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    「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第一部 アキラ 22

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     覚えていてくれたんだ。嬉しかった。自分でもその嬉しさは予想外だった。

     ぼくは、反射的に、そのチップのノゾミちゃんの唇に、自分の唇を押し当てていた。甘い味がしたような気がした。

    「アキラちゃん……」

     ノゾミちゃんが、苦しげにいった。

    「大丈夫。助けてあげる。絶対に」

     ぼくはそういってうなずくと、ノゾミちゃんの顔のチップを左脇に抱えた。

     右手で刀を抜く。片手斬りということになるが、しかたもないだろう。

     ぼくは巨人たちをにらみつけた。

     妙なことが起こり始めた。巨人たちが、少しずつぼやけはじめたのだ。

     その輪郭の合間から、何かにじみ出てくる。それは。

     さっきぼくの身体にまとわりついていた、紫と茶のまだら模様をした、不定形のねばねばしたものだ!

     巨人たちはぼやけながら溶け、まだらの流体の濁流となってこっちのほうへと流れてくる。気持ちのいい光景ではなかった。吐きたくなるのをこらえる。

     このままでは、ねばねばの大海に飲み込まれかねない。ぼくはどこか出口はないかと探した。

     それらしいものはどこにもない。

     焦った。

     その間にも、どんどん世界は溶け崩れている。ぼくはじりじりと後退した。

     巨人たちの姿はもう完全に原形をとどめていなかった。紫色の堆積物が小山をなしているだけだ。先ほどの姿をしのばせるのは、小山のいただきにちょこんと乗っかる黒い目隠しだけで……。

     黒い目隠し?

     なぜそれが溶けないで残っているのか。いちばん最初に溶けてしまってもよさそうなものなのに。

     もしや。

     ぼくはテーブルを蹴って、その目隠しが乗っている小山に飛び移った。足が、くるぶしまでまだらの堆積物に沈む。おぞましい感触だったが、唇を噛んでこらえた。

     異様な登山が始まった。片手に刀、片手にチップを抱えての登攀だ。生温かいような冷たいような、嫌な感じが足もとから伝わってくる。ゲロを踏んで歩く、というのがいちばんぴったりくる比喩かも知れない。

     刀を杖がわりにして一歩一歩登る。刃が突き立ったところのねばねばは、確かに消え去るのだが、その空いたところへ、次から次へと新たなねばねばが流れ落ちてくるのだ。きりがない。

     それでも、艱難辛苦の甲斐あって、ようやくあと一歩であの黒いものに手が届く位置までたどりついた。このころには、ぼくの足は、ふくらはぎまで堆積物に埋まっていた。断言するが、この羽織袴の和装というやつは、決してこんなことをする目的で作られてはいない。

     ところで。古文の授業で習ったのだが、徒然草に、『高名の木のぼりといひしをのこ……』で始まる話がある。のちになってからよくこの話を思い出した。残りわずか、となったときが一番危ういぞ、という教訓話なのだが。古人の教えというものをバカにしてはいけない。

     まさにそれだった。

     あと一歩、というところで、ぼくの足がなにかに引っ張られた。当然、足が引っ張られると人間は転ぶのである。

     倒れたぼくは、頭をねばねばの中にもろに突っ込んでしまった。

     すぐに顔を上げたけれど、事態は悪いどころの話じゃなかった。

     目が見えない。

     息ができない!

     口と鼻を覆ったねばねばは、ぼくの中に潜り込んでこようとする。味もにおいもあったもんじゃない。口と鼻を襲うこの強烈な気持ち悪さに、ぼくは吐こうとして……吐くことすらできなかった。

     ぼくはのた打ち回ったが、このままでは殺られるのを待つだけだ、ということも頭の片隅で理解していた。完全にパニックに陥っていなかったのは幸運だった。そのせいか、ぼくはノゾミちゃんのチップと刀を取り落とすことは避けられたのだから。

     脂汗を流しながら刀を目の辺りに持っていく。手探りで、刃の背で目元をぬぐった。汚物は流れ、ようやく目が見えるようになった。とはいうものの、息が詰まって、涙があふれ、ぼんやりとしたものが見えるに過ぎないけど。

     それでもよかった。

     ぼくは倒れ伏したまま、小山のてっぺんに向かって、刀を振った。

     刃が伸び、目隠しを斬った手ごたえを感じた。

     同時に、その斬った先からまぶしい光があふれ出し、ぼくたちを包んで……。

     ぼくは目を覚ました。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    よくあることで申し訳ないですが、見た中で覚えているうちいちばんおっかなかった夢は、

    「斧を振り回す殺人鬼に追いかけられた」

    夢ですね(^_^;)

    今も覚えている夢は、圧倒的に「嬉しかった夢」のほうが多いです。新人賞を受賞する夢は十回くらい見てます(^_^;) その後のヌカヨロコビ感、といったらそりゃあもうあなた……(^_^;)

    こんにちは

    サイコロ賭博の夢、悪夢らしく気持ち悪い感じで良かったです。

    夢って人によっていろいろ違ってて、聞くと結構面白いですよね。
    小人になった夢は見たことないなあ。
    宇宙人から逃げようとしている夢は見たことがあります(笑)

    晶くんのTUEEっぷり、良いですね。主人公はこうでなくては(^o^)

    Re: かえるママ21さん

    チェーンの合併吸収で、近所のレンタル屋がゲオだけになってしまいました。

    ツタヤは自転車で行くと過酷な距離にあるし。

    DVDを探す店の選択肢の幅が減ってトホホホです。

    うむむ。

    NoTitle

    かえるままも、近所のゲオで探す予定です!

    Re: いもかるびさん

    晶に詰襟学生服はちょっとないかな~(^^)

    沙矢香ちゃんの黒髪ロングは当たっていると思いますけど。

    こうやってしゃべれるのも小説ならではですね(^^)

    昔と比べて今は制服も変わりましたなあ……。

    NoTitle

    なんとなくですがアキラ君は詰襟学生服
    沙矢香ちゃんは黒髪ぱっつんロングで脳内変換しつつ読み進めてます。
    小説の時代の女○転生とか思い出したりしつつ。

    ちょっと昭和っぽい雰囲気というかそのテイストがいいんですけど
    ブレーザーっぽくはないなーと思いつつ。
    (お気に触ったらすいません)


    Re: 宵乃さん

    わかりました~(^_^)

    近所のゲオで探してみますね。

    Re: LandMさん

    さいしょから よんだほうが おもしろいんじゃ ないか なぁ みとぅを

    途中から読むとわけがわからんのではないかと思います、この小説(^_^;)

    かといって一括してアップすると読みにくいしわたしも休むことができないし(^_^;)

    それにわたしの企みも不発になりかねないからなあ……。

    NoTitle

    おはようございます!
    最近時間がなくて、ぜんぜん読めてません。
    ごめんなさいね~。

    ところで、3月もブログDEロードショーを開催いたします。
    作品は『鍵泥棒のメソッド』。「セピア色の映画手帳」の鉦鼓亭さんからリクエスト頂きました。
    開催期間は3月21日(金)~23日(日)。
    よかったら今月もみんなと一緒に映画を楽しみましょう♪

    NoTitle

    某ゲームを思い出したのは私だけでしょうかね。。。
    見ざる言わざる聞かざるの原理にも近いような気もしますが。
    実際に虚無の感覚というのは味わったことがないというか、
    虚無の感覚を味わうこと自体が死に直結するので遭遇したくないものですが。それはそれで夢に近い感覚なのかもしれませんね。

    まるっきり途中から読んでますが、
    今回の話はとても面白いです!!!!
    私のツボにはまってます。
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