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    「ショートショート」
    ファンタジー

    糖蜜ひとさじ

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     彼は貧しい家に生まれた。生きていくことすら難しいような村でも、いちばん貧しい家だった。

     餓えは日常そのものだった。満腹できるほどパンを食べられた者は、パンの不足に対して餓えを覚えるだろうが、満足にパンを食べられないものは……ある意味幸福なのかもしれなかった。

     ある日、教会の慰問団がこの村を訪れた。彼らはいくばくかのパンと、いくばくかの銭とをこの村にもたらした。彼の家まではまわってこないことが明白なほどこしものだった。

     慰問団が立ち去るとき、ひとりの炊事係が、ふとした気まぐれを起こした。

     瓶からひとさじの糖蜜をすくいとり、やせて目ばかりぎらぎらさせていた少年、彼にそれをなめさせたのだ。

     慰問団は立ち去ったが、その糖蜜の甘さは、彼の舌を電撃のように灼いた。

     彼はその甘さを忘れないようにしようと心に決めた。無味乾燥な日々の食事も、あの糖蜜の味の記憶ですばらしい味に変わった。井戸で水を飲むときも、あの甘さを思い出すと甘露のように感じられるのだった。

     彼は舌に残る糖蜜の甘さだけを支えに働き、働き、そしていつしか財をなした。



     唇を離した彼の新妻は、ほんのりと頬を染めていった。

    「あなたとのキスって、いつも思うんだけど、とろけるように甘いのね。まるで、上等な糖蜜をなめたときみたい」

     彼はぎこちなくほほえみ返すと、頭をかきつつ新妻の肩を抱き、新居の玄関をくぐったということである。
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    ~ Comment ~

    Re: マウントエレファントさん

    筒井康隆先生の「心狸学・社怪学」所載の「原始共産制」という短編が、もっとダイレクトにこの問題を扱っていますね。

    一種の共産主義的ユートピア(笑)に生まれた青年が、一粒のキャラメルを口にすることで起こる思想的転回(笑)をブラックジョークたっぷりに描いています。

    この話を書き上げて、ふふふ、わたしにしてはちょいと洒落た恋愛ファンタジーじゃないか、とアップしてから、あっ、完全オリジナルだと思っていたけど元ネタはこれだったんだ、と気づいて汗をかいた作品でもあります。そういうことはしょっちゅうですが……(^^;)

    NoTitle

    電撃的な出会いを支えに頑張り、成功するってこと、現実の世界でもけっこうあるかもしれませんね。
    でも、思いの強さから彼の身体に変化が起こり、蜂蜜をなめなくても自分の唇が蜂蜜の味になったとしたら、これもおもしろいかも。

    Re: 宵乃さん

    ひとつの体験したことのないような刺激によって頑張れる人もいれば、あこがれるだけでなにもできない人もいます。残念なことに、外見からはどちらのタイプの人間だかはわからないのです。

    「ギブ・ミー・チョコレート」でもらった菓子の甘さを糧にしてここまで豊かな国を作った日本人は賞賛されてしかるべきだと思いますが、その経験はどこまで一般化されるか……うむむむであります。

    ナイトメア・ハンターは……ロールプレイングゲームで昔出てたんです。しかし現代を舞台としたこのゲーム、仲間内で面白いと思ったのはわたしだけで……(^^;)

    その鬱積した怒りと孤独感で小説を書いているからかなり暗いという……わたしの理想のヒーローは「裂けて海峡」の長尾ですので、ハードボイルドを書くとそういう人間像になってしまうのであります。だから「残念な男」とどう違うのか、なんて聞かないこと(笑)

    NoTitle

    お早うございます。
    ドキュメンタリー番組などで、お菓子なんて食べた事もない子供にキャンディを与えたりするのは残酷なんじゃないかと思っていましたが、それをきっかけに頑張れるということもあるかもしれませんね~。
    短い文章のなかに一人の人生がしっかり描かれていて、説得力ありました。

    ナイトメア・ハンターの方もちょこちょこ読ませていただいてますよ~。
    ショートショートもいいけど、長編も面白いです♪
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