「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢逐人
夢逐人 第一部 アキラ 13
「……そこで、森を抜けたところで、目を覚ましたんだ」
変に長くなったかな。でも、昨日のことみたいによく覚えているんだから、しかたがないよね、と、脳裏でいいわけして、祖父の目を見た。
道場は真っ暗だったが、祖父の目に映る光は、ぼくの話を疑っているようには見えなかった。
「それだけか」
「いや、これだけじゃないよ。これ以来、三ヶ月から半年にいっぺんくらいの割合で、同じような夢をみるようになったんだ。夢の中で、ぼくは、誰かを助けよう、救おうという思いに燃えているんだ。そして、目の前には」
「救いを待っている人がいる、というのだろう」
「そうだよ。ぼくは、夢の中で人を助けるために、熱を入れて、鹿澄夢刀流を学ぶようになったんだ。あの女の子も、投げ技を知らなければ助けられなかったわけだしね。でも、こんな話、信じてくれるの?」
「もちろんじゃ。それとも、疑っているように見えるか」
「……見えない」
「続けてくれんか」
ぼくは、促されて続きを話した。ここ一ヶ月になって、立て続けにこういう夢を見るようになったこと。そしてゆうべは、沙矢香の夢を見たこと……。
「なんと、沙矢香ちゃんのか」
「うん。こんな夢を見たことで、ぼくは、今日は一日睡眠不足さ」
「よくやった」
「え? ちょっと待ってよ。ぼくは……」
「そういう話をしているのではない。わしは嬉しいのじゃ。お前が、親しい誰かを夢の中で救えた、というとがな」
「誉めてくれるのは嬉しいけどさ。だけど、これは、夢の話だよ。現実じゃなくて」
「わかっておる」
「本当に?」
「お前に、もう一度問う。わしが嘘をついているように見えるか?」
「見えないよ」
そう答えざるを得なかった。
「でも、なんで? 昔から、ぼくが理屈に合わないことをいったら、容赦なしに毒舌をぶつけていたじゃない。それが、急に」
「晶」
祖父は、頭を下げた。
「すまぬ」
「ど、どうしたの。らしくないよ」
突然にいわれて、かえって、ぼくのほうが、慌ててしまった。
祖父は真剣だった。
「わしの過ちじゃ。お前には、もっと早くに伝えておかねばならんかった」
「えっ」
祖父は、昔から、ぼくにこのようなことが起こることを知っていたのだろうか? だとしたら、それをなぜ黙っていたのだろう?
「このためには、鹿澄夢刀流のそもそもの成り立ちから話さねばならん。晶、心して聞くのだ」
ぼくは身を引き締めた。
「まずは、剣理開眼の夜、開祖の身に起きたことを話そう」
「開祖に?」
「そうじゃ。ご先祖様はな……」
祖父に聞いた話によると、こうである。
迫水源伍は、剣の道に迷っていた。道を極めんとして諸国を遍歴し、知る人からは、達人などと呼ばれていたものの、その悩みは深刻だった。
その悩みとは、こうだ。木剣にしろ真剣にしろ、これまでの鍛練の道具としては、いずれも限界があるという事実である。
竹で剣を試しに作ってもみたが、これもまた意にそぐうものではなかった。
源伍は思った。
「真剣を用いて斬れば、相手を殺してしまう。木剣でも力を込めて打てば、相手を殺すなり、不具にしてしまうことがないともいえぬ。さりとて竹では、軽すぎて、わしの修行の役には立たぬ。いかにすべきか……」
これは、迫水源伍自身の、修行観にも原因があった。
「真に打たれずして真に打つことを学ぶことはできぬ。真に斬られずして真に斬ることを学ぶことはできぬ」
と、いうのがそれだ。
真面目な人だったのだろうが、それにしても極端な考えだ。
悩みぬいて数年、遍歴の最中に立ち寄ったのが、この神社だった。
守るものもなく荒れ果てた社で、源伍はなにを思って眠りに就いたのか。
「ここからが本題じゃ。ゆめゆめ他人に告げることまかりならんぞ」
祖父は低い声でいった。
ぼくは、つばを飲み込んだ。
変に長くなったかな。でも、昨日のことみたいによく覚えているんだから、しかたがないよね、と、脳裏でいいわけして、祖父の目を見た。
道場は真っ暗だったが、祖父の目に映る光は、ぼくの話を疑っているようには見えなかった。
「それだけか」
「いや、これだけじゃないよ。これ以来、三ヶ月から半年にいっぺんくらいの割合で、同じような夢をみるようになったんだ。夢の中で、ぼくは、誰かを助けよう、救おうという思いに燃えているんだ。そして、目の前には」
「救いを待っている人がいる、というのだろう」
「そうだよ。ぼくは、夢の中で人を助けるために、熱を入れて、鹿澄夢刀流を学ぶようになったんだ。あの女の子も、投げ技を知らなければ助けられなかったわけだしね。でも、こんな話、信じてくれるの?」
「もちろんじゃ。それとも、疑っているように見えるか」
「……見えない」
「続けてくれんか」
ぼくは、促されて続きを話した。ここ一ヶ月になって、立て続けにこういう夢を見るようになったこと。そしてゆうべは、沙矢香の夢を見たこと……。
「なんと、沙矢香ちゃんのか」
「うん。こんな夢を見たことで、ぼくは、今日は一日睡眠不足さ」
「よくやった」
「え? ちょっと待ってよ。ぼくは……」
「そういう話をしているのではない。わしは嬉しいのじゃ。お前が、親しい誰かを夢の中で救えた、というとがな」
「誉めてくれるのは嬉しいけどさ。だけど、これは、夢の話だよ。現実じゃなくて」
「わかっておる」
「本当に?」
「お前に、もう一度問う。わしが嘘をついているように見えるか?」
「見えないよ」
そう答えざるを得なかった。
「でも、なんで? 昔から、ぼくが理屈に合わないことをいったら、容赦なしに毒舌をぶつけていたじゃない。それが、急に」
「晶」
祖父は、頭を下げた。
「すまぬ」
「ど、どうしたの。らしくないよ」
突然にいわれて、かえって、ぼくのほうが、慌ててしまった。
祖父は真剣だった。
「わしの過ちじゃ。お前には、もっと早くに伝えておかねばならんかった」
「えっ」
祖父は、昔から、ぼくにこのようなことが起こることを知っていたのだろうか? だとしたら、それをなぜ黙っていたのだろう?
