「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢逐人
夢逐人 第二部 サヤカ 4
今朝の目玉焼きはちょっと固すぎたわね。でも家事音痴のあたしが手を出すともっと悲惨なことになるか、などと、とりとめもないことを考えながら校門をくぐった。なんでそんなことを考えていたのかの理由は明白だった。
その理由本人は、下駄箱で靴を取り替えていた。
後ろに近づく。あたしが近づいていることにまったく気づいていない。いつもならば、あたしが近づいていることにくらいは気づいて、足の動きが微妙に(見慣れている、あたしにしかわからないくらいの微妙さだが)変わるのだが、今日はそうした変化はまったく見られなかった。
肩を叩こうとした。
「おはよう、アキ……」
絶句した。アキラは、完全に、心ここにあらず、の状態だったからだ。
「アキラ、おはよう」
聞こえてない。
「迫水さん?」
目があらぬかたを見ている。
あたしは耳元に口を持っていって、叫んだ。
「この木刀女っ!」
「わっ」
アキラは目を白黒させた。その目がようやく焦点を結ぶ。
「や、やあ沙矢香。おはよう」
「おはようじゃないわよ」
あたしのこめかみには血管が浮き出ていたかもしれない。
「人が呼んでるのに返事もしないで」
「そうだったっけ?」
「そうよ」
アキラは小声で、ごめんなさいとかなんとかつぶやいた。
「ごめんなさいですんだら、警察はいらないわ」
「そんな小学生みたいなことをいうなよ」
ふんだ。
「じゃあ、高校生みたいな話をしましょ。なにを考えていたの?」
「そ、それは、その」
アキラはへどもどした。
「わかってるわよ」
びしっと追及する。
「西連寺くんのことね」
その言葉が出たとたん、アキラの顔が紅潮した。
正直な女である。
あたしは、たたみかけるように、糾弾(なんの理由があってどうして糾弾する資格があるのか、などということについては考えが回らなかった。エキサイトすると、たいていいいことはない)の言葉をぶつけようとした。
そこで、我に帰った。
気がつくと、あたしたちの周囲は、おびえと好奇心と野次馬根性で目がきらきらしている女子生徒で遠巻きにされていた。
あたしたち二人は、セメントの彫像と化した。
その理由本人は、下駄箱で靴を取り替えていた。
後ろに近づく。あたしが近づいていることにまったく気づいていない。いつもならば、あたしが近づいていることにくらいは気づいて、足の動きが微妙に(見慣れている、あたしにしかわからないくらいの微妙さだが)変わるのだが、今日はそうした変化はまったく見られなかった。
肩を叩こうとした。
「おはよう、アキ……」
絶句した。アキラは、完全に、心ここにあらず、の状態だったからだ。
「アキラ、おはよう」
聞こえてない。
「迫水さん?」
目があらぬかたを見ている。
あたしは耳元に口を持っていって、叫んだ。
「この木刀女っ!」
「わっ」
アキラは目を白黒させた。その目がようやく焦点を結ぶ。
「や、やあ沙矢香。おはよう」
「おはようじゃないわよ」
あたしのこめかみには血管が浮き出ていたかもしれない。
「人が呼んでるのに返事もしないで」
「そうだったっけ?」
「そうよ」
アキラは小声で、ごめんなさいとかなんとかつぶやいた。
「ごめんなさいですんだら、警察はいらないわ」
「そんな小学生みたいなことをいうなよ」
ふんだ。
「じゃあ、高校生みたいな話をしましょ。なにを考えていたの?」
「そ、それは、その」
アキラはへどもどした。
「わかってるわよ」
びしっと追及する。
「西連寺くんのことね」
その言葉が出たとたん、アキラの顔が紅潮した。
正直な女である。
あたしは、たたみかけるように、糾弾(なんの理由があってどうして糾弾する資格があるのか、などということについては考えが回らなかった。エキサイトすると、たいていいいことはない)の言葉をぶつけようとした。
そこで、我に帰った。
気がつくと、あたしたちの周囲は、おびえと好奇心と野次馬根性で目がきらきらしている女子生徒で遠巻きにされていた。
あたしたち二人は、セメントの彫像と化した。
- 関連記事
-
- 夢逐人 第二部 サヤカ 5
- 夢逐人 第二部 サヤカ 4
- 夢逐人 第二部 サヤカ 3
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~