「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第一部 アキラ 25

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    「裏を返せば、これは、お前の想像力が、人より勝っていることの証拠でもある。伝えられているところでは、第九代の迫水新九郎高通が、お前と同じく、夢の中で、夢膿に取り込まれそうになったそうじゃ。九代は絵をよくし、自分が見たものをいくつかの絵に描いたそうじゃが、秘密が知れ渡るのを恐れた八代によってことごとく破られ燃やされたといわれておる。九代も、おそらくは、夢膿を実際以上に現実的なものとして捉えてしまい、それで不覚をとったのじゃろう」

    「喜んでいいんだか悲しんでいいんだか」

    「喜ぶべきじゃな。想像力の豊かさはある意味、武器になる。自分の可能性を強く思うことにより、実力以上の力を発揮することもないとはいわん」

    「喜んでいいんだか悲しんでいいんだか」

     ぼくは繰り返した。

    「他にはなにを見た?」

    「ノゾミちゃん」

     ぼくは、また、自分がしたことを思い出し、赤面した。祖父は、赤面の件は意に介さなかったようだったが、ぼくの言葉には、すぐに反応した。

    「なに?」

    「ノゾミちゃんだよ。ゆうべ話したでしょう、あの、小学四年のときに、ぼくが最初に見た、凶夢、だっけ? に出てきた女の子」

    「ああ」

    「同じ人の凶夢に二回入ることって、けっこうあるの?」

     祖父は困った顔をした。

    「わしも聞いたことはないが……もしかしたら、そのノゾミという娘と、お前とは、どこかで深くつながっておるのかも知れんな」

     なぜだかどきっとした。

    「つながっている?」

    「もし現実の世界で会えたとしたら、いい友達になっているかも知れん」

     友達か。そうだよな。

     ぼくは、変なことを考えそうになった自分を恥ずかしく思った。

     しばらく、ぼくは黙って考えていた。

     祖父が急にいった。

    「恐ろしいのか」

    「えっ? な、なにが」

    「聞かんようじゃからな」

    「……」

    「夢鬼とはなにか、とも、風呂場で感じた殺気はなんだったのか、とも聞く様子がない。お前にしては、おかしなことじゃ」

    「わかるよね」

     ぼくは額に手をやった。

    「夢鬼が、夢膿を作り出すってことは、凶夢のそもそもの始まりに、そいつが関わっているっていうことでしょう?」

    「その通り。夢鬼は、その正体はわしらにもよくわかってはおらん。人か鬼か、はたまた実体があるのかないのかすら。だがいえるのは、そいつらが、悪意を抱いて、人間の精神を闇に引きずり込み、狂人にしてしまうということじゃ」

    「食われるの?」

     祖父は首を振った。

    「魂を食らっているのか、それとも嗜虐的な遊びなのかすらわからん。まったく、なにひとつとしてわからんのじゃ」

     こころもとないにも程がある。内心が顔に出たのか、祖父が目を厳しくした。

    「だがな、斬ることはできる」

    「斬る?」

    「武甕槌神の霊験を受けた、闇切、影切、影縫であれば、夢膿を浄化し、夢鬼を斬ることができるのだ。危険で、困難なことには相違ないがな」

    「危険って、父さんみたいになってしまうかも知れない、ということ?」

    「そうじゃ。医者の処方した精神安定剤によって、武博は正気を取り戻したのじゃが、そのとき話してくれたことによると、夢の中で、夢鬼が化身したと思われる猪と対峙したときに不覚を取り、牙で突かれたのを最後に、記憶が途切れているとか。抽象画の中に放り込まれたような感じを微かながら覚えている、などといっていたが、その間に現実世界での武博がどうだったかはお前もよくわかっているじゃろう」

     忘れられるわけがなかった。錯乱した父さんは、大暴れをしたのだ。祖父がいたからよかったようなものの、ぼくと母さんだけでは抑えきれなかっただろう。それどころか、刀を抜かれていたら全員斬り殺されていたかもしれない。あのとき祖父は、「運がよかったな」といっていたが、今にしてようやくその意味がわかった。父も夢逐人だったら、刀をそばに置いていたはずだからだ。背筋が冷たくなった。病院へ連れて行ったときはかなり症状が治まっていたし、話す必要もないだろうということで、このことは、医者には黙っていたのだが。

    「夢鬼とわれらは、不倶戴天の敵なのじゃ。確かに、夢の中での戦闘能力でなら、わしら夢逐人のほうが有利じゃろう。しかし、夢鬼は数がいる。斬っても、斬っても、入れ代わり立ち代わり新手が現れ、いたるところで人を狂気に陥らせようとしておるのじゃ。その数の差は、少なく見積もっても、一対百は超えるのではなかろうか」

     気が遠くなるような話だった。

    「あの殺気は?」

    「夢鬼が、お前を見つけたという証拠じゃ」

    「ぼくを、見つけた?」

    「ある程度の年齢になるまでは、心の力が未熟なため、そんなものがあったとしてじゃが、夢鬼の感覚器官にひっかからない。凶夢に入っても、夢鬼にとっては、透明人間みたいなものなのじゃ。そうでもなければ、夢鬼によって、幼いうちに片端から殺されてしまうであろうことはお前にもわかるじゃろう」

    「北朝鮮の不審船が、海上保安庁のレーダーにひっかからないようなもの?」

    「なんて例えをするんじゃ、お前は。モデルとしては、むしろ、病院で、病巣がある程度の大きさになってから出す化学物質をたよりに、それを見つけるという診断方法を挙げるほうがぴったりしているじゃろうな」

     それもどこか違うと思うけど。

    「昨日も話した通り、迫水家の者がそこまで成熟するのがだいたい二十歳くらいなのじゃ、これまでは」

    「ぼくの、身体が違うの……?」

    「おそらくはな。だが、そんなことを考えたところで詮ないことじゃ。お前はお前、そう思っておったほうがいい。精神力がないとやっていけない夢逐人、わざわざ悩んで、夢鬼に付け入る隙を与えることもあるまい」

    「うん……」
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