「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢逐人
夢逐人 第二部 サヤカ 6
アキラは、繰り出された尊師の手を半ば無意識のうちにぐっとつかむと、逆手にねじり上げたのである。尊師は、当然ながら、悲鳴を上げた。あたしも試しにかけてもらったことがあるが、本気でないとしても、あれは想像以上に痛いのだ。
こうしちゃいられない。
あたしは、机を蹴立ててアキラの隣へ走り寄ると、大声で、
「木刀女っ!」
と叫んだ。
アキラの目の焦点がようやく合った。自分がなにをしているのかを認識するコンマ一秒の後、顔色がすうっと青くなる。
アキラは手をぱっと離して、おろおろといった。
「あ……あの、先生、こ……これは」
「迫水さん」
尊師の声は、意外と平坦だった。それがかえって恐ろしかった。
「放課後、生徒指導室へ来なさい」
「はい」
アキラは真っ青な顔で、うなずいた。
「それと」
「はい」
「教室の後ろで立ってなさい」
「はい」
アキラは肩を落として、後ろへと歩いた。
「国枝さん」
え? あたし?
「あなたは、生徒指導室へ来るのは免除してあげます。代わりに、明日までに、プリントをやってきなさい。プリントは、放課後、職員室で渡します」
なんであたしまで、とも思ったが、尊師には勝てない。
恨みがましく、立っているアキラを見た後、席へと戻った。
授業の内容はちっとも頭に入らなかった。
職員室でプリントを受け取った。細かい文字ばかりで三枚あった。「大鏡」かと思ったら、「増鏡」だった。どこで参考書を探せというんだ。あたしは、図書室へ走り、資料を探した。
貸し出し中だった。
尊師め、ここまで展開を読んだうえでプリントをよこしたらしい。あんないかず後家、呪われちゃえばいいんだわ。
あたしは、駅前の図書館と、大きな本屋で資料を当たってみようと思った。そこになかったら、今度は古本屋をしらみつぶしにする。古文は大嫌いだが、陰険な教師に負けるのはもっと嫌だ。
でも、その前に。
腹ごしらえをしておきたかった。昨日はしなかった、やけ食いだ。
そういえば、昨日、看板を見たら、あたしが食べたことのない新製品のポスターが躍っていたな。なんだっけ? 春の特選なんとか。そうだ、それがいい、それにしよう。
そう思い立ち、バス停そばのいつものモスへ行くことにした。
モスはそれほど混んではいなかった。図書室で時間を潰したから、混む時間帯から外れてしまったのだろう。
あたしはレジで、広告の品をスタッカートで叫び、半ばおびえ顔になっている店員の前に千円札を叩きつけた。店員は慌てたようにレジを操作し、あたしの前にお釣りを置いた。小銭をひったくると、番号札を取って、空いている席を物色した。
空いている席はいくらでもあったが、あたしの目は一つの席に釘付けになった。
線の細い、小柄な、つぶらな瞳の男の子が座っていたのだ。
逡巡は千分の一秒よりもまだ短かった。
あたしは、ずかずかとその男の子の席に向かって行った。
男の子と、あたしの視線がぶつかった。
あたしは機先を制していった。
「ここ、いいでしょ、西連寺くん?」
気迫に押されたのか、西連寺望は二、三回、なにかいいたげに口を動かしたものの、なにもいわずにうなずいた。
こうしちゃいられない。
あたしは、机を蹴立ててアキラの隣へ走り寄ると、大声で、
「木刀女っ!」
と叫んだ。
アキラの目の焦点がようやく合った。自分がなにをしているのかを認識するコンマ一秒の後、顔色がすうっと青くなる。
アキラは手をぱっと離して、おろおろといった。
「あ……あの、先生、こ……これは」
「迫水さん」
尊師の声は、意外と平坦だった。それがかえって恐ろしかった。
「放課後、生徒指導室へ来なさい」
「はい」
アキラは真っ青な顔で、うなずいた。
「それと」
「はい」
「教室の後ろで立ってなさい」
「はい」
アキラは肩を落として、後ろへと歩いた。
「国枝さん」
え? あたし?
「あなたは、生徒指導室へ来るのは免除してあげます。代わりに、明日までに、プリントをやってきなさい。プリントは、放課後、職員室で渡します」
なんであたしまで、とも思ったが、尊師には勝てない。
恨みがましく、立っているアキラを見た後、席へと戻った。
授業の内容はちっとも頭に入らなかった。
職員室でプリントを受け取った。細かい文字ばかりで三枚あった。「大鏡」かと思ったら、「増鏡」だった。どこで参考書を探せというんだ。あたしは、図書室へ走り、資料を探した。
貸し出し中だった。
尊師め、ここまで展開を読んだうえでプリントをよこしたらしい。あんないかず後家、呪われちゃえばいいんだわ。
あたしは、駅前の図書館と、大きな本屋で資料を当たってみようと思った。そこになかったら、今度は古本屋をしらみつぶしにする。古文は大嫌いだが、陰険な教師に負けるのはもっと嫌だ。
でも、その前に。
腹ごしらえをしておきたかった。昨日はしなかった、やけ食いだ。
そういえば、昨日、看板を見たら、あたしが食べたことのない新製品のポスターが躍っていたな。なんだっけ? 春の特選なんとか。そうだ、それがいい、それにしよう。
そう思い立ち、バス停そばのいつものモスへ行くことにした。
モスはそれほど混んではいなかった。図書室で時間を潰したから、混む時間帯から外れてしまったのだろう。
あたしはレジで、広告の品をスタッカートで叫び、半ばおびえ顔になっている店員の前に千円札を叩きつけた。店員は慌てたようにレジを操作し、あたしの前にお釣りを置いた。小銭をひったくると、番号札を取って、空いている席を物色した。
空いている席はいくらでもあったが、あたしの目は一つの席に釘付けになった。
線の細い、小柄な、つぶらな瞳の男の子が座っていたのだ。
逡巡は千分の一秒よりもまだ短かった。
あたしは、ずかずかとその男の子の席に向かって行った。
男の子と、あたしの視線がぶつかった。
あたしは機先を制していった。
「ここ、いいでしょ、西連寺くん?」
気迫に押されたのか、西連寺望は二、三回、なにかいいたげに口を動かしたものの、なにもいわずにうなずいた。
- 関連記事
-
- 夢逐人 第二部 サヤカ 7
- 夢逐人 第二部 サヤカ 6
- 夢逐人 第二部 サヤカ 5
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Comment ~
NoTitle
ちなみに窓ガラスを割った反省文で
原稿用紙いっぱいに「ごめんなさい」を書き連ねて、
最後に「本当です」。と書いて提出したことがあります。
・・・20年ぐらい前かなあ。。。
そういうのを真面目にする人って素晴らしいですね。
・・・と今回のを見ていて思いました。
原稿用紙いっぱいに「ごめんなさい」を書き連ねて、
最後に「本当です」。と書いて提出したことがあります。
・・・20年ぐらい前かなあ。。。
そういうのを真面目にする人って素晴らしいですね。
・・・と今回のを見ていて思いました。
- #13080 LandM
- URL
- 2014.03/25 20:38
- ▲EntryTop
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: LandMさん
昔のわたしは……うむむ。(^_^;)