「このためには、鹿澄夢刀流のそもそもの成り立ちから話さねばならん。晶、心して聞くのだ」
ぼくは身を引き締めた。
「まずは、剣理開眼の夜、開祖の身に起きたことを話そう」
「開祖に?」
「そうじゃ。ご先祖様はな……」
祖父に聞いた話によると、こうである。
迫水源伍は、剣の道に迷っていた。道を極めんとして諸国を遍歴し、知る人からは、達人などと呼ばれていたものの、その悩みは深刻だった。
その悩みとは、こうだ。木剣にしろ真剣にしろ、これまでの鍛練の道具としては、いずれも限界があるという事実である。
竹で剣を試しに作ってもみたが、これもまた意にそぐうものではなかった。
源伍は思った。
「真剣を用いて斬れば、相手を殺してしまう。木剣でも力を込めて打てば、相手を殺すなり、不具にしてしまうことがないともいえぬ。さりとて竹では、軽すぎて、わしの修行の役には立たぬ。いかにすべきか……」
これは、迫水源伍自身の、修行観にも原因があった。
「真に打たれずして真に打つことを学ぶことはできぬ。真に斬られずして真に斬ることを学ぶことはできぬ」
と、いうのがそれだ。
真面目な人だったのだろうが、それにしても極端な考えだ。
悩みぬいて数年、遍歴の最中に立ち寄ったのが、この神社だった。
守るものもなく荒れ果てた社で、源伍はなにを思って眠りに就いたのか。
「ここからが本題じゃ。ゆめゆめ他人に告げることまかりならんぞ」
祖父は低い声でいった。
ぼくは、つばを飲み込んだ。
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~ Comment ~
はじめまして
ちょこちょこお邪魔していましたが、コメントは初めてさせていただきます。
「夢逐人」面白いですね。ここまで一気に読み進めてしまいました。
しばらく続きを読みにお邪魔させていただきます。
「夢逐人」面白いですね。ここまで一気に読み進めてしまいました。
しばらく続きを読みにお邪魔させていただきます。
- #14040 椿
- URL
- 2014.09/15 12:58
- ▲EntryTop
Re: ヒロハルさん
面白いと思ってくださって嬉しいです(^_^)
まあこの後、事態は動くのですが、地味……かもしれません(汗)
最後まで楽しんでいただけたら幸いであります。来月半ばには再アップも終わると思います。
我らが晶の明日はどっちだ。
まあこの後、事態は動くのですが、地味……かもしれません(汗)
最後まで楽しんでいただけたら幸いであります。来月半ばには再アップも終わると思います。
我らが晶の明日はどっちだ。
NoTitle
わー、ちょっとだけお邪魔するつもりが結構ハマってしまいました!
先がすんげー気になりますが、敢えてここで止めとくことにします。
続き期待してます。どこに着地するのかなあ。
先がすんげー気になりますが、敢えてここで止めとくことにします。
続き期待してます。どこに着地するのかなあ。
- #13021 ヒロハル
- URL
- 2014.03/17 23:05
- ▲EntryTop
Re: ツバサさん
極端なまでにマジメな人だったんでしょうね。こういう人を怒らせると怖い(^_^;)
話が動くのは第二部からです。
この構成も「小説になってない」と呼ばれた原因かもしれません。(汗)
話が動くのは第二部からです。
この構成も「小説になってない」と呼ばれた原因かもしれません。(汗)
NoTitle
ご先祖様の話に入ると、一気に物語が進むような感じになりますね~。
「真に斬られずして真に斬ることを学ぶことはできぬ」
極端と言えばそうですが、何を学んだり、会得するためには、
こういう極端さも大事なんでしょうね(`・ω・´)
「真に斬られずして真に斬ることを学ぶことはできぬ」
極端と言えばそうですが、何を学んだり、会得するためには、
こういう極端さも大事なんでしょうね(`・ω・´)
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Re: 椿さん
この作品は、前に「小説になってない」とけちょんけちょんな評価を出版社の新人賞担当につけられ、封印していたのでありますが、出してみると意外とウケがいいので、気をよくして続編にまで手を付けてしまいました。現在執筆中ですが、かなりの難物、というよりも作者のわたしのほうの体力が落ちたらしい。
まあいろいろと仕掛けを凝らした小説でもありますので、どうか、よくよく注意してお読みになってくださいね~。