「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢逐人
夢逐人 プロローグ
夢逐人(ゆめおいびと)
プロローグ
「探せ……」
闇の中、蝋燭の明かりだけがぼんやりと灯っていた。他の明かりは一切入ってこない。どうやら地下室のようである。それもかなり広い。
中にいたのは、立っている、数人の、体格のいい男たちと、ほんの少し盛り上がった台座のようなところに、うずくまるように座った、一人の、枯れ木のようにやせ細った老人であった。
男たちは、まだ若かった。老人と比べれば、幼かった、といったほうが適当かもしれない。だいたい高校生くらいの年齢だろうか? その立ち姿も、どこか自堕落なものを感じさせる。
ちりんと、鈴のようなものが鳴る音がした。
「娘を探せ……」
老人の声が、聞くものを呪縛するかのように、静かに、しかしはっきりと、その場に流れた。
また、鈴が鳴る。
「娘を探すのだ……」
見るものが見れば、この場の状況が、集団催眠を試みるのにうってつけの舞台装置であることに気づくだろう。闇夜にぼんやりと灯る蝋燭の炎、流れる鈴の音、そして心に直截的に響く命令の声。
若者たちは、完全に老人にコントロールされてしまっているらしかった。それが証拠に、誰一人としてなにもしゃべらない。ただ、老人の命令を聞くだけである。
「娘は、この街のどこかにいる……」
老人の声に、かすかな苛立ちが混じった。
「それを突き止めるまでに少なからぬ時間がかかった。だが、ここまで絞り込めば、あとはもう時間の問題だ……。お前たちは、これから、われらの猟犬となって大いに働いてもらいたい」
若者たちは、いっせいに、こくり、とうなずいた。
老人は、満足そうにいった。
「よし。だが、心してかかるのだ。娘には、護る者がついている」
その言葉は、自分自身にいいきかせているとも取れた。
「少なくとも口伝ではそういうことになっている。ゆえに、室町の世では、われらは一度、苦汁を飲まされることとなった。かの時の轍は二度と踏むわけにはゆかぬ。いいか、二度とだ」
若者たちをにらみつける。
「わかるな」
再び、若者たちが、こくり、とうなずいた。
「それでいい」
老人は、ゆっくりと立ち上がった。
「護る者については、すでにある程度の見当はついている。であるからして、お前らは娘の探索に全力を注げ。なに、焦ることもない。時間はまだたっぷりある」
そう、たっぷりと。
老人は短くいった。
「行け」
若者たちは、一人、また一人と、部屋を出て行った。
最後の一人が地下室を出て行くと、老人は立ち上がった。
笑い出す。
低く低く。
その声は、信じられないほど禍々しかった。
プロローグ
「探せ……」
闇の中、蝋燭の明かりだけがぼんやりと灯っていた。他の明かりは一切入ってこない。どうやら地下室のようである。それもかなり広い。
中にいたのは、立っている、数人の、体格のいい男たちと、ほんの少し盛り上がった台座のようなところに、うずくまるように座った、一人の、枯れ木のようにやせ細った老人であった。
男たちは、まだ若かった。老人と比べれば、幼かった、といったほうが適当かもしれない。だいたい高校生くらいの年齢だろうか? その立ち姿も、どこか自堕落なものを感じさせる。
ちりんと、鈴のようなものが鳴る音がした。
「娘を探せ……」
老人の声が、聞くものを呪縛するかのように、静かに、しかしはっきりと、その場に流れた。
また、鈴が鳴る。
「娘を探すのだ……」
見るものが見れば、この場の状況が、集団催眠を試みるのにうってつけの舞台装置であることに気づくだろう。闇夜にぼんやりと灯る蝋燭の炎、流れる鈴の音、そして心に直截的に響く命令の声。
若者たちは、完全に老人にコントロールされてしまっているらしかった。それが証拠に、誰一人としてなにもしゃべらない。ただ、老人の命令を聞くだけである。
「娘は、この街のどこかにいる……」
老人の声に、かすかな苛立ちが混じった。
「それを突き止めるまでに少なからぬ時間がかかった。だが、ここまで絞り込めば、あとはもう時間の問題だ……。お前たちは、これから、われらの猟犬となって大いに働いてもらいたい」
若者たちは、いっせいに、こくり、とうなずいた。
老人は、満足そうにいった。
「よし。だが、心してかかるのだ。娘には、護る者がついている」
その言葉は、自分自身にいいきかせているとも取れた。
「少なくとも口伝ではそういうことになっている。ゆえに、室町の世では、われらは一度、苦汁を飲まされることとなった。かの時の轍は二度と踏むわけにはゆかぬ。いいか、二度とだ」
若者たちをにらみつける。
「わかるな」
再び、若者たちが、こくり、とうなずいた。
「それでいい」
老人は、ゆっくりと立ち上がった。
「護る者については、すでにある程度の見当はついている。であるからして、お前らは娘の探索に全力を注げ。なに、焦ることもない。時間はまだたっぷりある」
そう、たっぷりと。
老人は短くいった。
「行け」
若者たちは、一人、また一人と、部屋を出て行った。
最後の一人が地下室を出て行くと、老人は立ち上がった。
笑い出す。
低く低く。
その声は、信じられないほど禍々しかった。
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~ Comment ~
NoTitle
今更ですが、やはり読ませる何かがありますよね
この作品も
この作品が、小説になってないっていうことだと、自分のはどうなるんだっていうw
まあ、自分の場合は、いかに書かないか
それで、いかに読み手に妄想させるか
ということに主眼を置いてたりします
この作品も
この作品が、小説になってないっていうことだと、自分のはどうなるんだっていうw
まあ、自分の場合は、いかに書かないか
それで、いかに読み手に妄想させるか
ということに主眼を置いてたりします
- #12950 blackout
- URL
- 2014.02/23 22:28
- ▲EntryTop
Re: 矢端想さん
これを書いたのはだいたい、「吸血鬼を吊るせ」を書いてから、「エドさん」の初期の10篇を書き、本格的な投稿小説を書こう、としていた時期ですね。
このころはメモも日記もつけていなかったのでほとんど謎ですが、ブログを始める一年前くらいかな。
連載形式にすると全90回くらいになることに気づいた(笑) 一回をあまり長くするとかえって読みにくくなるように思えたので。うむむ。
このころはメモも日記もつけていなかったのでほとんど謎ですが、ブログを始める一年前くらいかな。
連載形式にすると全90回くらいになることに気づいた(笑) 一回をあまり長くするとかえって読みにくくなるように思えたので。うむむ。
NoTitle
「ブログ始める前」って書いてたからそんな大昔でもないんでしょうけど、なんだか文章に最近の作品ほどのスマートさがないような気がします。やっぱり若かったんだね。
作家の若い頃の作品って、荒削りでもやりたいこと全開のエネルギーがあってとても面白いものです。僕もブログのネタに困ると昔のもん引っ張り出してくるのはよくやりますので・・・。
作家の若い頃の作品って、荒削りでもやりたいこと全開のエネルギーがあってとても面白いものです。僕もブログのネタに困ると昔のもん引っ張り出してくるのはよくやりますので・・・。
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Re: blackoutさん
一部二部三部で一人称の視点を変えたことと、
文末の時制をそろえなかったことと、
ミステリ的なトリックを考えて自爆したことと、
投稿時の年齢がアラサーを越えていたことなどが原因じゃないかと思います……(汗)