「ショートショート」
    ユーモア

    かみさまどうかやっつけてください

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    「うちのやつが、きみらをひどく恨んでいるんだ」

     ロケ地の廃工場。わたしの部下にあたるバーニングブルー役の由樹は、びくっとしてこちらを向いた。

    「奥さんが? どうして?」

     わたしは笑った。

    「女房じゃないよ。うちの三つになるせがれさ」

    「びっくりしました」

     ブルーの横で汗をぬぐっていたバーニングピンク役の園華がおおげさに胸をなで下ろした。

    「……でも、どうしてお子さんがぼくたちを?」

    「あれだよ。『バーニング3』の四十話。あれが原因だ」

     バーニング3とは、わたしが出演している特撮ヒーロー番組だった。主人公はブルーとピンクで、わたし、バーニングレッドは、隊長と司令官を合わせたような、チームのリーダーにして後見人という役所だった。もちろんヒーローだからアクションもするが、ヘルメットをかぶった後はスーツアクターさんがやってくれるので、わたしのような中年にさしかかった役者でもなんとか務まるのだ。

    「四十話って、あれですね。ぼくと園華が、あなたに命を助けられて改心した怪人を、誤解から必殺技で殺してしまうっていう鬱エピソード」

    「そう。せっかくお父さんが助けたのを台無しにした、ってひどく怒っている。あの怪人、息子のお気に入りのキャラクターらしい」

    「よくできてましたもんね、あの着ぐるみ。どこかユーモラスで愛嬌があって」

    「まあ話の展開上、あの犠牲がきっかけになって今日から撮り始めた最終三話の盛り上がりにつながるわけだが、身辺に気をつけたほうがいいぞ。なにが起きるか、わかったもんじゃない」

    「せいぜい気をつけます」

     由樹は園華の肩に手をかけつついった。園華はするりと身をかわした。やっぱりアクションスターだな、とわたしは思った。



     ロケ地から東京に戻ると、わずかながら休憩時間が与えられた。大道具のセットにごまかしきれない破損が見つかったそうなのだ。これ幸いと、わたしは家へ帰った。

    「お帰りなさい」

     妻は夜遅いというのに寝ずに待っていてくれた。

    「良治は?」

    「書き物して、疲れて寝ちゃったわ」

    「書き物?」

    「神社の絵馬よ。神様に、バーニングブルーとピンクをやっつけてもらうんだって、マジックで。そこにあるわ」

     いわれて、わたしは部屋の隅に下手くそな字が書かれた絵馬に気がついた。

    「良治は天才かもしれんな。三歳で字とは」

     わたしは絵馬の字を読んだ。

    「ぶるーとぴんくをやっつけてください」

     三歳だけあって、「や」の字が「く」に見えた。

     くっつけてください、か。わたしは神様がそう読んでくれることを祈った。

    「明日、神社へ持って行くの。あなたは早いんでしょう?」

    「夜明け前にはスタジオへ行かないとまずい」

    「寝ましょうか」

    「うん」



     スタジオで最後のシーンを撮り、わたしたち役者スタッフ一同は乾杯した。実際には監督はこれからが地獄なのだが。

    「先輩」

     あらたまった顔で、由樹が園華と連れ立って現れた。

    「どうしたんだ」

    「ぼくたち、つきあうことにしたんです」

     わたしはそうとう変な顔をしていたらしい。園華が口に手を当てて笑った。

    「それって、結婚を……」

    「結婚を前提としたものです。ね、由樹」

    「まじめなんです、ぼくたちは。でも、そこまで驚くことですか、先輩?」

    「いや、それなんだが」

     わたしは息子の書いた「くっつけてください」の絵馬が神社に奉納されたことを話した。

     ふたりは幸せそうに笑った。

    「それは霊験あらたかな神社ですね。今度お詣りに行こうかな」

    「いいわね。行きましょう。後で」

     わたしは神社のご利益というものを目の前に見せられて、うなることしかできなかった。



     打ち上げが終わり、家へ帰ると、妻が酒と少しの肴を用意して待っていた。

    「一年間、ご苦労さま」

     わたしはお猪口に注いでもらい、お銚子を取った。

    「きみもやれよ」

    「じゃ、お言葉に甘えて」

     わたしと妻は一合の酒をたがいにちびちびと飲んだ。

    「良治ったらね」

     妻がほんのり赤くなった顔でいった。

    「神様に、もう一枚お願いを書いたのよ。なんか神様に不満があるみたいで」

    「なんて?」

    「もっとしっかりやっつけてください、って」

    「あの子の『や』は、『く』としか読めないだろ」

     そういった瞬間、わたしはなにやら悪い予感に襲われた。



     わたしの予感は杞憂ではなかった。霊験あらたかな神様は、ブルーとピンクをもっとしっかりとくっつけてしまったのだ。

     夜中にマンションから病院に直送された特撮ヒーローカップルの話題は、ひと月近くワイドショーのかっこうの艶笑ネタとなった。

     神様というのはいるのかもしれない。頭のいい悪いは別にして……。
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    ~ Comment ~

    Re: クロエさん

    絵馬を書いたのは妻じゃなくて三歳になる息子のほうね(^^)

    願いがかなうからといってこの神社を悪用しないでくださいね(笑)

    わたしも絵馬を書きに行こうかな(^^)

    ポールさま

    こんにちは。ポールさん。

    絵馬と恋愛に掛けたのは 素敵ですね。

    笑えたのは 奥さまが絵馬にかいたこと…
    しっかり叶いましたね…(笑)

    私も絵馬を…(笑)

    またお邪魔させて下さいね♪

    Re: limeさん

    誘惑に勝てなかったんです(笑)

    ほんとは「恋愛」カテゴリに入れるはずだったのですが……(^_^;)

    NoTitle

    「僕たち、つきあうことにしたんです」
    のところで終わっていたら、とっても純粋な、ほのぼのストーリーになったのに(笑)
    最後まで行っちゃうところが、やっぱりポールさんらしいですね。
    子供向け、から、大人向けに変わる瞬間を見た気が・・・w

    Re: ダメ子さん

    人間なんていうわけのわからないもの造って喜ぶようなかたですからなあ(笑)

    NoTitle

    もし神様がいるとしたら
    そういう願いを嬉々として叶えるヘンタイさんなんじゃ…///

    Re: カテンベさん

    ぶるーをぴんくとやっつけてください、と読まれてかえってブルーがひどい目に、とかね(笑)

    Re: 矢端想さん

    本来はこの小説、ふたりが結ばれてよかったね、というハートフルな話にするつもりだったのですが、二段目のオチを思いついたためこうなってしまいました。(^_^;)

    彼らには悪いことをした、と思っております(笑)

    「と」と「を」が紛らわしい、てのだったら、ブルーは神がかりのヒーローパワーを手にしてしまえたのかも。

    NoTitle

    ぎょっ。
    これはなんとか痙攣というアレですか?
    緊急に処置しないと男の方がヤバいですっ!!
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