「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢逐人
夢逐人 第三部 ノゾミ 1
第三部 ノゾミ
昨日、学校帰りに、コンビニで、新聞を六紙買った。家ではインターネットのサイトのハードコピーを取る。
地味な洋服の中でも、もっとも地味な物に袖を通して、帽子をかぶる。姿見で自分の姿を見てみた。なんだこれは。競馬か競輪か競艇に行く中年男の劣化コピーではないか。不審人物丸出し。着替えだ着替え。
西連寺望十六歳、まじめで貧相な高校生。
と、いうスタイルに化けるのに三十分もかかった。ぼくは、本当に舞踊を学んでいる男なのだろうか。修行しなくっちゃな。
今日は、完全に、稽古はない日だ。土曜日にしては珍しい。普通なら、のんびりしていてもいい頃合だが。
ぼくの心は、不安と緊張と、自分でも得体の知れないなにかによって、乱れまくっていた。
それでも、必死で勇を鼓して自分を奮い立たせる。鞄を持って、別な帽子をかぶれば、ほら、まじめ高校生のできあがり。
家を出て、ハードコピーを片手に、うろうろと自転車で走り回った。
目的の場所まで到達したときには、予想以上の時間がかかっていた。
鳥居の横の駐輪場で自転車を停めたぼくは、ハードコピーと案内図とを、ためつすがめつした。うっそうと木々が生い茂ったちょっとした小山。そして、その小山には、どこまで続くかもわからぬような長い長い石段が伸びているのだ。目指す、「鹿澄神社」にたどりつくには、その石段を登らなければならないらしい。だって、地図には、山のてっぺんに、神社があることになっているのだから。
覚悟を決めて登り始めた。体力には、それほど自信はないんだけど。
話では、この神社は霊験あらたかで、受験シーズンになると参拝客が殺到するそうだけど、本当かなあ?
でも、そうなるのもわかるような気がする。こんなきつい石段を登れるほど意志が強い人間なら、受験勉強も集中してやり遂げられるだろうし、たとえそうでなくても、ここを登るくらいのことをしたのだから、それと釣り合うだけのご利益があったのだと思い込む方が普通だろう。
三回くらい、霞んだ瞳に高天原が見えたところで、ようやく頂上にたどりついた。思ったよりも立派な神社だ。
とりあえず、口と手を清めたかった。正直に話せば、なにか、冷たさと水分がほしかったのだが。
神社だから当然だが、都合のいいことに、手を洗う場所があった。おあつらえ向きに、水がこんこんと湧いている。
ひしゃくで水をすくって、手と口を清め、ついでに顔まで洗うと、ようやく人心地がついた。
落ち着いたところで辺りを見回す。アキラちゃ……迫水さんはいないか。いないよな。そう都合よくいるわけないもんな。
はは……。ぼくは暗く笑った。生まれたときからの失敗続きで、習い性になってしまった淋しい笑いだ。
「お主、なにをやっとるのだ」
急に声をかけられて、びっくりして飛び上がった。
「ぼくですか?」
そういいながら、後ろを振り向く。そこには、小柄なぼくの肩くらいの背しかない、なで肩の老人が、ほうきを片手に立っていた。作務衣姿だ。この神社の人だろうか?
「お主以外に誰がいる。あのな、手水舎は顔を洗うところなどでは、断じてないぞ。さらにいっておけば、不衛生だから、ひしゃくに口をつけるな。ひしゃくの水は、いったん、手にあけてから口へ持っていくものじゃ」
「ははあ……」
ひとつ利口になった。
「それに、お主、神社に、どういう用があるのじゃ。なにをするでもなく、一人でけらけら笑っておるとは。悩み事があるのなら、ここよりも、むしろ、学校の保健室でも行くがよかろう。わしとて聴いてやらぬではないが、あいにくと口は相当悪いぞ」
そういわれると、我ながら確かに不審人物だ。
「怪しいものではないです」
ぼくは、自分でも説得力がないと思いながらいった。
昨日、学校帰りに、コンビニで、新聞を六紙買った。家ではインターネットのサイトのハードコピーを取る。
地味な洋服の中でも、もっとも地味な物に袖を通して、帽子をかぶる。姿見で自分の姿を見てみた。なんだこれは。競馬か競輪か競艇に行く中年男の劣化コピーではないか。不審人物丸出し。着替えだ着替え。
西連寺望十六歳、まじめで貧相な高校生。
と、いうスタイルに化けるのに三十分もかかった。ぼくは、本当に舞踊を学んでいる男なのだろうか。修行しなくっちゃな。
今日は、完全に、稽古はない日だ。土曜日にしては珍しい。普通なら、のんびりしていてもいい頃合だが。
ぼくの心は、不安と緊張と、自分でも得体の知れないなにかによって、乱れまくっていた。
それでも、必死で勇を鼓して自分を奮い立たせる。鞄を持って、別な帽子をかぶれば、ほら、まじめ高校生のできあがり。
家を出て、ハードコピーを片手に、うろうろと自転車で走り回った。
目的の場所まで到達したときには、予想以上の時間がかかっていた。
鳥居の横の駐輪場で自転車を停めたぼくは、ハードコピーと案内図とを、ためつすがめつした。うっそうと木々が生い茂ったちょっとした小山。そして、その小山には、どこまで続くかもわからぬような長い長い石段が伸びているのだ。目指す、「鹿澄神社」にたどりつくには、その石段を登らなければならないらしい。だって、地図には、山のてっぺんに、神社があることになっているのだから。
覚悟を決めて登り始めた。体力には、それほど自信はないんだけど。
話では、この神社は霊験あらたかで、受験シーズンになると参拝客が殺到するそうだけど、本当かなあ?
