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    「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第一部 アキラ 16

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     あの殺気!

    「あれは、いったい、なんなの? ぼくの夢と、いや、夢逐人と、どういう関わりがあるの?」

    「敵じゃ」

    「敵?」

    「すぐにわかることになる」

     謎めいたいいかたに、ぼくはじりじりするものを感じた。

    「知っているんだったら教えてよ!」

    「教えたところでどうにもならん。むしろ重要なのは、お前がそのときにどうするかのほうじゃ」

     祖父は床の刀を取った。持ち上げられたそれは、脇差程度の長さだった。

    「これを授けよう」

     ぼくは刀を受け取った。その意外な重さに、思わず、取り落としそうになった。

    「これは!」

     祖父は静かにいった。

    「『影切』じゃ」

     ぼくは剣の重さを確かめるように押し戴いた。

    「これは、真剣?」

    「無論じゃ。切れもせぬ刀を先祖代々受け継ぐほど、我が迫水家は酔狂でも裕福でもない」

    「裕福じゃないのは知ってるけどさ」

     ぼくは刀の鯉口あたりに触れた。紐で縛られている様子はない。

     喉が、ごくりと鳴った。

    「抜いていい?」

    「かまわん」

     ぼくは、模造刀を抜いたことはある。というか、うちの流派の稽古は、木剣じゃなかったら模造刀、という世界だから、刀は抜けてあたりまえなのだが、実際に真剣を抜くのは初めてだ。

     息をかけないように注意しながら、刀をするりと抜いた。

     いわゆる、赤いわし、というやつかと思ったのだが、蝋燭の明かりで冷たく輝くその刀には、錆など少しも浮かんでいるようには思えなかった。かなり古いものらしいが、長い年月に渡って、欠かさず手入れがなされてきたのだろう。

     緊張のあまり、刃に心が吸い込まれそうになるのを抑えつつ(笑うかもしれないが、ぼくにはそんなふうに思えてならなかったのだ)、ぼくは再び刀を鞘に納めた。

    「どうじゃ」

    「抜くだけで疲れるよ。魂が、持っていかれるかと思った」

     ぼくは正直にそういった。

    「でも、この刀は、どうしたの?」

    「ご神刀じゃ」

    「これが? 冗談はやめてよ。うちの神社のご神体の刀は、たしか直刀だったはずじゃない。そりゃ、ぼくも、話に聞かされただけだけどさ」

    「あちらではないわ。あちらは、ここの神社自体に伝わるものだが、こちらは鹿澄夢刀流に伝わるもの、この差をよく考えろ」

    「はい」

    「それでいい。では、この刀の来歴を語ってやろう」

     祖父の話によると、迫水源伍は、武甕槌神の言葉を承諾した。すでに剣理を悟った以上は、もはや世俗の栄華や栄達といったものに興味がなくなっていたのである。武甕槌神も、源伍がそういう人間だったから、奥義を授けようという気になったのだろう。

     また、もうひとつの理由もあった。もしも武甕槌神の言葉を断れば、

    『殺される……!』

     という、確信を伴った恐怖感が、身体の底からこみあげてきたからだ。武芸者として、幾多の死地を乗り越えてきた者のカンだけに、疑えるものではなかった。夢の中であるから、殺されはしないまでも、まともな形で目覚めるのは不可能であろう。

     武甕槌神は、源伍のおびえに気づかないかのように、声の調子を変えずに続けた。

    『源伍よ、お前は明日の朝、ここを発ち、北へ、二十里のところにある小さな村の刀鍛冶を尋ねよ。そこでお前は一人の女人に出会うであろう。かの者こそ、この社で我らに仕えし一族の裔にして、神器を守るものなり。お前がたどり着いた頃、その養い親は神意に導かれ、大小の刀と、小柄を打ち終えておる。大刀は『闇切』、小刀は『影切』、小柄は『影縫』と覚えよ。神器と刀とを受け取りし後、再びこの社に帰り来たれ。来たりし朝に、両手に闇切と影切を構え、額の鉢巻に影縫を差し、朝日に向かいて立て。そのとき一陣の風が鹿島より吹くであろう。それが吾である』

     武甕槌神はゆっくりと消えていった。

    『ゆめゆめ忘れるなかれ』

     その言葉を残して。

    「……そして、その御言葉にしたがって、開祖が刀鍛冶から手に入れたのが、我が家に代々伝わる、闇切と影切、そして影縫というわけじゃ」

     祖父は重々しくいった。

    「もしかして、その女人というのは?」

    「開祖の奥方じゃ。同じく、わしらのご先祖様ということじゃな」

    「そんな由緒のある刀、受け取るなんて荷が重いよ」

    「黙って受け取れ。後、それから」

    「?」

    「毎晩、その刀を抱いて寝ろ」

     ちょっ……。

    「抱いて寝るって? これ、真剣だよ? それも先祖伝来の、よくいう、家宝みたいなものじゃない」

    「今後、お前と半生を共にすることになるつれあいじゃ。そう邪険にするでない」

    「邪険って」

     ぼくはもう一度手もとの刀、影切を見た。これを抱いて寝るの? 本当に?

    「わしの話はこれで終いじゃ。今日はもう寝ろ。刀を抱くのを忘れるな」

     刀をねえ。

     結局、聞きたいことの一部をあいまいに濁したまま、祖父の話は終わった。
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    ~ Comment ~

    Re: らすさん

    ここまでお読みくださってありがとうございますm(_ _)m

    とりあえず武器がなければ防御のしようがないですからねえ。というより「ナイトメアハンターがやりたかった」んでしょうね当時は。

    「吸血鬼を吊せ」を書いたときにはゲーム会社にメールしたこともありまし(恥ずかしい過去……)。

    まあ人生いろいろありまして(^_^;)

    この小説もこれからいろいろありますので乞御期待(^_^)/

    NoTitle

    こんにちは(^Д^)

    このシリーズの最初から読ませていただきました。
    さすがですね~
    グイグイと引き込まれましたヽ〔゚Д゚〕丿

    刀を抱いて寝るのは、
    夢の中に刀を持ち込み、自分を護るためでしょうか?
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