「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢逐人
夢逐人 第一部 アキラ 21
雑誌の一撃を食らうのを避けるため、札を踏み登り、チップを蹴っ飛ばし、吸殻をかわしてぼくはひたすら走った。走っていないとたちどころに潰されてしまいかねない。幸いなことに、相手の動きはあのサイコロに比べても単調で、軌跡を読むのは、未熟者のぼくにとっても楽だったが、かわしつづけるというのはまた別の問題だった。なにせ大きすぎて、ちょっとでも触れると深刻な結果になってしまいかねない。紙一重でひらりとかわす、などということは墓穴を掘ることに成る公算が大だ。そのために動き続けていなければいけないから、非常に苦しいのだ。生物の時間にやったな。ええと運動をするとなんとかサイクルが働いて乳酸が溜まって……。
よけいなことが頭をよぎったせいか、身体すれすれを雑誌がかすめた。風圧に、思わず平衡が崩れた。ぼくは身をよじりながら倒れ込んだ。
っ!
痛みが走る。倒れたとき、変な体勢になったため、足をひねってしまったらしい。
上を見る。狙いを定めようとするかのように微妙に位置を変える太い雑誌が、鎌首をもたげた大蛇の頭に見えた。
さっきは見逃してくれたが、今度はそうも行くまい。覚悟を決める。
刀に手をかけた。
さあ来い。かなわぬまでも、一刺しくらいはしてみせる。
単に血迷っていたわけではない。確かに半分は自暴自棄だったが、もう半分には計算が働いていた。ついさっき、サイコロを斬ったときのように、刃が伸びてくれれば!
祈る。
それからの数瞬は、まるでスローモーションのように感じられた。
動きが鈍くなったぼくの上に、雑誌の一撃が落ちてくる。ぎりぎりまで待つ。間合いを超えるその刹那、「影切」を抜いて。
斬る!
実際は、「抜く」のが直接「斬る」につながるのが抜刀術というものだけど、それはどうでもいい。
確かな手ごたえ。ぼくは、さあっと伸びた光の刃が、三日月のような残像を残しながら、雑誌を大根かなにかのようにすぱりと斬るのを見た。慣性がついた雑誌の先端部分は、もぎ離されて頭上を飛び越え、後方に飛んでいった。
本当にやれるかもしれない。
刀を構えたまま、少し足を動かしてみた。痛みを我慢すれば、動く。
巨人たちは、ぼくを見下ろしたまま、身じろぎもしない。もう一度やったら、今度はあの光の刃がどう飛んでくるかわからないからだろう。
それが、ぼくに自信をくれた。空気は相変わらず、時間が止まったかのごとく硬直したままだが、身体の中は、今にも動き出しそうな生のエネルギーであふれんばかりになっているかのようだった。
さあ来い!
ぼくが心を再び研ぎ澄ましたとき、また、あの「殺気」を感じた。
その気配は、なぜか今度はすぐに消えてしまった。それに、消え去るとき、「舌打ち」のようなものを感じた。どういうことだ?
生じた疑問は別の事実により相殺されてしまった。殺気が消えたとたんに、ぼくの耳に、あの、声にならない「助けて……!」という叫びが、再び聞こえてきたからだ。
どこから聞こえてくるのか?
刀を構えて、慎重に声の源を捜す。
助けて……助けて……助けて……。
そこだ!
ぼくは身を翻して走り、チップの山へと向かった。動き回りつつ、片っ端からチップをひっくり返し、目指す最後の一枚を……これだ!
青いチップを引っ張り出す。普通のものよりもふた周りほど小さい。そしてそこには、人の顔が浮かび上がっていたのだ。
ぼくは心臓がでんぐり返るかと思った。
その顔は。
「ノゾミちゃん!」
確かにそうだった。あれから時が経ち、成長したのだろう、大人びた顔をしているが、六年前に夢の中で出会ったときの面影が、しっかりと残っている。間違いはない。
顔は目を見開き、唇を動かした。
「……アキラちゃん?」
よけいなことが頭をよぎったせいか、身体すれすれを雑誌がかすめた。風圧に、思わず平衡が崩れた。ぼくは身をよじりながら倒れ込んだ。
っ!
