「ショートショート」
    ユーモア

    バックレちまった

     ←用途 →イライラしますな
    「リーダーがえらいことになったんだって?」

     おれは部屋に駆け込むなり、ダチに叫んだ。ダチはイライラしたように開いた窓を指差した。

    「ああ。見ろよ、バックレちまった」

     おれはがくりとひざをついた。

    「こうなってから逃げるって、そんなのありかよ。リーダーが突っ張っていたから、おれたちも突っ張って生きてこれたんじゃねえか。それがブルって逃げたとありゃあ、おれたちは明日からどんな顔で町を歩けばいいんだ」

    「リーダーがこんな肝っ玉しかないんだったら、あんなでかい口たたかなけりゃよかったんだ。怖くてもなんでも、ムショに入ればよかったんだよ」

    「だけど、あのタンカは聞いててスカッとしたなあ。さすがリーダーだと思ったぜ」

    「で、どうする?」

     おれはちょっと考えた。

    「リーダーには死んでもらうってのはどうだ?」

    「探してリンチするのか?」

     おれは首を振った。

    「ここでリーダーは自殺して、おれたちがさっさと埋葬してしまったことにするんだ。ここにいるのはおれとお前しかいないんだから、ふたりとも口をつぐんでりゃ、リーダーは死んだことになる」

    「うまくいくかな」

    「うまくいかなかったら、おれたち全員町からバックレなきゃならなくなるぞ」

    「でも、この場にいないやつらが文句をいったらどうする」

    「いたことにするさ。全員、リーダーが死んだことの証人ってわけだ」

    「納得するかな」

    「そこはまかせろ。おれがカッコいい本を書く。みんながその場にいたことを認めたくなるような本だ。昔から、おれはそういう本を書きたいと思ってたんだ」

    「よくわからんが……まかせていいんだな、プラトン?」

    「もちろん。本にはあんたの名前も出しとくよ、クリトン」

     紀元前三九九年。アテナイの街で、大人に議論をふっかけては煙にまいて喜ぶ不良少年たちの指導者とみなされていたソクラテスは裁判の末毒杯をあおいで死んだことになっている。不良少年のひとりだったプラトンが、なにを思ってあのすばらしい対話篇を書いたのか、今となってはその書物からしかうかがうことはできない。

     そしてそれから四世紀のち。エルサレムでは不良少年たちの一団が相談していた。

    「リーダーがバックレちまった。ユダが身代わりに十字架にかかったけれど、どうしよう」

    「おれたちで面白い話を作ろうぜ。リーダーは死んでそれから復活するっていうのはどうだ。かわいそうだけどユダには裏切者の役をやってもらって」



     "かくて、彼らの諮問に逢った人達は、自ら責める代りに、私に対して憤り、「ソクラテスとかいう不都合きわまる男がある、彼は青年を腐敗させるものである」というのである"(プラトン「ソクラテスの弁明」久保勉訳、岩波文庫)

     "陽の下に新しきものなし"(旧約聖書:伝道の書1-9)
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    ~ Comment ~

    Re: 矢端想さん

    シャア・アズナブルは生きていて(笑)

    イエスはロックなやつですよ。裏切り陰謀戦争神の怒りで充満した史書である旧約聖書の記述にうんざりしきったところで新約聖書にくると、イエスの反権力ぶりと愛を説くカッコよさにしびれますな。その点で、わたしはミュージカル映画「ジーザス・クライスト・スーパースター」を断固支持します。あれ以上のイエスの生涯を描いた映画はない。イエスもユダもロックなやつなんだから、ロックで語るべきなのであります。

    ソクラテスはある意味イエスよりもロックなやつです。生涯を費やしてやったことが、金でも地位でも名誉でもなく、「威張りくさったやつの揚げ足を取ること」だというから徹底してます。クサンティッペは、そんなやつが七十になるまで連れ添ったんですから、この人もそうとうのタマですな。ロックじゃないかもしれませんが、苦労しただろうなあ。

    NoTitle

    またまた何度も失礼。
    こうせつ死亡説もマッカートニー死亡説もウソだったんだから(ふるっ!)やっぱりエルヴィスは生きてるかも。ジョン(レノン)やマイケルだって生きてるかも知れないぞ!死亡診断書が出た後でも彼らなら三日後に蘇ったとしても不思議ではない。

    ところでイエスってロックでカッコイイ奴だったんだと思います。風貌も言動も。だから多くの人をトリコにした。そして初対面の相手にいきなりケンカ売るようなこと言ったり露天商の台を蹴散らしたり、気性が激しかった。そんなロックな生き方のために熱狂的ファンも多い一方で激しく敵もつくり、総督ピラトは彼の何が悪いのかわからないまま保身のために死刑にせざるを得なかったわけですね。・・・以上、イエス論でした(たぶん定説のはず)。

    ソクラテスについてはよく知りませんが、クサンチッペにはメロメロだったんでしょ?

