「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢逐人
夢逐人 第一部 アキラ 19
呼吸を整える。
ぼくは敵の動きを読みながら刀を振る呼吸をはかっていた。
サイコロは、自分に意思があるということを隠す必要もないとでも考えたのか、不自然な軌道を通ってぼくの前に転がってきた。
読める、読めるぞ!
ぼくは有頂天になりながら、その間合いを越える一瞬を待った。
どうしようもないバカだったことを白状しなければなるまい。
後ろと足元に、なんの注意も払っていなかったのである。
いざ体重を移しながら刀を振るおう、という瞬間、足が前にも後ろにも、ちっとも動かないことに気づいた。
下に目をやった。
驚愕した。
ぼくの足を、紫とも茶ともつかぬ、気味の悪いまだら模様をした、粘土のような不定形の塊が、しっかりととらえていたのだ!
それでも、なんとか立ってはいたものの、ぼくは体勢を崩してしまった。これではとても有効な斬撃は送れそうにない。
サイコロは目と鼻の先まで来ている。
心臓が止まるかと思った。
ぼくはやけくそになって、大上段に刀を構えると、唐竹割りに、真っ向から斬り下ろした。
再び刃が光の線となってまっすぐに伸びる。
目の前で、サイコロが縦にまっぷたつになった。
やった!
そう思ったのは、今日の士道不覚悟その二だった。武士じゃないけど。
次の瞬間、サイコロの割れ目から滝のように、足元にからみついているのと同じねばねばが、ぼくに向かって降り注いできたのだ!
とにかく顔と頭だけはガードしたが、そのおぞましい感じといったらなかった。全身をナメクジかなにかが這い回っている感覚を一千倍くらい最低にしたようなものだ、といったらわかって……もらえないだろうな。
ぼくは自分がその汚物によって食われてしまうのではないかと思った。
こんなのたとえ夢でも願い下げだ!
そのとき、なぜか、刀と、それを握っている両手には、ねばねばがかかっていないことに気づいた。
もしかしたら?
ぼくは、体中を走るおぞけに耐えながら、刀を逆手に握りかえると、自分の身体をなでるように滑らせてみた。
いける!
身体から、垢がブラシで落とされるかのように、ねばねばが溶け消えていく。
ほっとしたが、全身を風呂場でのように刀でこするのはやはり度胸がいった。なにぶん垢すりと違って、こちらには刃がついているのだ。
運良く、服も破けなければ、身体も傷つかずに、足もとも含めあらかたのねばねばをこそげおとすことはできた。もっとも、背中には目がついていないから、そちらにいくらか残っていた可能性はあるけど。
自由になったぼくは、上を見た。
なにかと目が合った。それがなんだかはわからないが、とにかく、なにかと目が合った。それだけは確かだ。なぜなら。
殺気!
先ほど、風呂場で感じたものと同じ、強烈なナマの殺気が、ぼくに叩きつけられてきたからだ。ねばねばがからみついてきたときとはまた違った意味で、ぼくは背筋に冷や汗が伝うのを感じた。
腕が降りてきた。サイコロを手探りで探しているようだ。
あの手の持ち主は目が見えないのか。ではやつじゃないことになる。
しかし……。
利用できるな!
ぼくは懐を探った。あった。たすきだ。とはいっても、間違っても駅伝のランナーがかけているものではない。日本古来の、和装で暴れるにはなくてはならないものだ。ぼくはきりきりとたすきをかけると、その腕に向かって、全力で走り始めた。
手は相変わらずサイコロを探しているらしく、闘技場、いや、ゲーム盤か、の上をむなしく這い回っている。
よおし、そのまま、そのまま……と念じながら、ぼくは。
あの巨大な腕の、手の甲の部分に飛び移った!
まるでゴキブリにでもなったかのような気分だ。注意しないと、もう一本の腕(あったらだが)にひっぱたかれて叩き潰されてしまいかねない。
ぼくは敵の動きを読みながら刀を振る呼吸をはかっていた。
サイコロは、自分に意思があるということを隠す必要もないとでも考えたのか、不自然な軌道を通ってぼくの前に転がってきた。
読める、読めるぞ!
