「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第一部 アキラ 3

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     ここ一ヶ月、こんな夢ばかりだ。夢の中でぼくは、必ず、誰かを助けようとする、いや、誰かを助けなければいけないという衝動につき動かされている。そして、ぼくの目の前には、絶体絶命の危機に陥っているその誰か、がいるという寸法なのだ。

     今日の夢は、まだよかった。曲がりなりにも相手を助けて目を覚ますことができたからだ。

     しかし、そうでないときは……。

     思い出したくもない。断末魔の叫び声、絶望に染まった瞳、そして痛感される自分の無力さ加減。

     そんな日は、たとえ夢だとわかっていても、一日中、なにをやろうという気も出ないのだった。

     こういうことについて愚痴がこぼせる相手も沙矢香くらいしかいないし。よほどの人じゃないと、こんな話をしたら、笑われるか(だったらまだいい)、ドン引きされるか(これでもまだマシだろう)、したり顔で静養を勧められるのがオチである。

     少なくとも迫水晶本人としては、わずか十六歳でサナトリウムという名の牢獄に押し込められる気はさらさらなかった。戦前じゃあるまいし、ぼくだって青春を謳歌したいのである。

     というわけで、変な夢などひた隠しにして生活してきたが、ここまでたてつづけだと、さすがに精神衛生に悪い。強烈な睡眠薬で、夢など見ずに朝まで眠れるやつを処方してもらいたいところだが、保健室の先生、許してくれるかな……。



     聞いてみるものだ。保健室で、ぼくは、「馬でも夢を見ずにぐっすり眠る」ような、きつい睡眠薬を処方してもらった。でも、ほんとにきつい睡眠薬だから、使用には注意を払えとのこと。それはそうだ。しばらくはお守り代わりに持っていて、どうしようもなくなったら使ってみよう。

     友原市は、別に県庁所在地でも、妙な名物があるわけでもない、なんの取り柄もない市である。高度経済成長時、なんということもなくベッドタウン化し、なんということもなく人口が増えたため、いつの間にやらなんということもなく市になってしまった、そんな市である。そのせいか最近の市町村合併でも、「中立地帯」みたいになってしまい、ここだけが取り残されて、ごく小さな市としてそれなりにやっている。けっこう緑が多いので、ぼくは気に入っていた。

     そんな友原市で、いちおう私立の進学校ということになっているうちの高校は、それほど部活動には熱心ではない。そんな校風のほうが、変に好きでもないスポーツやら音楽やらをやらされるよりは、はるかにマシだと思う。かくして、ぼくも例に漏れず、帰宅部に入っていた。

     さりとて、家に帰ったところで、宿題以外のガリ勉をするわけではない。親はもとから、塾に行けなどとはいわない人間だし、だいいち、ぼくにもやることがある。

     ぼくの家、鹿澄神社は、小高い丘のてっぺんにある。そのため、ここにたどりつくまでには、めったやたらに長い石段を登らなくてはならない。ごく小さい頃の沙矢香が、中途で足ががくがくになり、ぼくがおぶってやらなくてはならなかったこともあったくらいの石段だ。そのときは、無事家にたどりついたものの、ぼくの足もがくがくになったのだが。

     まあ、この家で十六年も生きると、石段登りも日常生活の一部になっている。ぼくは、「ただいま」といって家の玄関をくぐった。

    「晶、遅いぞ。学校で居残りでもさせられたか、このバカ者が!」

     家の奥から大音声が響いた。齢七十五にして、元気が有り余っているぼくの祖父、迫水才蔵である。

    「居残りなんかさせられてないよ。参考書を買いに本屋に寄っただけ。買ってすぐに出てきたし、だいたい十分しか遅れてないじゃない」

     ぼくが抗議すると、祖父の声が一段と大きくなった。

    「でたらめをぬかせば、このわしをたばかれるとでも思ったか。おおかた、軟弱きわまる、チャラチャラしたつきあいでもしとったんじゃろう。ええい嘆かわしい」

     ぼくは頭を振って自分の部屋へと向かった。祖父の言葉は的を外してはいなかった。放課後、校舎の裏で、下駄箱にラブレターを入れた女の子に、つきあうわけにはいかないことを説き伏せるのがたいへんだったのだ。パターン通りに相手は泣き崩れ、パターン通りに逃げていった。新味もなければうれしくもない。結局、家まで走ることになってしまった。十分の遅れですんだのは天の助けがあったからだとしか思えない。

    「早く道場に来い」

     いわれなくても行くよ。ぼくは、制服を脱いで稽古着に着替えた。
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    ~ Comment ~

    Re: ヒロハルさん

    身体のほうは大丈夫、というかぼそぼそ書き出しているくらい元気なのですが、いま制作に取りかかっているその作品が非常に暗くて救いのない話なので、できるだけ早く終わらせて、読む人も自分も元気になる作品を書くつもりです。

    「夢逐人」は、面白く思っていただいたら続きを書きたい、という思いはありますが、何せ当時の構想がマゼラン星雲のかなたで……。

    NoTitle

    面白いです。
    limeさんのおっしゃるように今までのポールワールドと違いますね。
    地味に読み進めて見ようと思います。

    お身体の具合はいかがですか?

    Re: limeさん

    だって青春ラノベを書こうとしたんだもん(^_^;)

    当時の規定が400字詰め250枚以上350枚以下だったから、300枚ちょいですね。わたしも体力あったなあ……。

    NoTitle

    なんだか青春ラノベっぽくて、ポールさんの今までの感じとタッチが違いますよね。
    そこが一番びっくり。
    主人公がモテ系なのも。
    かなりな長編なんですね。このスピードで3か月って、何文字なんだろう。。。

    Re: ツバサさん

    まあこの夢を見ることは主人公にとっての宿命ですから(そうでないと話にならない(笑))。

    論理的に話せば相手はきっとわかってくれる、というのは希望的観測ですからねえ。たいへんだと思います。わたしには無縁の世界でしたが(^_^;)

    NoTitle

    そういう夢を見るなんて大変そうですね。
    いくら夢の中とはいえ、断末魔を聞くなんて辛そうですからね(´Д`;)

    つきあうわけにはいかないことを説き伏せる、こんな経験なかったりしますorz
    でも、実際にそういう事になったら、断るのも大変そうですね^^;

    Re: YUKAさん

    展開は王道をいくものだ、と答えておきましょう。

    当分というかあと三カ月近くはこの話が続きます。リクエストがあったら続きもなんとか思い出して書きますが。

    まだ先は長いですよ……。

    Re: 矢端想さん

    この人の場合にもある意味「最強」の切り札があるんですが、そのカードを切っても相手が降りてくれないという(笑)

    ある意味かわいそうな人でもあります。まあわたしには縁のない話ではありましたが……(^_^;)

    NoTitle

    こんばんはー。
    お久しぶりです。

    久々に来たら新しいシリーズものが始まっていました^^;
    夢逐人、プロローグから読ませて頂きました^^
    私の好きそうな雰囲気がぷんぷんするのです(笑)
    面白いですね!^^
    あれがこうなってそうなっていくのかなーと
    色々推測しながら読んじゃいました^m^
    暫くこのシリーズでしょうか?^^
    今後、続きも読ませて頂きます。

    NoTitle

    青春小説っていろいろ面倒くさくて好みじゃないんだけど・・・読みます!読んでます!

    ひとごとだけど告白を断るのってシンドイんだろうなあ。
    僕はカン違い女子からのラブレターに「結婚してます」って手紙を添えて返送したことがあります。この断り方は有無を言わさず最強(笑)。当時実際に籍入ってたからウソはついてないし。
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