「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第一部 アキラ 10

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     ※ ※ ※ ※ ※



     忘れもしない。あれは小四の十月だった。翌日は、小学校の秋の遠足として、動物園へ行くことが決まっていた。ぼくは、朝が来るのを楽しみにしながら、リュックを枕元に置いて、眠りに就いた。

     どれだけ時間が過ぎたか。

     気がつくと、ぼくは、深い森の中にいた。

     なぜか、自分が夢を見ているということには気づいていた。

     夢の中でまとまらない思考の中で、たったひとつ、明瞭な考えがあった。

     助けなければならない。

     その思いが、身体を突き動かしていた。

     でも、なにを救えばいいのか。

     ぼくは四方を見回した。あやめもわかたぬ(そんな言葉、当時は知らなかったけど)闇の中、ただ木々があるばかりである。光といえば、はるか上の空からかすかにこぼれ落ちてくるものだけ。はっきりと見える範囲は、ちょっと手を伸ばせばそれで足りてしまう程度のものだった。

     だけど、ぼくには、自分も迷子になっているのだという思いはなかった。ぼくは誰かを助けるためにここにいるのであって、助けられるためではないのだ。

     今から思えば、よくもそんな誇大妄想すれすれなことを考えていたものだ。夢の中でなかったら、こんなガキなど一発ぶん殴ってやるところだと思う。

     幸い、夢の中ゆえ、周囲にはそんな大人はいなかった。ぼくは大胆にというか無謀にというか、森の中を歩き回り始めた。

     しばらく歩いていると、ぼくは、ぼんやりとした青白い燐光が灯っているのを見つけた。最初に思ったのは、しみじみと見たことはないけれど、蛍の光というのはこれなのか、ということだった。

     きれいだった。

     ぼくは、吸い寄せられるようにふらふらと歩いて行った。そこ以外に変わったものがなにもなかったというのもあるけれど。

     ある程度まで近づいたところで、燐光の中に、おぼろな影のかたまりが宿っていることに気がついた。

     影の中から、すすり泣く声がしている。

    「お母さん……お母さん……」

     かすかだが、ぼくの耳には、確かにそう聞こえた。

     声は、ぼくを正気(あくまでも夢の中での話だが)に戻した。

     ぼくが助けなければいけないのは、この人なんだ!

     走り出していた。実際に真っ暗な森の中なんかで走ったら、足を根に取られたりして危険極まりないのだが、そこはそれ、夢の中だし。

     ぼくは燐光によって身体が照らされるところまで近寄った。光は思ったより強かった。まぶしさに目をしばたたく。

     確かに、その中には影があった。声もはっきりと聞こえる。

    「お母さん……お母さん……」

     ぼくは光の中に手を突っ込んでいた。考えてそうしたわけではない。そうすべきだ、という内なる衝動に従っただけだ。

     光は、ぼくの身体を焼いたりはしなかった。冷たくはない。むしろ、ほのかに温かかった。あえて例えるなら、陽だまりのような。

     影に右手で触れた。

     飛び上がりそうになった。

     冷たい!

     光とのギャップがすごかった。まるで、ケーキの保冷に使っているドライアイスに遊びで触ったときのような感覚である。冷たいというよりもむしろ、痛いといったほうが正確だった。

     ぼくは、奥歯を噛み締めて冷たさに耐え、影の中にじりじりと右手を沈めていった。体温がどんどん奪われていく。

     手が、なにかに触れた。とっさにつかむ。

     人の腕……?

     強く握って、思い切り引っ張った。

     ものすごい抵抗を感じた。ぼくは、それでも小学四年生に能う限りの力で引きずり出そうとした。そのときの情景を簡単に表現すれば、絵本「おおきな かぶ」がぴったりだったろうか。『うんとこ どっこい どっこいしょ。まだまだ かぶは ぬけません』……ブラックすぎるが、まさにそんな感じだった。

     影を割って、つかんでいるものが姿を現した。それは、確かに、人の腕だった。ぼくと同じくらいの歳の子供の腕だ。ぼくは左手を伸ばし、両手でつかんだ。

     力いっぱい引いたが、抵抗もより強くなり、膠着状態になった。
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