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    「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第一部 アキラ 4

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     鹿澄夢刀流。ご存じだろうか。知っているような人は、とんでもない古武術マニアだから、お近づきには断じてなりたくない。

     塚原卜伝で有名な、鹿島新当流と、もとをたどれば同じ流れを汲むらしいが、ぼくも伝え聞く範囲でしか知らない。

     そんなわけでなんだが、まあ、それでもいちおう書いておくか。

     戦国時代以前の、武将が相手の首を取るために編み出された剣術(介者剣術というが、ぼくはこの呼び方嫌いだ。でも他にいい呼び名もないし)をドラスティックに転換したのが世にいう剣豪たちなのだが、そこに迫水源伍という男がいたと思ってほしい。塚原卜伝よりちょっと前に生まれているが、だいたい同時代ころの人物である。鹿島中古流(鹿島新当流はここから派生したものだ)を学び、武者修行で諸国を行脚したが、修行に疲れた厳冬のある夜、小さな村の荒れ果てた社で一夜を明かした。

     そこで奇跡は起こった。夢の中で迫水源伍は、天啓を受け、極意に至ってしまったのである。源伍はどちらかといえば求道者的で名を求める欲求にとぼしかった人物だったため、これ以上諸国を回る理由はなくなってしまった。かくしてその社の守り人になることを決意し、仕事を放棄していた神主の末裔の家から嫁をもらって自分が後を継いだ。

     これが迫水家と鹿澄夢刀流の起源である。耳にタコができるほど祖父から聞かされた話ではそうだ。よくよく考えると問題だらけの話だが、時は戦国乱世であるから、こういう無茶も通ってしまったのだろう。かつて沙矢香にこれを話したら、なんてちゃらんぽらんな先祖なの、といわれてしまった。そうかなあ? 戦国時代なんかに剣術をやっていながら、名も殺戮も求めず、平和を愛したいい人だと思うんだけどなあ。おそらく沙矢香は、剣理を会得するのにこんなに石段を登らなければならないところを選んだことに腹を立てているに違いない。でも、鳥も通わぬ山奥とか、断崖絶壁の上なんかよりはいいんじゃないのかなあ。

     その後鹿澄夢刀流は、柳生新陰流などの影響を受け、幾度も変化していくのだが、それはそれで別な話。



     急いで道場に入り、礼をした。祖父はしびれをきらせて待っていた。

    「遅いぞ晶。遅い、遅すぎる。かねてより刻限に遅れて功名を取ったのは、巌流島の宮本武蔵くらいしかおらぬ。お前いつから武蔵になった」

     ぼくは憮然としていった。

    「武蔵と小次郎の決闘って、あれって、ほんとにあったの? 前にテレビの歴史番組で、資料に書いてあることが全て正しければ、あの決闘のとき、佐々木小次郎は、よぼよぼのおじいさんだった、っていってたけど」

    「屁理屈をこねるな!」

     祖父は大喝した。その衝撃で、壁にかけられている、「精神一到」の額までもがびりびりと揺れた……ような気がした。

    「まったく口ばかり達者になりおって。その万分の一でも勉学に向ければよさそうなものを、あんな成績しか取れない身で恥ずかしくはないのか」

     成績のほうはよけいだ。中の中くらいは取っている。出来の悪い頭に生まれながらも、我ながらよくやっているほうだと思う。

     そんなことをいったら、今度は鉄拳が飛んできかねないのでやめたけれど。

     祖父の大声はまだまだ続いた。

    「まったく、その根性は、一度、徹底的に叩き直さねばならん。剣を取れ、晶。わしがじきじきに教えてつかわす。今日は、『クレハ』!」

     ぼくは壁から木刀を取った。クレハって、どう書くんだろう。ええと。呉羽、かな?

     鹿澄夢刀流を学ぶものとして、朝晩の稽古は欠かさず毎日行っているわけだが、その日の晩の稽古はやたらと厳しかった。稽古といっても実際に殴り合うわけではなく、ある決まった攻防の型を反復練習するだけだが、普通の剣道とは違って、竹刀と防具ではなく木刀や模造刀を使って、ごく普通の稽古着の上から行うので、一人で行う型稽古はともかく、二人一組になって行う、組太刀という稽古では、間違って木刀が身体に触れたときのダメージはけっこうあるのである。しかも、今日行なった組太刀の型は、ぼくも初めて見るものだったから、動きについていけないところもあるのだった。これが刃を潰された模造刀での稽古でなくて本当によかった。もしそうだったら、ぼくは骨折していたかもしれない。

     祖父が息も切らさず、「今日はここまで」といったときには、ぼくは全身の打ち身と筋肉痛で、立ち上がるのにも苦労するほどのふらふらな状態になっていた。

     これから母屋にいって夕食、ということになるのだが、なぜか今日の祖父は、常日頃のごとくさっさと道場を出ては行かなかった。

    「晶」

    「な……に……?」

     ぼくは苦しい息の下からそう答えた。

    「わしが、お前を憎んでかようなことをしていると思うか」

     なんだ、そんなことか。

    「思わ……ないよ……。感謝……してる……くらいだ……」

    「それならばよい」

     そうとだけいうと、祖父はくるりと背を向け、いつものようにすたすたと道場を出ていってしまった。

     ぼくが祖父の後を追って道場を出るには、さらに十五分の、息を整える時間が必要だった。
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