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    「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第一部 アキラ 24

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     母さんは、ずぶ濡れで外から帰ってきたぼくを見て、目を丸くしていたが、それでも熱いお湯を湯呑みに入れてくれた。ぼくは凍えそうな身体を大急ぎで拭き、制服に着替えてから、お湯を飲んだ。生き返るような気持ちだった。

    「おじいちゃんは?」

    「道場よ」

     やっぱり。

     道場へ入ると、祖父は姿勢を正して座っていた。礼をしてから、向かい合うように、ぼくも座る。どうせ座るのなら、稽古着のほうがよかったかもしれない。

    「朝飯にはまだ時間がある。ゆうべは伝えられなかったことも、わかる範囲で全部教えてやろう」

    「まず、『ゆめうみ』からだよ。どんな字を書くの?」

    「傷口にできる、膿という字を書く。夢膿じゃ」

     イメージにぴったりだ。再び、胸が悪くなった。

    「あれはなんなの?」

    「なんなのか、と問われても、正確には答えられん。わしの心理学的知識は、正直にいって、付け焼き刃以外のなんでもないからな」

    「口伝では? 武甕槌神はなんていってたの?」

    「夢の膿としか伝えられておらん。ここから先は、わしの想像になるが、夢膿とは、具現化された無意識なのではないかと考えておる」

    「どういうこと?」

    「フロイトがいったことによると、人間の意識は、その大部分を占める無意識を、わずかな、自我というものが押さえつけている構造をしておる。理性といいかえてもいいかもしれんな」

    「それで」

    「むろん、正常な人間は、皆そのようにしてバランスを取っておるから、さほど気にする必要もないのだが、たまに、バランスを欠いた人間が出てくることがある。それが、いわゆる、精神的に不安定な状態、というものじゃ」

    「っていうことは、沙矢香もそうだったわけ? あいつが、そんな風にバランスを崩す姿なんか、見当もつかないんだけど」

    「沙矢香ちゃんには、沙矢香ちゃんで、いろいろと事情もあったのじゃろうな。また、わしの見落としている理由が存在していたのかも知れんし。例外的状況、としてくくっておけ。話を戻すぞ」

     ぼくはなんとなく腑に落ちなかったが、続きを聞いた。

    「先ほどいったように、バランスが崩れても、人間というものはまた平衡を取り戻すようになっているのじゃが、それが崩れることもあり、それは夢に如実に反映する。それを、『凶夢』と書いて、まがつゆめ、と呼ぶ。夢逐人は、その凶夢を正して駆逐することにより、見ていた人間のバランスを取り戻すのじゃ。これまでも、お前がやっておったようにな」

    「だから、失敗すると、狂気に陥るなんていってたんだね」

    「そういうことじゃ。そして、我ら夢逐人が最も恐れなくてはならん敵は、その凶夢の背後にいる。それが、夢鬼と、夢膿じゃ」

    「夢膿だけじゃないの?」

    「ここからは半分以上はわしらの推測に過ぎぬが、そうずれてはおらぬと思う。夢膿は、夢鬼が、凶夢を見ている人間の無意識に働きかけて、意図的にあふれ出させた、ノイズのようなものじゃ。ノイズでありながら、人間の無意識には違いないから、原始的で動物的ではあるが、ある程度の自律性をもっておる。アメーバみたいな原生動物を思えばまず、間違いはないじゃろう」

    「じゃ、ぼくにまとわりついてきたのは?」

    「お前を自分の中に取り込んで食おうとしたのじゃな」

     ぼくは肌に粟が立ちそうになるのを覚えた。水をもう二、三杯かけておくべきだったかもしれない。

     祖父には心中が筒抜けだったようだ。

    「やつがおるのは夢の中だけじゃ。目が覚めた後で身体を洗う必要はどこにもないぞ。やりたかったら別に止めんが」

    「ということは、無事に目が覚めれば、後遺症みたいなものは別にないんだね? 次の日以降に持ち越すなんて、ぼくは嫌だよ」

    「安心せい。生々しさを思い出して、翌朝の目覚めはよくないかも知れんが、何度も渡り合えば、じきに慣れて、なんとも思わなくなる。だいいち、よほどの不覚でもない限りは、夢膿が夢逐人を食らうなどということはそうそう起こり得ん」

