんの頭におばあさんの姿が浮かびました。八十くらいで、アパートで一人暮らしをしています。そういえば、たしかに猫を飼っていたような。

    「あなた、おばあさんの飼い猫なんですか」

    「猫を、犬みたいに、いわないでください。同居しているだけです」

     シロはしゃくりあげながらいいました。エドさんは深く追及しないことにしました。

    「それは失礼しました。それで?」

    「おかしいんです。ちっとも遊んでくれないんです。こんなことなかったのに。ぼくが嫌いになっちゃったんだ。わああああん」

     エドさんは手にしたボールペンをばりばりと噛み砕きたくなりました。これなら、夫婦げんかの仲裁のほうがまだましです。

    「ここは探偵事務所ですよ。そういうことはナオミさんに直接ですね」

    「だって、だって、ぼくが話しかけてもひとこともしゃべってくれないんです」

     シロの言葉に、エドさんはうなりました。どうやって帰ってもらったものだろう。

    「それで、わたしに、なにができると、いや、なにをしてほしいというんですか」

    「探偵さんでしたら、ぼくより人間については詳しいでしょう。どうして、ナオミさんがここまで変わってしまったのかを調べてもらうわけにはいかないでしょうか?」

     はなをすすりながら話されて、エドさんは観念しました。

    「で、ナオミさんはいつからそのように」

    「けさからです。昨日は普通だったのに」

    「なにかきっかけみたいなものは?」

    「脚立から降りてからです」

    「脚立から?」

    「ええ、ぼくみたいにくるりと回ってひらりと飛び降りて」

     エドさんは血相を変えました。

    「たいへんだ!」

     帽子もかぶらずに、大急ぎでナオミおばあさんのアパートに向かったエドさんは、体当たりで扉を破ると中へ入り、すぐに電話をかけました。台所で、おばあさんは気を失って倒れていたのです。ひとつ間違えれば命もあぶないところでした。駆けつけた救急隊員に、エドさんは説明しました。

    「シロが、教えてくれたんです。気の毒に彼は、ナオミさんが脚立から落ちて、けがをして動けなくなったことがわからなかった。猫にとって、あのくらいの高さなんか、階段の一段を下りるよりも小さなものですからね。バカにしないで話を聞いてよかった……。猫でも、話ができるだけよかったんです」

     救急隊員は、不思議そうにいいました。

    「シロって、あの猫ですか?」

     エドさんが振り向くと、シロはすまなそうな顔で、「にゃあご」と鳴きました。猫がしゃべったという話は、誰にも信じてもらえませんでした。

     二週間後、エドさんは、二つの紙袋を抱えて、修理の跡が残る扉をノックしました。

    「どなた?」

    「三軒隣の探偵です」

     扉が開いて、やや、やつれ気味のおばあさんが顔を覗かせました。そのとき、エドさんの持った紙袋の一つから、まっ白い猫が飛び出し、おばあさんにじゃれつきました。

    「まあまあまあ。入院している間じゅう、あなたがシロを?」

     エドさんはうなずきました。

    「退院なさったと聞きましたので、お祝いと、扉を壊したお詫びに来たんです。ちょっと、君もなんとかいってくれませんか」

     シロは、「にゃあご」と鳴きました。エドさんは笑うと、もう一つの紙袋からワインやらチキンやらを取り出しました。そして二人と一匹は、楽しいパーティーを始めました。

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    Re: 椿さん

    このシリーズは、ほとんどの作品を気に入っています。

    ショートショート集ですが、最初の作品から順番に読んでいかれるのがいちばん面白いんではないかと思います。

    レギュラーメンバーは少ないんですけどねえ……。

    NoTitle

    なんすかコレー! かわいすぎるー!!
    ツボ過ぎるー!
    うわあ……。どれ読ませていただいても面白くて、毎度クラクラしますです。
    また少しずつ拝見しますね(^o^)

    松井警部補って……懐かしすぎます。渋すぎます。私の一押しは黒崎さんでしたが。

    Re: rurubu1001さん

    そりゃ、もともとは児童文学掌編の公募に投稿した作品ですから。(^_^)

    「童話の花束」っていう公募です。

    まだ毎年投稿してます。もれなく入選作が載った小冊子をくれるので。

    読むたびに闘志がわきます。「これならばおれのほうが」って(笑)

    なるほど!

    エドさんはいったいどんな事件を解決していくんだろうと思っていました。そしたら、猫のおかげで、おばあさんの命を助けることができるという可愛いお話だったなんて!なるほど!そう言う推理をしてくのか~!と。

    なんだか児童書を読んでいた頃を思い出しました。大人になってから、またそう言う物語に会えたのがとても嬉しかったです。

    これから少しずつ読ませて頂きますね^^

    Re: 涼音さん

    どうも、こちらに遊びに来ていただいてありがとうございます。

    エドさんの物語を楽しんでくださったのなら嬉しさも二倍です(^^)

    掌編はたくさん用意しておりますので、どうかごゆるりとご覧になってくださいね~(^^)/

    今晩は^^

    一昨日は有り難うございました。とても助かりました。

    エドさん読むならこちらからだと思い、読み始めました。
    実に楽しいお話です。
    エドさん猫とお話しできるのですね。とても素敵です。
    確かに猫だと倒れているとは思いませんよね。

    今回も童話大賞に応募されるのですね。前回結果を出していらっしゃいますし、期待大です!
    応援していますので頑張ってくださいね。

    また寄らせて頂きます。

    Re: ROUGEさん

    謝られることはありませんよ(^_^)

    どうかお好きな作品からお読みになってくださいね!