    Re: レルバルさん

    わたしなんざ人生からバックレたい(^_^;)

    そんな気分の時でも音楽聴いて命をつないでおります。

    NoTitle

    あーおいらもバイトバックれたいです。

    Re: 火消茶腕さん

    ソクラテスにとってクサンティッペは悪妻だったのかな。

    なにしろ書いたのはプラトンだからなあ。もしかしたら弟子と貧乏な男の女房は、新興宗教の開祖の信者と家族みたいに、ソクラテスについていがみ合っていたのかも。

    しかも身内が死刑になっちゃって。貧乏がさらにド貧乏になるわけですよね。

    書いているうちにどんどん気の毒になってきた(^^;)

    NoTitle

    読ませていただきました。
    ソクラテスと言えば妻がとてもひどかったことで有名だったような。うまくその妻の口封じできたんですかね。夫がバックレたなんて知ったら鬼の首でも取ったように騒ぐと思うんですが。すでに死んでいたのかな。
    面白かったです。

    Re: ダメ子さん

    われわれじゃ、神になれたとしても貧乏神程度ではないかと……。

    ペニアー様~!!

    NoTitle

    私もバックれて神扱いされたくなってきました
    でも現代じゃ防犯カメラにばっちり映ってしまいそう

    Re: misaさん

    ソクラテスという人物がいたことは確かでしょうね。プラトンのほかにも、軍人のクセノフォンがくそまじめでつまらない道徳しか説かないソクラテスの思い出を書いてますし、喜劇作家のアリストファネスは、「雲」という作品でソクラテスを詭弁家としてさんざんにおちょくってます。当時のアテナイでもそうとうの有名人でしょう。どういう人だかまでは三者三様でわからないけれど、かなりの奇人だったんでしょうねえ。

    イエスも裁判記録が残っていない、などと存在を疑う意見もありますが、二千年前のローマ帝国の田舎の、当時としては取るに足りない裁判記録が今に残っているほうがおかしいので。ほんとうのイエスがどんな人だったかは本職の学者が侃々諤々の議論が続いていますけど、決着がつくことはまずないでしょうね。

    それよりも同時代の思想家や宗教家がなにを考えていたのかが断片としてしか伝わっていないのはなんとも嘆かわしいことであります。ヘラクレイトスやパルメニデスはもちろん、マニ教なんて、教義自体、現代でも「推測するしかない」レベルだからなあ……。

    Re: カテンベさん

    世の中の悪いことは全部サタンに責任があるんです。

    そこから派生した二次的な悪いことはイエスが全責任を負って死にました。

    三次的な悪いことは、教会に入って悔い改めれば全部チャラになります。

    地獄をちらつかされてこういう論法をされると、新興宗教のキリスト教が「恐れるものは死後の生活だけ」みたいなローマ人の心をとらえたのもよくわかるような気がしますな。

    史上最もうまくいった欠席裁判じゃないかなあ。

    NoTitle

    実は本当にそんな感じだったのかもしれませんね。
    当時は新聞もテレビも記者もなかったから、
    彼らについて知るには、彼らについてだれかが書いた、
    そのことだけが唯一の彼らのいた証拠となっている。
    ほんとうはプラトンだってただ小説を書いただけかもしれない。
    こんな人がいたらいいなあ、って思ってただけかもしれない。
    そう考えると、おもしろいですね。^^

    ええ感じにしときましたから、てのならいいけど、
    証拠も証人も揃えて、みんなして、あいつのせいにしてしまお。みたいな冤罪計画を実行されたらかなわんとこやわ

    Re: 矢端想さん

    エルビスは実は生きていて(笑)

    NoTitle

    「実はそこで死んでない」類は歴史上いくらでもありますね。
    義経は平泉で死なずに大陸に渡ったとか、源内は獄中で死なず後も活躍したとか、イエスが日本に来たトンデモ説とか。
    夢はナンボでも膨らみますなw(後世の者が偉人をオモチャにしているわけでは決してないぞ)
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