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    「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第一部 アキラ 9

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     風呂から上がり、パジャマのかわりに稽古着を着て、道場へ向かった。行きがけに、廊下に掛けられた時計を見たら、すでに十一時三十分である。

     道場に入り、礼をした。

     祖父は、いつものように「遅いぞ、晶」とはいわなかった。

    「座れ」

     ぼくは正座をした。電気のない道場は、鼻をつままれてもわからないような真っ暗闇である。それでは何もできないので明かりがつけられていたが、それにしてもわずか一本の蝋燭きりだった。

     板張りの床が熱を奪っていく。ぼくにとっては、なじみの感覚だ。こんなことで苦痛を感じていたら、真冬の稽古なんてできたものではない。

     ちらりと、床に目をやった。驚いた。祖父の横には、刀が置いてあったからだ。いつも稽古で使っている木剣ではない。

     祖父はぼくをじっと見た。

    「晶、いくつになった」

    「知ってるでしょう。十六です。数えでは十七」

    「数えの十八は、来年だったか。いかんな、齡を取ると耄碌がひどくなって」

     そういうと、祖父は黙った。

     ぼくの年齢が、いったいなんだというんだろう。祖父のだんまりに、しばらくつきあうほかなさそうだ。

     すぐに終わる、とかいいながら、けっこうな時間が経ったような気がした。この沈黙を破るために、なにかいわなければと思いかけたとき、ようやく祖父が口を開いた。

    「そろそろ、お前にも、目録を許そう」

    「目録!」

     目録というのは、よそはどうか知らないが、うちの鹿澄夢刀流では、本格的な修行に耐えるための基礎的な訓練を終えたことを意味する証である。下から、目録、印可、免許、皆伝と上がっていくが、そんなことはどうでもいい。

     長年木刀を振り回していた身としては、飛び上がって喜んでもいいような話だが、話はそう簡単にすまないことは、なんとなく予想がついた。

    「権利のあるところ義務が生ずる、って、学校で習ったけど、ぼくにはどんな義務が生じることになったわけ?」

     祖父は笑わなかった。

    「最近の学校は、受験とやらばかりで、ろくなことを教えんと思っておったが、そうとばかりでもないようだの」

    「受験勉強をやるだけだったら学習塾があればそれでいい話だからね。じゃなくて、ぼくはこれからなにをやらなくてはいけないの? 単に、毎日修行に精を出せ、なんて話じゃないんでしょ?」

    「うむ」

     祖父がうなずいたのがわかった。暗闇のせいで、顔色まではわからない。

    「妙な夢を見ることはないか」

     えっ、と、口に出していた。

    「妙な夢?」

    「いやらしい夢なんかの話をしているわけではないぞ。そういう話なら学校の保健室ですることだ。わしが訊いているのは、もっと別な形の変な夢だ」

     思い当たることだらけだった。ぼくは、全部、話してみることにした。

    「一ヶ月くらい前から、毎日のように、決まった形の夢を見るようになったんだ」

     ぼくは言葉を切った。

    「でも、そういった形の夢を最初に見たのは、ぼくが小学四年生だったときなんだけど……」
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    Re: 山西 サキさん

    目録っていうのは、近代の剣道が始まる前にポピュラーだった、古武術でのランクです。入門してからある程度の基礎を学んで、師匠が「これならもうちょっと高いレベルの技を教えられる」と判断すると、「目録」という位が与えられて、より高度で実践的な技を師匠から教えてもらえるようになるわけですな。RPGのレベルアップみたいなもの……かもしれません。その次の段階が「印可」、次が「免許」、全部学び終わると「皆伝」です。だから時代劇で「剣道十段」なんて書くと不勉強がバレてしまったりもします(^^;) ちなみに別シリーズの「残念な男」は「目録」さえももらってません(^^;)

    沙矢香と晶は友人同士です。それ以上でも以下でもありません。……たぶん。

    後の詳しいことはこの第一部全27回を読んでいただければだいたいわかるのではと思います。その後で、沙矢香視点の「第二部 サヤカ」が始まりますので乞御期待。しかし、一冊の小説の中で一人称視点が何回も変わるのはやっぱりよしたほうがよかったかなあ。

    NoTitle

    沙矢香と晶どういう関係なんでしょうね?
    謎だらけの晶の家。
    夢のことや目録?
    父さんも気になるし……。
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