    この作品は、「エドさん」シリーズで最初に書いたものです。そのころは、自分にもブログを作れるなんて思いもしていませんでした。

    全部が手探りで、これって児童文学として面白いのだろうか……などと悩んでいたものであります。

    あれから何年も経ちますが、小説がはたしてうまくなったかというと……どうかお読みになって確かめてくださいね!(^_^)/

    ごめんなさい

    何処にコメントしていいか解らずに
    自分好みのお話にコメントさせて頂きますね(^^;
    (連載中のものや長編は読み終わらないと失礼ですから)

    猫の話いいですね~
    こういう話に近い実話はありますよね。

    ウチの猫は私が病気の時はかたときも離れず看病してくれます♪

    Re: 十二月一日 晩冬さん

    こちらこそなんのごあいさつもせずにすみません。

    書くことが大好きな暇人ですので、このシリーズも50話ありますが、どうかゆるゆるとおつきあいください。(^_^)/

    お初です

    何度も訪問してしまい、またさせてしまい、大変恐縮です

    拝読させて貰いました・・・自称ですが通の看板を持っている(引き摺っている)自分ですが―愉しく読ませて戴きました。
    猫繋がりですが、「猫弁」に通じる優しさが身に染みました
    今後も訪問させて貰いますね
    • #8351 十二月一日 晩冬 
    • URL 
    • 2012.06/18 21:26 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ヒロハルさん

    こういうのを書くのも好きなんです。

    イラストを描いてくださったかたはここ二年くらいブログの更新をしておられないのですが、大丈夫かなあ元気でいるかなあ。

    ほっこりで面白かったです。

    イラストもカッコ良くてクールですね。

    Re: 有村司さん

    いらっしゃいませ。お越しいただいてありがとうございます。

    「エドさん」は50話ありますので、じっくり読んでいただければ、と思います。

    リンクは大丈夫ですよ。こちらからも張らせていただきますね~♪

    こんばんは。

    はじめまして。
    「紙上の荒野」管理人、有村と申します。

    さきほどは拙ブログにお越しくださいましてありがとうございました。
    ポールブリッツさまのお名前は、そこかしこで拝見しておりましたので、早速お邪魔致しました。

    「エドさん」とても素敵な掌編ですね!
    第一話は猫好きにはたまらなかったです。
    これからもお邪魔させて頂きますので、よろしくお願い申し上げます。

    あ、こちらさまのリンクを貼らせて頂きますので、もしご迷惑であれば遠慮なくお申し付け下さいませ。

    それでは失礼します。

    Re: fateさん

    なにせ全50話ですから(^^)

    どうか楽しんでいってくださいね~♪

    わお!

    楽しかったです(^^)
    まだまだ続くのが目の端に捉えられておりまして、わくわくしております。
    また来ます~!

    Re: 鍵コメさん

    この小説を気に入ってくれてありがとうございます。

    わたし、小説ごとにまったく別の顔を見せるタイプでして……(^^)

    これを読むのと同じ気持ちで「紅蓮の街」なんか読むととんでもないことに(笑)

    では、しばらく、ちょいちょいと読んでみてくださいね。退屈はさせません(^^)

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    Re: 矢端想さん

    松井さんは人間ですっ!!(^^;)

    ちなみに、原作の童話はムチャクチャ面白いのでダマされたと思ってぜひとも図書館かどこかで読んでみてください。短編童話のお手本のような作品です。

    NoTitle

    無粋な割り込みスミマセヌ。

    「車のいろは空のいろ」で驚いたので。
    ・・・といいながらちゃんと読んだことありません。
    谷山浩子のアルバムで知ってるだけで・・・エドさんは狐の松井さんだったのか・・・。

    Re: ぴゆうさん

    導きの星さえ見失わなければ、目的地には必ずたどりつけます。

    道の遠さについては……考えないことですね(笑)。

    考えれば考えるほどしんどくなるもんなあ……。

    応援してます。

    NoTitle

    本編が最終章だって云うのだからして。
    勘違いしないでぇな。
    まだまだ続くから。
    たっぷりある・・・うげ
    しんどいぞな。
    本編を先ず終えないとね。
    がんばるべ。

    Re: ぴゆうさん

    だから掃除がたいへんなのに(^^;)

    言葉の綾くらい許してくださいよ(^^;)

    まったく……な、なに?

    最終章?

    がーん。

    なんとなく、あと十年は続くもんだとばかり思ってたであります……。

    NoTitle

    確かじゃねえ!
    知ってる癖にアホンダラ!
    ぷぷ
    コンテストか、どうかなぁ~~
    微妙だと思う。
    猫国も最終章だから、けっこう疲れているし・・・
    やけv-294して帰ろう。

    Re: ぴゆうさん

    えっ、エドさんシリーズ、まだ読まれてなかったんですか(^^;)

    そういやあコメントなかったなあ(^^;)

    ちなみに、このシリーズは、来月だったか再来月だったかのアルファポリスの童話コンテストにエントリーするつもりなので、ぴゆうさんお互い正々堂々、大賞に向けて突撃しようではありませんか。ぴゆうさんの猫国も、童話ジャンルでしたよねたしか。

    このシリーズ、1話書くのに範子文子などよりも、ものすごく時間がかかるので、けっこうきついのですが、それだけに愛着があります。また書くぞ。

    なんせ目標が「車のいろは空のいろ」ですから、横綱にぶつかるふんどしかつぎ状態……(^^;)

    ちなみにこれも目標100話。蘭さんに10000ヒット記念企画で贈った番外編もよろしく(^^)

    NoTitle

    ここんとこ趣味に走りまくっているポールなので、
    コメが出来ひんと嘆いていたら、こんなにステキなのがあった。
    これから楽しみだに。

    最後のパーティー、私も皆でパーティーが大好きだい。
    v-410
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