ぼくは有頂天になりながら、その間合いを越える一瞬を待った。
どうしようもないバカだったことを白状しなければなるまい。
後ろと足元に、なんの注意も払っていなかったのである。
いざ体重を移しながら刀を振るおう、という瞬間、足が前にも後ろにも、ちっとも動かないことに気づいた。
下に目をやった。
驚愕した。
ぼくの足を、紫とも茶ともつかぬ、気味の悪いまだら模様をした、粘土のような不定形の塊が、しっかりととらえていたのだ!
それでも、なんとか立ってはいたものの、ぼくは体勢を崩してしまった。これではとても有効な斬撃は送れそうにない。
サイコロは目と鼻の先まで来ている。
心臓が止まるかと思った。
ぼくはやけくそになって、大上段に刀を構えると、唐竹割りに、真っ向から斬り下ろした。
再び刃が光の線となってまっすぐに伸びる。
目の前で、サイコロが縦にまっぷたつになった。
やった!
そう思ったのは、今日の士道不覚悟その二だった。武士じゃないけど。
次の瞬間、サイコロの割れ目から滝のように、足元にからみついているのと同じねばねばが、ぼくに向かって降り注いできたのだ!
とにかく顔と頭だけはガードしたが、そのおぞましい感じといったらなかった。全身をナメクジかなにかが這い回っている感覚を一千倍くらい最低にしたようなものだ、といったらわかって……もらえないだろうな。
ぼくは自分がその汚物によって食われてしまうのではないかと思った。
こんなのたとえ夢でも願い下げだ!
そのとき、なぜか、刀と、それを握っている両手には、ねばねばがかかっていないことに気づいた。
もしかしたら?
ぼくは、体中を走るおぞけに耐えながら、刀を逆手に握りかえると、自分の身体をなでるように滑らせてみた。
いける!
身体から、垢がブラシで落とされるかのように、ねばねばが溶け消えていく。
ほっとしたが、全身を風呂場でのように刀でこするのはやはり度胸がいった。なにぶん垢すりと違って、こちらには刃がついているのだ。
運良く、服も破けなければ、身体も傷つかずに、足もとも含めあらかたのねばねばをこそげおとすことはできた。もっとも、背中には目がついていないから、そちらにいくらか残っていた可能性はあるけど。
自由になったぼくは、上を見た。
なにかと目が合った。それがなんだかはわからないが、とにかく、なにかと目が合った。それだけは確かだ。なぜなら。
殺気!
先ほど、風呂場で感じたものと同じ、強烈なナマの殺気が、ぼくに叩きつけられてきたからだ。ねばねばがからみついてきたときとはまた違った意味で、ぼくは背筋に冷や汗が伝うのを感じた。
腕が降りてきた。サイコロを手探りで探しているようだ。
あの手の持ち主は目が見えないのか。ではやつじゃないことになる。
しかし……。
利用できるな!
ぼくは懐を探った。あった。たすきだ。とはいっても、間違っても駅伝のランナーがかけているものではない。日本古来の、和装で暴れるにはなくてはならないものだ。ぼくはきりきりとたすきをかけると、その腕に向かって、全力で走り始めた。
手は相変わらずサイコロを探しているらしく、闘技場、いや、ゲーム盤か、の上をむなしく這い回っている。
よおし、そのまま、そのまま……と念じながら、ぼくは。
あの巨大な腕の、手の甲の部分に飛び移った!
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~ Comment ~
NoTitle
・・・大分久しぶりです。
ようやく帰ってきました。
続きを読まずにここを読んだことは罪なのか。
それとも度胸ありなのか。。。
う~~む。このホラーとコメディと賭け事のコラボレーションが天才的に融合している作品ですねえ。。。・・・というか、この主人公は頭のネジが3本ぐらい吹っ飛んでいるお人ですね。私の作品でも登場させたいぐらいですね。。。
ようやく帰ってきました。
続きを読まずにここを読んだことは罪なのか。
それとも度胸ありなのか。。。
う~~む。このホラーとコメディと賭け事のコラボレーションが天才的に融合している作品ですねえ。。。・・・というか、この主人公は頭のネジが3本ぐらい吹っ飛んでいるお人ですね。私の作品でも登場させたいぐらいですね。。。
- #12986 LandM
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- 2014.03/11 20:43
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Re: LandMさん
今にして思えばよくこんなキャラクターを設定したものです。若かったなあ当時は……。