「ショートショート」
    SF

    イライラしますな

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    「イライラしますな」

     わたしは殺風景な病院の待合室で、隣に座った同い年くらいの老人にいった。

    「まったくです。人を老いぼれだと思ってバカにしているとしか思えません」

     待合室は外来の老人であふれていた。

    「整理券は何番ですか?」

    「24番。あなたは?」

    「19番ですよ。こんなに待たせて、医者となにをくっちゃべっているんだろう」

     わたしはあいづちをうった。

    「そうですよねえ。注射一本打てばすむことなのに、まったく、病院ってやつはサービスが悪い」

     看護士の声がした。

    「19番でお待ちの方、どうぞ!」

    「じゃ、お先に失礼」

     隣の老人が立ち上がった。わたしは軽く頭を下げると、外を見た。

     こうして日本が高齢化社会を迎えることから、どうしてみんな目を背けてきたのだ。医療費の増大は、とどまるところを知らない。

     わたしは自分の番が来るのをイライラしながら待った。

     年をとるとこらえ性がなくなるのだ。

     延々と待つこと四十分。

    「24番さん、どうぞ!」

     やっと番がまわってきた。わたしは診察室に入った。

     若い医者が、カルテを見ていた。

    「あの……」

    「気は変わらん。問診票に書いた通りだ」

     わたしはテーブルを指でとんとん叩いた。

    「年齢別に税金も物価も露骨な差をつけて、道路の拡張とかいって歩道も信号も削り、年金は減額ないし廃止、高齢者向けの外来は基本的に縮小路線ときている。国家が率先して、意図的に老人を差別し、いじめ、死を願うまでに絶望させることでこの状況を乗り切ろうだなんて政策をとるような、こんな国にこれ以上住んでいられるか」

    「でも、最終的な意思決定の前に、考えを変えるよう説得するのも医者としての務めで……」

    「医者の務めが聞いてあきれる。そんな殊勝な心構えを持っているなら、国家公認だからといって、初めから『安楽死外来』なんか開くな! こっちはこんな、年寄りを大事にしない国家など、さっさとおさらばしたいんだ! 早くしろ! イライラしてかなわん!」

     わたしは腕をまくった。医者はまだためらっていた。ああイライラする!

     年寄りは気が短いのだ。
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    ~ Comment ~

    Re: マーサさん

    数年前までは病院の待合室ではひたすら本を読んでましたが、

    最近はスマホをいじってます。

    いけないことはわかっているけど快楽の誘惑に勝てず(^^;)

    すぐ死にそうな人のほうが、案外長生きしたりしますよね

    私も毎月通院していますが、「4時間待ちです」の張り紙を見たら
    怒りを通り越して笑いがこみあげてきました。
    あの時はひたすら暇を持て余してましたが
    (持ち込んだゲームやってましたが)、
    今思えば図書コーナー行ってパソコンいじってりゃよかった。

    そういえば、せっかちの人って早死にするらしいですね。
    私は…早死にしそうだな(苦笑

    Re: miss.keyさん

    その危険性をはじめてまとまったかたちで論じたのはマルサス「人口論」でしょうね。

    その本に影響を受けたのか、ミステリ作家のM・P・シールのプリンス・ザレスキー譚に、このネタを使ったものすごい作品があります。わたしは大好きなのですが、問題があって、小栗虫太郎並みに読みにくい文体で書かれた短編なのであります(^_^;)

    興味がありましたらどうぞ。

    Re: 火消茶腕さん

    前に新聞の投稿欄で、老人からの、

    「年金を一括して渡してほしい。その金で一年間自由に遊ばせてくれ。かわりに一年経ったら青酸カリを処方してほしい」

    という意見を読んで、ものすごく暗い気分になったことを思い出しました。

    やはり今の世界はどこか間違っていると思います。

    Re: ダメ子さん

    後期高齢者全権委任法

    主旨 もはや自力で生活することが困難になった後期高齢者は、基本的人権などの諸権利を国家に委任したうえで一括して国家の運営する施設に収容し、適応するケアを行う。

    細則 委任される権利には「選挙権」を含む。権利は国家のために代行して使用される。

    ほんとはこのネタで書くつもりだったけれど、あまりに暗すぎて……。

    世界の調和が崩れれば

     こんにちは。
     星新一さんの「生活維持省」を思い出しました。話の筋は違うのですが、人間の数の調整をしなけりゃならんと言う意味では根は同じですな。
     人類は色々な病気を克服しようとして、食糧問題を解決しようとして、長生きしようとして、結局数を増やしすぎて自らの手で減らさにゃならんという矛盾。だとしたら、これまでの努力はなんだったんでしょうね。
     飢餓に苦しむ子供を救いましょうという某国際機関の活動も、これに似ています。こういう事を言うと今日の社会では人非人扱いなので言いにくいですが、死ぬべき人間を生かしたばっかりに、人口は激増し、環境は破壊され、食料は不足し、更なる飢餓をもたらし、人々を苦しめる負のスパイラルです。人を救いたいという心情は素晴らしいと思うのですよ。ですがはたして大局的に考えた場合、正しいと言えるのでしょうかね。答えのない疑問ですね。

    NoTitle

    読ませていただきました。
    この老人、注射打たれた後も、”何だ、まだ効かんのか。イライラするな”とか言ってそうですね。面白い。
    私個人としては志願制よりも強制されたほうがいいですね。そのほうが運命として受け入れやすいからですが。定年退食もそうでしたが、最後はきっとみんな受容できると思うんです。死なない人はいないんですから。

    NoTitle

    こういう世界が来るのかなあとも思ったりするけど
    選挙権の関係上、民主主義が崩壊しない限りは
    ずっと老人優遇が続くのじゃないかなあとも思ったり
    定年退食のような物分りのいいお年寄りは
    現実には少なそうだし…
    (お年寄りに限らずですが)

    Re: ヒロハルさん

    誰でも受診可、となったら最初にいい人から死んでいくような気がする。

    戦争ってものと同じですな……。

    NoTitle

    あの・・・・・・若年者の受診は不可でしょうか?

    Re: カテンベさん

    齢を食ってきたから色眼鏡でみているだけかもしれませんが、

    最近の「老若戦争」だなどといっている若い人たちの論調とか見てると、

    マジでこういう世界が来るのではないかと思えてなりません。

    藤子先生の「定年退食」では、強制的に行政サービスが停止されていましたが、

    実際に似たようなことをやるのだったら、老人をいじめにいじめて、「自分の意思で」死んでもらうような制度を作るんじゃないかと思います。

    ……いまの世界の推定人口何十億でしたっけ?

    種を残すという点で不要や、となるからなんでしょうけど。
    現役やなくてお年寄りというポジションがあるのは人間くらいなもん、てなこと、何かで読みました。
    社会に貢献できない存在になられると負担にすぎなくなりますもんねー
    人としては、それでも生きてておくれよ、て社会全体で言えるもんであるべきなんやろけど、長寿化しすぎ感はありますよねー
    身内がもう死にたい、なんていうたらヘコみ倒しそうやけどねぇ
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