「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第三部 ノゾミ 9

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     混乱した。

    「夢を手がかりにって、ぼくが見た夢って、あれだけですよ? 意味も分からないのに、どうやってそれを手がかりに?」

    「まずは、今日見た夢を話してくれんか」

     ぼくは、手短に、自分の見た夢について話して聞かせた。

    「なるほど、蝶が飛んだか」

    「そうだけど……これが?」

    「それについて云々する前に、その薬を飲め」

     ぼくは、テーブルの上の白い錠剤を見た。透明なプラスチックを押して、薄い銀紙を破ることで錠剤を出すタイプのケースに、一錠ずつ納まっている。

    「なんですか、これ?」

    「晶の話じゃと」

     老人はひと呼吸置いた。

    「馬でも夢を見ずにぐっすり眠る、超強力な睡眠薬だというこじゃった」

    「迫水さんはどこでこんなものを!」

    「それはどうでもいいじゃろう。不本意かも知れぬが、お主には、しばしの間、眠ってもらわなければならん」

    「気になりますよ。迫水さん、不眠症だったんですか?」

    「入手先は、信頼できる医療機関じゃ。それでいいじゃろう」

     納得はしていなかったが、ぼくは、老人の必死な様子に押されて、うなずいていた。

    「それで、ぼくは、眠った後、どうなるんです」

    「ついてこい。水と薬を忘れずにな」

     老人の後から、ぼくはおっかなびっくりついていった。

     まず、手水舎で、手と口を清める。この水差しの水は清めなくていいのかな。きっとすでに清めてあるのだろうけど。

     さっぱりした後で、案内された先は、神社の建物だった。開けられた扉の中を見て、ぼくはひっくり返りそうになった。

     床がのべてあった。それだけなら、安手のお色気ドラマだが、その周囲には、祭壇だの注連縄だの、専門的にはいったいなんと呼ぶのか想像もつかないような祭礼の道具による布陣が組まれていた。そして、床のそばには、寄り添うようにして、鞘に入った長い日本刀が。昨日、老人がぼくの目の前で抜いたやつのようだが。

    「な……なんです、これ?」

    「鹿澄夢刀流第五代、迫水文治郎時直は、陰陽道にも精通なされたかたであった」

     老人は、ぼくにはさっぱりわけのわからない話をし始めた。

    「夢の知識と、それを操る技を求め、遠く京まで赴いて修行すること五年、ついにその技を得ることに成功したのじゃ」

     それがこれらしい。

    「ずいぶんと怪しげですね」

    「宗教と神秘主義がからんでおるからな」

    「あっさりいいますね」

    「わしは事実が好きじゃ」

    「それにしても、神社の本殿にこんなことして、バチは当たらないんですか?」

    「これは本殿ではない。本殿はこの裏。この建物は拝殿といって、神への祭祀や祈願が行われるところじゃ。まったく、近頃の高校生は学がないから困る」

     というと、老人はいらだたしげに続けた。

    「それでお主、早く飲まんか」

    「はあ」

     ぼくは、すでに飲む気になっていた。この老人は、その気になれば、ここまでのこのこ出てきたぼくに、刀で脅したり、場合によっては腕ずくで、などという手段で、薬を飲ませることも可能だったはずだ。

     それをしなかった、ということは、老人もまた焦っていて、そして、いくばくかの誠意があるという証拠に違いない。

     迫水さんの様子も気になる。どうせ手がかりがなにもないならば、喜んで人身御供になってやろう。

    「何錠飲めばいいんですか?」

    「全部飲んだら、本当に夢もなにも見ずに眠りかねん。一錠でいいじゃろう。わしらの役に立つのは、お主の夢じゃからな」

     ぼくは、コップと水差しを地面に置き、ケースから錠剤を一錠押し出すと、つまんで口に入れ、飲み込んだ。続けて水を飲む。

    「拝殿に向かい、二回頭を下げて、二回手を打って、一回頭を下げろ」

     ぼくは、いわれたとおりにした。

    「おじゃまします」

     といって、拝殿へ上がった。ほんとうにこれでいいのかなあ。

     布団に横たわり、目を閉じる。

     いいのかなあ。

     しかし、迫水さんも心配だ……し……。

     睡眠薬はすごい効き目だったらしい。

     ぼくはいつの間にか眠りに落ちていた。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    睡眠薬については次の節をお読みいただければいいかと(笑)

    ふっふっふっ(笑)

    NoTitle

    強力な睡眠薬ということで怪しいのは。。。
    まあ、ポールさんも知っていることか。
    最近のそれは飲み過ぎても死ぬことはないですがね。
    苦しんでのたうち回るだけです。
    別のところに視点がいってしまった(-_-)

    Re: 山西 サキさん

    がんばれ西連寺くん。でもどこかひ弱(^^;)

    NoTitle

    来た来た~~!!!
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