「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第二部 サヤカ 1

     ←夢逐人 第一部 アキラ 27 →夢逐人 第二部 サヤカ 2
    第二部 サヤカ


     あたしは、パジャマ姿のまま、思いっきり、枕をひっぱたいた。アキラみたいに、武術なんてやってないから、枕は二つに両断されたりせず、へっこんだだけだった。そのへこみを見て、自分がなにをしたのかに気がついた。この枕は、ただの枕ではない。去年の冬休み、必死になって郵便局でバイトして貯めたなけなしのお金で買った、安眠枕なのだ。宣伝文句によれば、NASAの技術が応用された低反発新素材で作られたとかいうのが売りで、けっこう高かったのである。殴ったりしたらもったいない。

     他になにか八つ当たりできるようなものはないか。あたしは、飢えた獣のような目で、室内を見回した。あたしの部屋は、弟の勝がいうには、「ビジネスホテルの一室」みたいに見えるらしい。よけいなものはなにひとつない、というのがかえってわざわいしていた。パソコンなんか叩き壊したら、それこそ半年間は立ち直れないだろう。こういうときに備えて、お小遣いを貯めてパンチング・ボールでも買っておくべきだったわね、などと、脳裏にバカな考えが浮かんでは消えた。

     宿題と、必要最低限の予習をするだけでも、高校生の時間は残酷なほどに消費されていく。その行為に没頭することにより、なんとか、頭の片隅に、このいらいらを押さえつけることに成功していたのだが、それも我慢の限界だ。ええい、古文の予習は、明日に回してしまおう。

     今日はさっさと寝てしまうのだ。

     壁の電気スイッチを握りこぶしで消した。消したとはいえ、完全な真っ暗闇は無用心なので、部屋の隅には小さなランプが点いている。

     あたしは、ベッドに倒れこみ、布団に潜りこんだ。ベッドには、同じく、低反発新素材のマットレスが敷いてある。

     まったくどういうことなのよ。

     そうつぶやき、枕に顔を埋めようとした。

     枕は、頭を支えるようにはできていたが、顔を埋めるようにはできていなかった。居心地の悪い思いに三十秒ほど耐えた後、とうとうギブアップし、寝返りを打って天井を見上げた。

     すりガラスのような半透明のプラスチックの板に全体を覆われた、今は消えている蛍光灯が、暗闇の中で浮かび上がって、あたしを無表情に見下ろしていた。

     もう。蛍光灯まで、あたしをいらいらさせるのか。

     歴史上数え切れないほどいる、サディスティックで残酷な専制君主の気持ちが、今ならわかるような気がした。

     自分が悪いことはよくわかっていた。アキラが、金属かなにかでできているかのような、恋愛感情などとは無縁な人間であるのをいいことに、さんざんからかってきたバチが当たったのだ。

     整理してみたい。

     アキラ、いや蓉秀女子高等学校二年A組出席番号十八番の迫水晶という娘について。

     神社の一人娘で、幼いころから先祖伝来の、うろ覚えだが確か、カスミなんとか流という古武術をたたき込まれてきた。そのころからものすごくタフなやつで、幼稚園に上がりたての昔、あの家にたどりつくまでの急で長い石段を登る際、あたしが、足ががくがくになって、登ることも降りることもできなくなったときに、あたしをおんぶして残りを全て登りきり、息も乱していなかった。すごいやつだと思ったのはあのときからだ。

     顔は、レディースコミックのような女らしさ全開、という顔ではない。そんなものとは水星と冥王星のように離れている。いうところの、中性的な面立ちなのだ。髪型は修行に差し障りがあるのか、魅力ある女子高生としての限度ぎりぎりを追求したとしか思えない極短のショートカット。それが、さっきもいった中性的な顔にマッチしていて、どこか現代芸術のような雰囲気をかもし出している。
    関連記事
    スポンサーサイト



     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【夢逐人 第一部 アキラ 27】へ  【夢逐人 第二部 サヤカ 2】へ

    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    唐突にやったのはやっぱりまずかったかなあ、と思います。

    ワンクッション置くべきだったのか……。とはいえ、映画でいうカットインの効果を狙ったので、こうするしかなかったんですが。

    まあこれ以来、話の途中で一人称の話者を変える手法には気を付けるようになったのだからいいですが……。

    NoTitle

    こっから語り手が変わるのですね。
    私も結構使う手ですからね。
    使いどころを間違いないようにしないと大変ですよね。
    この辺は。私も結構考えます。
    枕は私もこだわっているんですよね。。。。
    安眠は大切です。

    Re: かえるママ21さん

    あの枕気持ちいいんですってね(^^)

    わたしの枕にはプラスチックストローを細かく切ったものが入ってます……。(^^;)

    NoTitle

    うふふ。NASAの技術が応用された低反発枕、持ってるので、更に、枕にパンチしたこともあるので、なんとなく親しみを感じてしまいました。(マットレスは持ってないけど)

    Re: 山西 サキさん

    サヤカちゃんは女ですってば。まったく疑り深い。いったい誰があなたをそんな風に(←わたしだ(笑))

    晶、素敵に見えますか? 嬉しいです。

    サヤカちゃんにはちょっと気の毒しちゃったかな(^_^;) わたしはこの娘も好きなんですが。

    NoTitle

    どうやらサヤカはちゃんと女のようだぞ?
    まだ立ち直れないサキは超疑り深くなっているのでした。

    アキラ、ドキドキするくらい素敵ですね。

    Re: カテンベさん

    このサヤカちゃんのパートは短いです。つなぎみたいなもんで。

    ノゾミちゃんは第三部の語り手です。

    今読み返してみると反省点のかたまりみたいな小説ですなこれ(^_^;)

    よくも出版社に送れたものです(^_^;)

    NoTitle

    第一部がアキラ、てなってるから、それは予想できましたけど。
    第二部はノゾミかと思てましたσ(^_^;)

    アキラが夢の中で出会う相手は身近なひとやとか距離的に近くの人ばかりではないんでしょうけど、ノゾミが引っ越してくるより前にノゾミの夢を見て、最近、また見た、てのは気になるやないですか

    第三部以降なんでしょけど、その前にアキラのご先祖の話になったりするんかなぁ?

    ここから語り手がサヤカちゃんにバトンタッチします。

    これも読者を困惑させる原因だったかなあ。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【夢逐人 第一部 アキラ 27】へ
    • 【夢逐人 第二部 サヤカ 2】へ