「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第一部 アキラ 17

     ←夢逐人 第一部 アキラ 16 →夢逐人 第一部 アキラ 18
     だまされたと思って、刀を抱いて寝ることにした。カッコ悪いったらありゃしない。それでもやることにしたのは、ぼくが、長幼の序というものを心得ている、今どき珍しい感心な高校生だからだ。

     それにしても、『夢逐人』だって? こんな話、沙矢香の一件がなければ、絶対に信じないところだ。しかし、父さんの入院や、いくつもの夢、それに、ぼくを今日まで鍛えてきたという事実とが、強固にからまりあって、信憑性という構造物をしっかりとこしらえている。やはり、信じるべきだろう。

     布団の中でちょっともやもやとしたが、朝晩と何時間も剣を振ったのだ。身体には疲れがしみついていた。

     睡眠薬を飲むのはすっかり忘れていた。ぼくは、いつの間にか眠りに落ちていた。



     助けて……助けて……助けて……。

     頭の中で反響する内なる声に、ぼくは気がついた。

     ……どこだ、ここは。

     ぼくが立っていたのは、巨大な緑色のラシャのようなものが敷きつめられた、闘技場めいたところだった。ガラスなのかプラスチックなのか、驚くような高さの半透明の外壁が、アイスホッケーのリンクのように周囲を取り囲み、地面にはなにか、文字や図形のようなものが書いてある。文字はアルファベットのようだが、大きすぎて、ぼくにはなにが書いてあるのかわからなかった。それに英語、苦手だし。

     ぼくは完全な和装をしていた。羽織袴である。それも、雲母でも散らしてあるのか、澄み切るようなスカイブルーの地に、きらきら輝く、たなびく雲の刺繍まで施されていて、めちゃくちゃ派手だ。どちらかといえば渋好みのぼくとしては、夢の中くらい、もっとスマートな格好をしたいところだ。これじゃあ、よくても三流時代劇のヒーローの侍、悪けりゃバラエティーに出てくるバカ殿様じゃないか。頭に手をやると、ちょんまげなどではなく、いつもの自分の髪型であることがわかった。ほっ。

     でもなんでこんな格好を?

     考えながら、腰に目を落として、大刀が一本たばさんであるのを見つけ、より気分が重くなった。どうして刀が一本なんだ。この姿じゃ、大小の二本が普通だろう。

     一本?

     いやーな予感がした。

     ぼくは、腰の大刀を、するりと抜いた。

     闇夜で、蝋燭の光の中で見ただけだが、その刃から感じる、鋭さのなかにも硬さを秘めた気配は疑いようがなかった。

     これはあの脇差、『影切』だ!

     なぜ、ただの小刀がこのような大刀に変化しているのかまではわからなかったが、祖父がぼくに、あの刀を抱いて寝ろ、といったわけはわかったような気がした。

     これを知っていたに違いない。だったら、もったいぶらずに教えてくれてもよさそうなものじゃないか。

     ぼくは影切を鞘に納めた。

     武器ができたことはありがたいが、いったいこれがなんの役に立つんだ。

     助けて……。

     はっとした。自分の異装に驚いて、そちらに気をとられていたが、ここにも、助けを求めている人がいるのだ!

     でもどこに?

     それらしい人は見えない。だが、どこかに必ずいるはずだ。

     とりあえず、この闘技場の端のほうにでも行ってみるか。そこから眺めれば、全体を客観視できるかもしれない。あの透明な壁の材質も気になるし。

     ぼくは一歩を踏み出した。

     そのとたんだった。

     強烈な光が照りつけてきた。咄嗟に上を向くと、ガスタンクみたいに大きなライトがいくつも、ぼくをにらんでいる。

     同時に、ものすごい喧噪がぼくを包んだ。なんだろう、これは? パチンコ屋? とも違う。

     英語とおぼしき話し声が聞こえた。なんていっているのかはわからない。ヒアリングのテストは赤点すれすれだったうえに、ものすごい早口で、スラング(ファッキン、くらいはぼくにもわかる)まみれのブロークン極まるものだったからだ。

     自分の学業の不足を後悔している暇はなかった。

     頭の上からなにか、巨大な二つの黄色いものが飛んできたのだ! 隕石のような勢いで壁にぶつかると、跳ね返って、今度はこちらの方向へと向かってくる。

     とっさに大きく避けた。そいつは、ぼくの横を猛烈なスピードで転がっていった。あんなのにぶち当たられたら、人間など簡単に押しつぶされてしまうだろう。いったい、なんだ、あれは?

     黄色く透き通った二つの巨大な立方体。その一つ一つの面にはいくつもの黒丸が。ゼリー、じゃないな。プラスチックのような光沢があることを考えると、あれは。

     ぶるっと頭を振った。助けてほしいのは、こっちのほうだ。あれは、巨大な、サイコロじゃないか!

     サイコロが止まると、喧噪のなかに嘆息めいたものが混じった。ぼくもまた、息をついた。

     だがそれで終わりではなかった。

     頭上から、これまた巨大な、毛むくじゃらの腕が伸びてきて、止まったサイコロをむんずとつかんだのだ。

     冗談はよしてよ!
    関連記事
    スポンサーサイト



     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【夢逐人 第一部 アキラ 16】へ  【夢逐人 第一部 アキラ 18】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【夢逐人 第一部 アキラ 16】へ
    • 【夢逐人 第一部 アキラ 18】へ