痛みが走る。倒れたとき、変な体勢になったため、足をひねってしまったらしい。
上を見る。狙いを定めようとするかのように微妙に位置を変える太い雑誌が、鎌首をもたげた大蛇の頭に見えた。
さっきは見逃してくれたが、今度はそうも行くまい。覚悟を決める。
刀に手をかけた。
さあ来い。かなわぬまでも、一刺しくらいはしてみせる。
単に血迷っていたわけではない。確かに半分は自暴自棄だったが、もう半分には計算が働いていた。ついさっき、サイコロを斬ったときのように、刃が伸びてくれれば!
祈る。
それからの数瞬は、まるでスローモーションのように感じられた。
動きが鈍くなったぼくの上に、雑誌の一撃が落ちてくる。ぎりぎりまで待つ。間合いを超えるその刹那、「影切」を抜いて。
斬る!
実際は、「抜く」のが直接「斬る」につながるのが抜刀術というものだけど、それはどうでもいい。
確かな手ごたえ。ぼくは、さあっと伸びた光の刃が、三日月のような残像を残しながら、雑誌を大根かなにかのようにすぱりと斬るのを見た。慣性がついた雑誌の先端部分は、もぎ離されて頭上を飛び越え、後方に飛んでいった。
本当にやれるかもしれない。
刀を構えたまま、少し足を動かしてみた。痛みを我慢すれば、動く。
巨人たちは、ぼくを見下ろしたまま、身じろぎもしない。もう一度やったら、今度はあの光の刃がどう飛んでくるかわからないからだろう。
それが、ぼくに自信をくれた。空気は相変わらず、時間が止まったかのごとく硬直したままだが、身体の中は、今にも動き出しそうな生のエネルギーであふれんばかりになっているかのようだった。
さあ来い!
ぼくが心を再び研ぎ澄ましたとき、また、あの「殺気」を感じた。
その気配は、なぜか今度はすぐに消えてしまった。それに、消え去るとき、「舌打ち」のようなものを感じた。どういうことだ?
生じた疑問は別の事実により相殺されてしまった。殺気が消えたとたんに、ぼくの耳に、あの、声にならない「助けて……!」という叫びが、再び聞こえてきたからだ。
どこから聞こえてくるのか?
刀を構えて、慎重に声の源を捜す。
助けて……助けて……助けて……。
そこだ!
ぼくは身を翻して走り、チップの山へと向かった。動き回りつつ、片っ端からチップをひっくり返し、目指す最後の一枚を……これだ!
青いチップを引っ張り出す。普通のものよりもふた周りほど小さい。そしてそこには、人の顔が浮かび上がっていたのだ。
ぼくは心臓がでんぐり返るかと思った。
その顔は。
「ノゾミちゃん!」
確かにそうだった。あれから時が経ち、成長したのだろう、大人びた顔をしているが、六年前に夢の中で出会ったときの面影が、しっかりと残っている。間違いはない。
顔は目を見開き、唇を動かした。
「……アキラちゃん?」
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~ Comment ~
NoTitle
「単に血迷っていたわけではない。確かに半分は自暴自棄だったが~」という描写がありますが、
なんだが、この人の人生そのものが血迷っていて、自暴自棄なような気がしないでもないのは私だけでしょうかね。。。
なんだが、この人の人生そのものが血迷っていて、自暴自棄なような気がしないでもないのは私だけでしょうかね。。。
- #12991 LandM
- URL
- 2014.03/13 07:56
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Re: LandMさん
こういうところも、投稿先から「小説になっていない」といわれる原因だったのではないかな、と思います(^_^;)