でも、そうなるのもわかるような気がする。こんなきつい石段を登れるほど意志が強い人間なら、受験勉強も集中してやり遂げられるだろうし、たとえそうでなくても、ここを登るくらいのことをしたのだから、それと釣り合うだけのご利益があったのだと思い込む方が普通だろう。
三回くらい、霞んだ瞳に高天原が見えたところで、ようやく頂上にたどりついた。思ったよりも立派な神社だ。
とりあえず、口と手を清めたかった。正直に話せば、なにか、冷たさと水分がほしかったのだが。
神社だから当然だが、都合のいいことに、手を洗う場所があった。おあつらえ向きに、水がこんこんと湧いている。
ひしゃくで水をすくって、手と口を清め、ついでに顔まで洗うと、ようやく人心地がついた。
落ち着いたところで辺りを見回す。アキラちゃ……迫水さんはいないか。いないよな。そう都合よくいるわけないもんな。
はは……。ぼくは暗く笑った。生まれたときからの失敗続きで、習い性になってしまった淋しい笑いだ。
「お主、なにをやっとるのだ」
急に声をかけられて、びっくりして飛び上がった。
「ぼくですか?」
そういいながら、後ろを振り向く。そこには、小柄なぼくの肩くらいの背しかない、なで肩の老人が、ほうきを片手に立っていた。作務衣姿だ。この神社の人だろうか?
「お主以外に誰がいる。あのな、手水舎は顔を洗うところなどでは、断じてないぞ。さらにいっておけば、不衛生だから、ひしゃくに口をつけるな。ひしゃくの水は、いったん、手にあけてから口へ持っていくものじゃ」
「ははあ……」
ひとつ利口になった。
「それに、お主、神社に、どういう用があるのじゃ。なにをするでもなく、一人でけらけら笑っておるとは。悩み事があるのなら、ここよりも、むしろ、学校の保健室でも行くがよかろう。わしとて聴いてやらぬではないが、あいにくと口は相当悪いぞ」
そういわれると、我ながら確かに不審人物だ。
「怪しいものではないです」
ぼくは、自分でも説得力がないと思いながらいった。
- 関連記事
-
- 夢逐人 第三部 ノゾミ 2
- 夢逐人 第三部 ノゾミ 1
- 夢逐人 第二部 サヤカ 9
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Comment ~
NoTitle
なんだか前も同じようなコメントをしたような。。。。
怪しい人でないという人ほど怪しい人はないという。。。。
ポールのさんの作るオジサマは渋いから作品に出してみたいですよね。
怪しい人でないという人ほど怪しい人はないという。。。。
ポールのさんの作るオジサマは渋いから作品に出してみたいですよね。
- #13109 LandM
- URL
- 2014.03/31 09:42
- ▲EntryTop
Re: カテンベさん
主人公はあくまで、アキラとノゾミとサヤカです。
ただしこの話はどう収拾するかというと……もがもがもが(^^;)
ただしこの話はどう収拾するかというと……もがもがもが(^^;)
おー
このコも時間遡りの語りになるかと思ったら、時間はそのまま進んでいくんですね
アキラよりも主人公ポジションにおさまったりするのかなぁ?
アキラよりも主人公ポジションにおさまったりするのかなぁ?
- #13099 カテンベ
- URL
- 2014.03/29 14:09
- ▲EntryTop
お待たせしました。ノゾミちゃんパートです。
わたしのこしらえた人間のなかでももっとも根性なし……でもないと思うんだがなあ(笑)
わたしのこしらえた人間のなかでももっとも根性なし……でもないと思うんだがなあ(笑)
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: LandMさん
迫水老人のモデルは、志水辰夫「裂けて海峡」に出てくる花岡老人です。この人と主人公の長尾のやり取りは、ハードな冒険小説のはずなのに腹を抱えて笑えるんだよなあ。