「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢逐人
夢逐人 第一部 アキラ 12
いや、根拠はあったか。内なる声が、助けられる、助けられる、と、ぼくに繰り返し繰り返し呼びかけ続けていたから。
「でも……」
「ここにいたって、なにも変わらないよ。変わらないどころか、取り残されたまま、ひとりぼっちになって死んじゃうよ」
「……」
「それが嫌だったら、ぼくと来るんだ!」
ぼくは、がくがくと、ノゾミちゃんの肩を揺すぶった。
ノゾミちゃんは、ためらっていたが、やがて、
「……うん」
と、うなずいた。これが現実世界での話だったら、ぼくは相当恐い顔をしていたのかもしれない。
「よし。じゃあ、行こう。手を引いてあげるから」
ぼくはノゾミちゃんの手を取ると、適当な方向に向かって歩き出した。まっすぐ歩けばどこかにつく、と思ったのである。ガキはやはりバカであった。
歩いているうちに落ちてきた沈黙に耐えられなかったのと、道がまったくわからない、ということを覆い隠すために、ぼくは話しかけた。
「お母さん、っていってたけど、なにかあったの?」
「死んじゃったんだ、お母さん」
「そうだったんだ……」
「お父さんも、家族みんなが、厳しくて……居場所なんてどこにもなくて」
ノゾミちゃんの声に嗚咽が混じった。森の闇も、いくらか濃くなった気がする。気のせいだとは思うけど。
ぼくは、かけるべき言葉を捜してしばし黙った。
「ノゾミちゃん」
「……?」
「武術を、やりなよ。剣術でも、柔術でも、なんだっていいからさ。そうすれば、強くなれるから」
夢の中の人間になにをいっているのか、と、目が覚めてから思ったが、そのときは真面目だった。ぼくは、祖父から聞かされた、『武術を学んで精神的に強くなった達人たち』の話をかたっぱしからしゃべってきかせた。
ノゾミちゃんも、だんだんと乗り気になってきたようだ。
「本当に、できるかな……?」
「できるよ」
ぼくがそう答えると、ノゾミちゃんの顔が心なしか、明るくなったように見えた。
「やってみようかな?」
「それがいいよ」
周囲が明るくなってきた。森の出口が近いのか?
「出口が近いみたいだ。もうひとふんばり!」
「うん!」
ぼくたちは、森の切れ目までの、わずかな距離を、それこそピクニックみたいにして歩いた。
※ ※ ※ ※ ※
「でも……」
「ここにいたって、なにも変わらないよ。変わらないどころか、取り残されたまま、ひとりぼっちになって死んじゃうよ」
「……」
「それが嫌だったら、ぼくと来るんだ!」
ぼくは、がくがくと、ノゾミちゃんの肩を揺すぶった。
ノゾミちゃんは、ためらっていたが、やがて、
「……うん」
と、うなずいた。これが現実世界での話だったら、ぼくは相当恐い顔をしていたのかもしれない。
「よし。じゃあ、行こう。手を引いてあげるから」
ぼくはノゾミちゃんの手を取ると、適当な方向に向かって歩き出した。まっすぐ歩けばどこかにつく、と思ったのである。ガキはやはりバカであった。
歩いているうちに落ちてきた沈黙に耐えられなかったのと、道がまったくわからない、ということを覆い隠すために、ぼくは話しかけた。
「お母さん、っていってたけど、なにかあったの?」
「死んじゃったんだ、お母さん」
「そうだったんだ……」
「お父さんも、家族みんなが、厳しくて……居場所なんてどこにもなくて」
ノゾミちゃんの声に嗚咽が混じった。森の闇も、いくらか濃くなった気がする。気のせいだとは思うけど。
ぼくは、かけるべき言葉を捜してしばし黙った。
「ノゾミちゃん」
「……?」
「武術を、やりなよ。剣術でも、柔術でも、なんだっていいからさ。そうすれば、強くなれるから」
夢の中の人間になにをいっているのか、と、目が覚めてから思ったが、そのときは真面目だった。ぼくは、祖父から聞かされた、『武術を学んで精神的に強くなった達人たち』の話をかたっぱしからしゃべってきかせた。
ノゾミちゃんも、だんだんと乗り気になってきたようだ。
「本当に、できるかな……?」
「できるよ」
ぼくがそう答えると、ノゾミちゃんの顔が心なしか、明るくなったように見えた。
「やってみようかな?」
「それがいいよ」
周囲が明るくなってきた。森の出口が近いのか?
「出口が近いみたいだ。もうひとふんばり!」
「うん!」
ぼくたちは、森の切れ目までの、わずかな距離を、それこそピクニックみたいにして歩いた。
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