    「本当?」

    「夢逐人の精神は強靭じゃ。夢膿ごときに食らわれるほどやわではない。むしろ気をつけるべきは、夢膿に、夢を見ている主体の意志が飲み込まれて、夢逐人が、夢から帰ってこられなくなることのほうじゃろう」

    「それだけとも思えないけど」

     ぼくは、自分が夢の中で窒息しそうになったことを話した。

    「不覚を取ったな。情けない」

     そうでしょうとも。
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    ~ Comment ~

    Re: limeさん

    酷というか、自分では公募の第一次選考くらいは通過できる文章力がある、と信じていたところに最低評価と「小説になっていません」ですから凹まなかったらウソですな。(^_^;)

    その公募には次の募集で別の作品を送ってまたボツ。

    恨みつらみを書こうとして、今になってどの出版社のなんという公募なのかまったく覚えていない自分に気がついた(笑)

    すべての小説の公募が選評を送り返してくるわけではありません。一部のそういうサービスをしていると募集要項に明記してある公募に、返信用封筒を同封して長いこと待つと、プライドを破壊するような返事が返ってくるのであります。

    limeさんの場合は……単に「うまい」「商品になる」作品だったからじゃないかなあ……。

    (海に向かって小石を投げる)

    Re: 安田勁さん

    「夢膿」、字としては禍々しくて気に入っているんですが、口に出していうと迫力がない、というか語呂が悪い言葉でもあります。でもけっこう考えたので、そうおっしゃってくださると嬉しいです。

    あのころは希望があったなあ……。

    Re: ツバサさん

    失敗すると精神病院送り、という設定は「ナイトメア・ハンター」というTRPGとは無関係であります。

    いいゲームだったんだがなあ……。

    Re: 山西 サキさん

    三十路半ばを若々しいと思うかじゅうぶんにおっさんだと思うか、であります。

    ♪ もう若くないさと きみにいいわけしたね~ ♪

    NoTitle

    そっか~、プロの編集者さんの批評って、かなり酷なんですね。
    公募に出すと、もれなく論評をもらえるのですか? 
    うーん、貴重な意見なんだろうけど、きっと凹むなあ~。
    作家志望の人は、それに耐えて頑張ってるんだからすごい精神力です。

    あ、でも昔、漫画は何度か投稿して批評をいただきました。
    でも漫画の批評は、不思議と凹まなかったな。
    文章を批判される方がきっと、何倍も辛いですね・・・。

    NoTitle

    なんとなく若々しい文章だなと思っていたら、コメント欄見て納得しました。

    あと、今さらだけど「夢膿」ってネーミングすごい好き。
    文字だけで禍々しい。

    NoTitle

    失敗すると狂気に陥るなんて怖いですね(((゜Д゜;)
    夢の中だけにしか現れないとはいえ、夢膿怖いですね。
    実態があるタイプの物の怪みたいなものも怖いですが、
    こう夢とか意識の中で現れるタイプも怖いです((゜Д゜;)))

    NoTitle

    だって、前にこう仰ってたんですもの。

    > これを書いたのは、発表するあてもなく「吸血鬼を吊るせ」や「探偵エドさん」を書いた後ですから、じゅうぶんおっさんな時期でありますよ(^^;)

    じゃぁ、やっぱり若いんですね!
    ワクワク。

    Re: 山西 サキさん

    そりゃ若いよ!(笑)

    だってこれを書いたのはブログを始めるよりもっと前、6~7年くらい昔の作品だもん(^_^;)

    それにこの作品に妙な明るさと能天気さがあるのは、これを書いたときはこれで賞を取る気まんまんで、リハビリ施設と家とを往復する生活もこれで終わりだ、おれはこれで自分の生活基盤をうちたてるのだ、という野望に燃えていたからでもあります。だからけっこう野心的なことをしている作品でもあるのです。(笑)

    もちろん、数ヶ月後に返ってきた選評の通知には、「小説になっていません」と書かれていて、わたしの人生の再起をかけた作品は無念にもボツになってしまったわけです。まあ世の中そんなに甘くないっていうことだ!

    あと、それからプロの編集者が作品にダメ出しするときの言葉は、わたしどころの表現が及ばないほど、プライドを木っ端微塵にしてくれるぞ! ほんとに。とほほ。

    NoTitle

    気のせいかなぁ。
    やっぱりポールさんが若いような気がするんだけど。
    ピント外れですみません。
    でも、面白いです。

    ノゾミちゃんてどんな人なんだろう?
    沙矢香のことも気になるし。

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