「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第一部 アキラ 14

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    「修行に疲れた身体で、開祖は眠りに落ちた。はっと気がつくと、茫漠たる霞の中、白い光に包まれた世界が広がっておった。そして、光の中から、声が聞こえた。

    『源伍よ……』

     その声の神々しさに打たれて、開祖は、はっと平伏した。

    『面を上げよ。吾は武甕槌なり』

     開祖が顔を上げると、そこには、武具を身につけた、黒面の男が立っていた。

    『抜け、源伍』

     自分の腰を見ると、そこには大小が差してある。だが、神の前で剣を抜いていいものか、開祖はためらわれた。

    『恐れるな、源伍。ここは現世にあらず、来世にあらず、夢なり』

     開祖がまだためらっておると、武甕槌神は諭すようにいわれた。

    『夢なれば、斬りながら斬らず、斬られながら斬られず、死にながら死なず、ひたすらに剣を交えるのみ。いざや秘剣を授けん。立つべし』

     その言葉を聞いて、開祖は迷いが全て消え去るのを感じた。夢であれば、自分が望む修行ができるのだと。

     かくて刀を抜いて向かい合った開祖は、夢の中で武甕槌神に斬られること二千八百五十七度にして、武甕槌神を斬り、ついに剣理を会得した」

     祖父は言葉を切った。

    「わかるな、晶。鹿澄夢刀流の、鹿澄とは、鹿島の澄んだ水、というだけにとどまらず、開祖がごらんになられたあの霞をも指すのじゃ。夢刀についてはいうまでもなかろう。このことを忘れるでない」

    「はい」

     ぼくは、なんとなく不満だった。あの奇妙な夢についての話があると思ったのに、そんなこともなくて、ただの先祖の武勇伝じゃないか。夢の中でタケミカヅチノカミと斬り合う、というのは少々珍しいかも知れないが、全般的にはさほど特徴のある話とも思えない。

     祖父はそんな心を読んでいたかのようだった。

    「晶。いぶかしむ気持ちはよくわかるが、この話にはまだ続きがある。鹿澄夢刀流の目録とは、これを聞く資格といい換えても過言ではないのじゃ」

    「……」

    「ついに剣理を会得された開祖に、夢の中で、武甕槌神は優しく声をかけられた。

    『源伍よ』

    『ははっ』

     開祖は再び平伏された。

    『汝に剣を教えたるは戯れにあらず。汝を夢逐人とするためなり』

     と、武甕槌神はおっしゃられた」

     ぼくはわけがわからなくなった。ユメオイビト? なんだそれ? 古い歌にあった一節が頭に浮かぶ。『♪夢追い人はあ、グラスのお、酒とお、思い出をお、飲み干してえ』

    「晶」

    「は、はい」

    「夢逐人、とは、夢に、駆逐艦の逐、そして人と書く。書けるか?」

     逐ってどういう字だったっけ。思い出すまでに少々時間がかかった。

     ぼくから素早く返事が返ってこなかったからか、祖父は、あきらめたように吐息をついた。

    「……まあよい。後で辞書を引いておけ。さて、夢逐人だが」

     武甕槌神が語ったところによると、夢逐人とは、

    「悪夢を逐い、祓う者のことをいうのじゃ」

    「悪夢を逐う?」

    「夢逐人は、眠りに落ちると、自分のではない夢を見る。それがどこの誰かはわからぬことが多いが、必ず、夢の中に出てくる人間は生死のただなかにいる」

     ぼくの心の中に、これまでに見た数々の夢がフラッシュバックした。

    「じゃ、じゃあ、これまでぼくの見た夢というのは?」

     祖父はうなずいた。

    「全て、他の人々の見ていた夢じゃ」

    「沙矢香のも……」

    「無論、その通り。わかっておったのだろう?」

    「……」

     ぼくは、顔を赤らめた。
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    Re: カテンベさん

    痛いけれども痛くない、怖いけれども怖くない、ある意味非常にクリアな視点から自分を見られる境地まで達するのが目的の修行なのでしょう。究極のイメージトレーニングというか。

    「葉隠」の佐賀藩の武士は毎朝自分の最期をイメトレすることによっていつでも命を断てる覚悟を決めたそうですが、それに通ずるものがありますね。(というかそこから思いついて書いたんですが(^_^;))

    その修業って

    相応の痛みは感じたのでしょうか?
    死ぬだろう手傷を際限なく受け続けたなら、精神を病んでしまいそうな気もしますし
    痛みがないなら、斬られても斬られても斬りかかることができる、というのは斬られる恐怖なしに斬りかかることになりそうで、役に立つもんなのやろか?とも思えたのですが、どんなもんでしょう?
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