「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢逐人
夢逐人 第一部 アキラ 7
昼休み。弁当を腹に収めた後、ぼくは、沙矢香の席を訪れた。
「沙矢香」
「なに、アキラ?」
どうやって切り出したものか、つい、口ごもった。
「その、あの、なんか……」
「聞きたいことはだいたいわかるわ」
「え?」
「一時間目の数学でしょう?」
「わかったか。アクビなんかしていたけど」
ぼくは、わざと冗談めかしていった。沙矢香は、少しぼんやりした調子で答えた。
「アキラだけじゃなく、あたしも寝不足だったのよ。変な夢を見てね」
「変な夢?」
ぼくは、声が上ずってこないように気を配りながら、それでも、軽口を叩いた。
「もしかして、いやらしい夢とか?」
「見方によってはそうかもね」
おい、と心の中でつぶやいた。口の中が乾いてきた。
「火が焚かれていたわ」
「……」
「暗闇だった。とても寒かった。あたしは、朦朧としていた」
「……」
「ぴくりとも動けなかった。身体が金縛りにあったみたいに。そしてあたしは」
いうな!
「アキラと、裸で抱き合っていたのよ」
それを聞くと、ぼくは、くびすを返して、逃げ出した。
覚えがあった。夢の中で、氷柱のように冷え切った沙矢香の身体を雪の中から掘り出したぼくは、手近な洞窟までその身体を引っ張って行った。ポケットを探したら、たまたま電子式ライターがあったので、火がつくかどうか試したところ、きちんと火がおこった。これで、もしかすると命が救えるかもしれないと思い、目を皿のようにして周囲を歩き回り、貴重な高山植物を片端からむしり取って持ち帰った。まさかこんな形で自分の焚き火の腕が生かせるとは思わなかった。焚き付けに自分の下着をちぎらなければならなかったのは想定外だったが。
しかし、それだけでは心もとなかった。ぼくは、意を決して、沙矢香の服を脱がせ、自分の服も脱ぎ、意識のないその身体を抱きしめたのだった。
名誉にかけて誓っておくが、ぼくには妙な妄想を起こす精神的余裕も趣味もなかった。それが証拠に、ぼくは夜中に、はっと目覚め、境内でひとり、登校時まで模造刀を振っていたのだから。
だが、なぜ、ぼくの夢を沙矢香が見ているのか? いや、沙矢香の夢をぼくが見ているのか?
わからなかった。
「沙矢香」
「なに、アキラ?」
どうやって切り出したものか、つい、口ごもった。
「その、あの、なんか……」
「聞きたいことはだいたいわかるわ」
「え?」
「一時間目の数学でしょう?」
「わかったか。アクビなんかしていたけど」
ぼくは、わざと冗談めかしていった。沙矢香は、少しぼんやりした調子で答えた。
「アキラだけじゃなく、あたしも寝不足だったのよ。変な夢を見てね」
「変な夢?」
ぼくは、声が上ずってこないように気を配りながら、それでも、軽口を叩いた。
「もしかして、いやらしい夢とか?」
「見方によってはそうかもね」
おい、と心の中でつぶやいた。口の中が乾いてきた。
「火が焚かれていたわ」
「……」
「暗闇だった。とても寒かった。あたしは、朦朧としていた」
「……」
「ぴくりとも動けなかった。身体が金縛りにあったみたいに。そしてあたしは」
いうな!
「アキラと、裸で抱き合っていたのよ」
それを聞くと、ぼくは、くびすを返して、逃げ出した。
覚えがあった。夢の中で、氷柱のように冷え切った沙矢香の身体を雪の中から掘り出したぼくは、手近な洞窟までその身体を引っ張って行った。ポケットを探したら、たまたま電子式ライターがあったので、火がつくかどうか試したところ、きちんと火がおこった。これで、もしかすると命が救えるかもしれないと思い、目を皿のようにして周囲を歩き回り、貴重な高山植物を片端からむしり取って持ち帰った。まさかこんな形で自分の焚き火の腕が生かせるとは思わなかった。焚き付けに自分の下着をちぎらなければならなかったのは想定外だったが。
しかし、それだけでは心もとなかった。ぼくは、意を決して、沙矢香の服を脱がせ、自分の服も脱ぎ、意識のないその身体を抱きしめたのだった。
名誉にかけて誓っておくが、ぼくには妙な妄想を起こす精神的余裕も趣味もなかった。それが証拠に、ぼくは夜中に、はっと目覚め、境内でひとり、登校時まで模造刀を振っていたのだから。
だが、なぜ、ぼくの夢を沙矢香が見ているのか? いや、沙矢香の夢をぼくが見ているのか?
わからなかった。
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