「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢逐人
夢逐人 第三部 ノゾミ 2
「はじめまして。迫水さんのおじいさんとお見受けしました。あの、晶さんにお会いしたいのですが」
「晶に会いたいじゃと? 確かにわしは迫水才蔵だが、なんで見も知らぬ男を通さねばならん」
「大事な話があるんです」
「大事な話があるのなら、まずは本殿に向かって礼をしろ。それが終わったら、自分の名前を名乗れ。それが正しい人の道というものだ」
慌てていたらしい。老人のいうことはもっともだ。ぼくは、うろ覚えながらも神社の建物に向かって礼をした。
「西連寺望といいます」
「学校は」
「青啓高校」
「青啓の学生が、晶みたいな蓉秀女子高の生徒になんの用がある」
「晶さん以外にはいえません」
「ふん。怪しい話じゃ」
老人はしかめつらをした。国枝さんの話を思い出して、ぼくの背筋が総毛だった。半径五メートル以内にいると、二秒で殺されてしまうとか。
ぼくはおろおろといった。
「本当です。信じてください。どうしても、また、晶さんに逢わないと」
「また?」
老人の目が、ぎらっと光ったような気がした。
「どこで最初に逢ったんじゃ」
ぼくは、当然、この前モスバーガーで、と答えるべきだったかもしれない。しかし、気が動転していたぼくは、つい、真実をしゃべってしまった。
「夢で……」
「夢?」
しまった。変なことを口走ってしまったらしい。五メートル。二秒。
がちがちになってしまったぼくには、うなずくことしかできなかった。
「はい」
老人が、考え込むような表情になった。
「夢か」
老人はくるりと背を向けた。
「ついてこい」
「え?」
「早くせんか」
ぼくは、早足の老人についていった。老人は、道の端ばかりを歩いて行く。
通されたのは、板張りの、ちょっとした広さの……。
「あの、ここは」
ぼくは、声が震えてくるのを抑え切れなかった。
「道場?」
老人は、冷たい声で答えた。
「他になにに見える。それから、礼をするのを忘れておるぞ」
ぼくは、いわれるがままに頭を下げ、あたりを見回した。たしかに道場だった。壁には、幾本もの、微妙に長さの違う木刀に、木の槍、棒、その他、ぼくにはなんという名前なのかさっぱりわからない様々な木製の武器がかけられていたのだ。そして達筆な「精神一到」の額。これで道場でなかったら、なにかの間違いである。
「座れ」
老人にいわれて、とりあえず、ぼくは正座したが、それでも体温がどんどん低くなってくるのが自分でもわかった。
「ふむ」
老人がうなずいたように見えた。うなずくといっても、なににうなずくのだ。見間違いに違いない。
「待っておれ」
「あ、あの」
「すぐに戻る」
老人はすたすたと出て行ってしまった。
国枝沙矢香の声が耳元でしつこく甦る。五メートルで二秒、五メートルで二秒……。ぼくは、その声に抗するために、目をぎゅっとつぶった。
「晶に会いたいじゃと? 確かにわしは迫水才蔵だが、なんで見も知らぬ男を通さねばならん」
「大事な話があるんです」
「大事な話があるのなら、まずは本殿に向かって礼をしろ。それが終わったら、自分の名前を名乗れ。それが正しい人の道というものだ」
慌てていたらしい。老人のいうことはもっともだ。ぼくは、うろ覚えながらも神社の建物に向かって礼をした。
「西連寺望といいます」
「学校は」
「青啓高校」
「青啓の学生が、晶みたいな蓉秀女子高の生徒になんの用がある」
「晶さん以外にはいえません」
「ふん。怪しい話じゃ」
老人はしかめつらをした。国枝さんの話を思い出して、ぼくの背筋が総毛だった。半径五メートル以内にいると、二秒で殺されてしまうとか。
ぼくはおろおろといった。
「本当です。信じてください。どうしても、また、晶さんに逢わないと」
「また?」
老人の目が、ぎらっと光ったような気がした。
「どこで最初に逢ったんじゃ」
ぼくは、当然、この前モスバーガーで、と答えるべきだったかもしれない。しかし、気が動転していたぼくは、つい、真実をしゃべってしまった。
「夢で……」
「夢?」
しまった。変なことを口走ってしまったらしい。五メートル。二秒。
がちがちになってしまったぼくには、うなずくことしかできなかった。
「はい」
老人が、考え込むような表情になった。
「夢か」
老人はくるりと背を向けた。
「ついてこい」
「え?」
「早くせんか」
ぼくは、早足の老人についていった。老人は、道の端ばかりを歩いて行く。
通されたのは、板張りの、ちょっとした広さの……。
「あの、ここは」
ぼくは、声が震えてくるのを抑え切れなかった。
「道場?」
老人は、冷たい声で答えた。
「他になにに見える。それから、礼をするのを忘れておるぞ」
ぼくは、いわれるがままに頭を下げ、あたりを見回した。たしかに道場だった。壁には、幾本もの、微妙に長さの違う木刀に、木の槍、棒、その他、ぼくにはなんという名前なのかさっぱりわからない様々な木製の武器がかけられていたのだ。そして達筆な「精神一到」の額。これで道場でなかったら、なにかの間違いである。
「座れ」
老人にいわれて、とりあえず、ぼくは正座したが、それでも体温がどんどん低くなってくるのが自分でもわかった。
「ふむ」
老人がうなずいたように見えた。うなずくといっても、なににうなずくのだ。見間違いに違いない。
「待っておれ」
「あ、あの」
「すぐに戻る」
老人はすたすたと出て行ってしまった。
国枝沙矢香の声が耳元でしつこく甦る。五メートルで二秒、五メートルで二秒……。ぼくは、その声に抗するために、目をぎゅっとつぶった。
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NoTitle
「半径五メートル以内にいると、二秒で殺されてしまう」なんて聞いていたら、
それは総毛立ってしまいますよね|´・ω・`)
それにしても、二秒・・・。
もうパパッと殺されちゃうんでしょうね((゜Д゜;)))オソロシイ
それは総毛立ってしまいますよね|´・ω・`)
それにしても、二秒・・・。
もうパパッと殺されちゃうんでしょうね((゜Д゜;)))オソロシイ
Re: 安田 勁さん
アキラちゃんは百合の趣味はないでしょう(^^;) なにせ「同性から」のラブレターをいちいち律儀に断ってきた女であるし(笑)
ノゾミくんは……まあなんだ、障害物は山ほどあるが、それでもがんばれノゾミくん(笑)
ノゾミくんは……まあなんだ、障害物は山ほどあるが、それでもがんばれノゾミくん(笑)
NoTitle
最初のイメージのせいで、ノゾミ君が女の子に見えて仕方がありません。
悔しい。いやでも、百合もアリだな…(錯乱中)
悔しい。いやでも、百合もアリだな…(錯乱中)
- #13105 安田 勁
- URL
- 2014.03/30 11:22
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Re: ツバサさん
2.5秒かな?(笑)