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    「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第一部 アキラ 18

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     願いもむなしく、またしてもサイコロが……降ってきた。壁に当たって、ごろんごろんと。うなりを上げているように思えたのは、ぼくの気のせいだけでもないと思う。

     でも、どこへ逃げればいいんだ? 講談に出てくる剣聖、塚原卜伝のように『天狗飛び切りの術』でも心得ているならば、あの高い外壁を飛び越して、外へと抜けられるかもしれないが、あいにくとぼくは、もっと現実というものにシンパシーを抱くタイプの高校生なのだ。

     その間にも、ぼくの中の冷静な部分は、自分の周りでいったいなにが起こっているのかを分析していた。これは、クラップスに違いない。欧米で行われているサイコロ賭博だ。前に、アメリカの連続アクションドラマの中で見た。アメリカにも丁半賭博があるのか、と面白がって、沙矢香の家のインターネットで調べてみたので記憶に残っていたのだ。丁半賭博とはシステムが違い、一回の勝負が決まるまで何度でもサイコロを振るところに特徴が……。

     何度でも?

     そうだった。サイコロを避け、一息ついたと思ったら、舌打ちとともに、ぬっと伸びてきた手がサイコロをつかみ、そして再び。

     やめてったら!

     ぼくはせめても、端のほうに逃げようとした。壁とサイコロにはさまれて圧死する危険はあったものの、そちらのほうが、サイコロが転がってくる確率は低いだろうと思ったのだ。

     よく考えてみると愚かな選択だった。それは確かだ。どこにいたところでサイコロがやってくる可能性は似たようなものだ。数学や化学といった理数系が赤点すれすれのぼくには、そんな当たり前のことすらわからなくなっていたのだ。やっぱり勉強はよくやっておくべきである。

     しかし、それだけには終わらなかった。

     サイコロは、少しずつ、少しずつ、じわっじわっとぼくのほうへと方向を微妙に変え始めたのである!

     最初は、偶然だと思った。

     だが、次第に端のほう端のほうへと追い詰められていくに従い、確信せざるを得なかった。

     こいつらは意思を持っているのだ!

     巧みな連携プレーの軌道が目に見える気がした。すり抜ける道を探したが、見出せなかった。心憎いほどの絶妙さで、進もうとする先をふさいでいく。

     ぼくは一瞬、頭がパニックになりかけた。理性が弾け飛びそうになる。

     それがよかった。

     ぼくの身体が、反射的に動いた。祖父や父から、十年以上に渡って叩き込まれた動きだった。

     腰の刀に手をやる。

     一連の動作を終えたとき、ぼくは、身体の中に、なにか、「力」のようなものが流れてくるのに気づいた。

     噂に聞く、「気」とは、こういうものなのか? いや、そんなものではないだろう。修行の足りないぼくに、「気」なるものを理解できるはずもない。少なくとも、鹿澄夢刀流でいうところの「気」は。

     これは、もっと別な、なにかだ!

     気分が高揚する。

     おおかたの古武術の例に漏れず、鹿澄夢刀流も剣術のみにとどまらず、小大刀、槍、なぎなた、柔術、鎧通しなどを包含した総合的な武術体系をなしている。剣術が基本なので日々振っているのは木剣だが、その他のものも初歩的なものだったら身体に叩き込まれていた。

     そんな中で、ぼくが一番好きで、ある程度の才能もあるのではといささかうぬぼれているのが、抜刀術だった。いわゆる、居合い、というやつである。

     ぼくは、長年やってきた動きですらりと刀を抜いた。その動きでもって、再び猛スピードで転がって来たサイコロを、横殴りに思い切り斬りつけた!

     刃が、まるでバターかクリームの塊でも相手とするかのように、抵抗もなくするりとサイコロの中に入っていった。

     精神を集中して、相手が接近してくるタイミングをはかり、一撃のもとに切り伏せる、というのは、こういう道に進んだものにとってのひとつのロマンである。

     それだけではなかった。ぼくは見たのだ。

     刃がすうっと長く伸び、レーザー光線のような一本の光の線となるのを!

     サイコロはまっぷたつになってぼくの後ろへと転がっていった。刀を振り切ったとき、ぼくは巨大なサイコロを、文字通り両断していたのだ。こんなの、テレビアニメでもなけりゃ絶対に不可能なところだ。

     さもなくば、夢か。

     自分が夢を見ていることは承知の上だったが、思わずほっぺに手が伸びそうになった。もうひとつのサイコロがこっちへ突っ込んでこなければ、つねっていただろう。

     もう怖いものなどない。げんきんにも、妙に自信をつけたぼくは、とりあえずサイコロの突進をかわすと、大刀を構え直した。
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