「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢逐人
夢逐人 第一部 アキラ 23
汗をびっしょりかいていた。
外は、夜が明けかけた、というころあいだった。
ぼくは、白無垢に着替えた。そのまま外へ出て、井戸へ行く。
水を自分の身体に派手にぶっかけて、身体を清めようとした。何度も、何度も、まだ凍りつくような冷水を浴びせ続ける。
口や身体にまだ、さっきのねばねばが残っているように思えたからだ。このおぞましい感触は、風呂に入ったくらいで落ちるようなしろものではないと、そういう気がした。
ぼくがこんな真似をしていた理由は、それだけでもなかった。さっき、ノゾミちゃんに自分がしたことを思い出していたのだ。
まともな人間がやることとも思えなかった。祖父のいうことが正しいなら、この夢のもう一方の端には、実際に、ノゾミちゃんがいることになる。
目が覚めた、ノゾミちゃんはどう思ったろう。それを考えると、ぼくは、なんともいえないいたたまれなさを感じた。
できることといったら、水をかぶって自分を責めるだけだ。
どれだけ水をかぶったかわからなかった。はっと気がつくと、そばに祖父が来ていて、バスタオルを持っていた。
「晶」
ぼくは水桶を置いて、襟元を合わせた。
「ひどい目にあったようじゃな」
「知ってたの?」
「わしもそうじゃったからな」
「そんなわけないと思うよ」
「ふん。ほれ」
祖父はバスタオルを放り投げた。ぼくは受け取った。
「そんなに取り憑かれたように水をかぶっておったら、身体が清められる前に肺炎を起こしてしまうぞ」
バスタオルで髪の毛を拭いた。
「影切が、夢の中に出てきたよ」
「じゃろう」
「あの刀は、夢の中で振るうためのものだったんだね」
「そうじゃ」
ぼくは立ち上がると、祖父の目をじっと見た。
「どうして、教えてくれなかったの?」
「口伝によれば」
「口伝?」
「迫水家代々の歴史の中で、刀が不思議な力を持つと、先に教えられた者は、いずれも例外なく、刀を抱いて寝た最初の日に発狂しておる」
「うそでしょう?」
「どうも、本当らしい。少なくとも疑うだけの理由はない。ゆうべは、お前に話さなんだが、武甕槌神も、開祖にその旨伝えておられる。まあ、数百年も続くと、ときおり気が緩んだ者も出てくるものじゃからな」
それでも、どこか裏切られたような気がしてならない。
「ほかにどんなものを見た」
「気持ち悪いものを。あんなの、思い出したくもないよ」
ぶるっと身体が震えた。
「紫と茶色のまだら模様をした、ねばねばしたお粥みたいなものが、ぼくを目がけて洪水のように押し寄せてくるんだ。隙あらば身体の中に潜り込んでこようとする。吐きそうになっちゃったよ。影切で撫でたら、溶けるように消えちゃったからよかったけど、あれがなければ、ぼくは溺れ死んでいたかも知れない」
「やはりな」
「あれはいったい、なんなの?」
「『ゆめうみ』じゃ」
「ゆめうみ?」
ぼくはそう聞き返した。そのとたん、猛烈な勢いでくしゃみが出た。
「本当に風邪をひきかねん。ここから先は、家の中で話そう。お前も身体をよく拭いておけ」
ぼくは、慌てて祖父の後を追いかけた。
外は、夜が明けかけた、というころあいだった。
ぼくは、白無垢に着替えた。そのまま外へ出て、井戸へ行く。
水を自分の身体に派手にぶっかけて、身体を清めようとした。何度も、何度も、まだ凍りつくような冷水を浴びせ続ける。
口や身体にまだ、さっきのねばねばが残っているように思えたからだ。このおぞましい感触は、風呂に入ったくらいで落ちるようなしろものではないと、そういう気がした。
ぼくがこんな真似をしていた理由は、それだけでもなかった。さっき、ノゾミちゃんに自分がしたことを思い出していたのだ。
まともな人間がやることとも思えなかった。祖父のいうことが正しいなら、この夢のもう一方の端には、実際に、ノゾミちゃんがいることになる。
目が覚めた、ノゾミちゃんはどう思ったろう。それを考えると、ぼくは、なんともいえないいたたまれなさを感じた。
できることといったら、水をかぶって自分を責めるだけだ。
どれだけ水をかぶったかわからなかった。はっと気がつくと、そばに祖父が来ていて、バスタオルを持っていた。
「晶」
ぼくは水桶を置いて、襟元を合わせた。
「ひどい目にあったようじゃな」
「知ってたの?」
「わしもそうじゃったからな」
「そんなわけないと思うよ」
「ふん。ほれ」
祖父はバスタオルを放り投げた。ぼくは受け取った。
「そんなに取り憑かれたように水をかぶっておったら、身体が清められる前に肺炎を起こしてしまうぞ」
バスタオルで髪の毛を拭いた。
「影切が、夢の中に出てきたよ」
「じゃろう」
「あの刀は、夢の中で振るうためのものだったんだね」
「そうじゃ」
ぼくは立ち上がると、祖父の目をじっと見た。
「どうして、教えてくれなかったの?」
「口伝によれば」
「口伝?」
「迫水家代々の歴史の中で、刀が不思議な力を持つと、先に教えられた者は、いずれも例外なく、刀を抱いて寝た最初の日に発狂しておる」
「うそでしょう?」
「どうも、本当らしい。少なくとも疑うだけの理由はない。ゆうべは、お前に話さなんだが、武甕槌神も、開祖にその旨伝えておられる。まあ、数百年も続くと、ときおり気が緩んだ者も出てくるものじゃからな」
それでも、どこか裏切られたような気がしてならない。
「ほかにどんなものを見た」
「気持ち悪いものを。あんなの、思い出したくもないよ」
ぶるっと身体が震えた。
「紫と茶色のまだら模様をした、ねばねばしたお粥みたいなものが、ぼくを目がけて洪水のように押し寄せてくるんだ。隙あらば身体の中に潜り込んでこようとする。吐きそうになっちゃったよ。影切で撫でたら、溶けるように消えちゃったからよかったけど、あれがなければ、ぼくは溺れ死んでいたかも知れない」
「やはりな」
「あれはいったい、なんなの?」
「『ゆめうみ』じゃ」
「ゆめうみ?」
ぼくはそう聞き返した。そのとたん、猛烈な勢いでくしゃみが出た。
「本当に風邪をひきかねん。ここから先は、家の中で話そう。お前も身体をよく拭いておけ」
ぼくは、慌てて祖父の後を追いかけた。
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NoTitle
そういえば、夢分析というのがありますが。
あれは正しいのかどうかどうなんでしょうね。
・・・とふと思ったり。
心理学の領域になるのですかね。
あれは。。。
なんにしても豪快な夢を見るものです。
あれは正しいのかどうかどうなんでしょうね。
・・・とふと思ったり。
心理学の領域になるのですかね。
あれは。。。
なんにしても豪快な夢を見るものです。
- #13001 LandM
- URL
- 2014.03/15 19:33
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Re: LandMさん
ということがお読みになられていない部分に書いてあるのですが……。
登場人物表だけではなく「あらすじ」もトップに持って来るべきだったかなあ。うむむ(汗)