「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第三部 ノゾミ 10

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    ……



     夢を見ていた。

     ぼくは、青啓の制服を着ていた。

    『ここは……どこじゃ?』

     どこからともなく聞こえてきた声に、思わず、どきっとした。

    「誰だ!」

     恐慌を含んだぼくの叫びに、声は静かに答えた。

    『迫水才蔵に決まっておろうが……』

     ほっとしたのが半分だった。もう半分の、疑いを込めた声で、ぼくはささやいた。

    「これは、ぼくの夢ですよ。なんであなたが出てくるんです」

    『いったはずじゃぞ。第五代、迫水文次郎時直は、陰陽道をよくし、夢を操る技を会得したと。わしは、お前の頭の中で、お前の目と耳を借りておる。この声も、お前だけにしか聞こえんわ』

     えっ……!

    「あれは本当のことだったんですか!」

    『わしは事実が好きじゃともいったはずじゃ』

     そうだけどさあ。

    『ところで、もう一度聞くぞ。お主がいる、ここはどこじゃ』

     ぼくは周囲を見渡した。

     ごくありふれた日本庭園。池があり、草木があり、橋がある。

     昨日も見た。今日も見た。夢でも見たし、現実でも見た。

    「ぼくの家の庭です」

    『間違いないのか?』

    「子供のころに飽きるほど見て、再び越してきてからも飽きるほど見てます。間違えるわけがありません」

    『ならば、案内を頼む。わしの目には、ぼんやりとしか見えぬでな』

    「わかりました」

     そういえば。

    「今、現実世界ではどうしてるんですか」

    『わしの身体は、お主の前で寝ておるよ。そのくらいかまうまい。男と添い寝するほどわしは趣味が悪くないはずなのじゃが』

    「ふうん」

     ぼくの頭は、どこかマヒしていた。人間、異常事態ばかりが続くと、それに適応してしまうらしい。

    「あなたも、薬を飲んだんですか?」

    『あんなもの、誰が飲むか。晶が学校の保健室でもらってきたものじゃぞ。お主が来る前に、本で調べてみたが、眠くなる成分こそ含まれておるものの、市販のごくごく弱い精神安定剤じゃよ。あれを飲んでアッという間に眠ってしまうとは、お主、そうとう暗示に弱いと見えるのう』

    「えっ……」

     プラシーボ効果というやつだろうか。なんてこったい。

     老人は、じれったそうに訊ねてきた。

    『蝶はどちらから飛んできた? カンでいい』

    「こっちだったかな」

     ぼくは、足を踏み出そうとした。

     一歩進んですっ転んだ。

     なんだ?

    『どうした』

    「足が、なにかにからまって。なんだ、これ?」

     ぼくは、足もとを見た。なにか、黒くて長い、棒のようなものが落ちている。

     拾い上げた。

    『なんじゃった』

     自分がなにを手にしているかに気づいて、ぼくの声は裏返った。

    「こ、ここ、ここ、これ……日本刀ですよ!」

    『日本刀……お主、それが持てるのか!』

    「持てるわけないでしょう! 使い方だって知らないのに」

    『そんなことを話しておるのではない。まあよい。よいか、決してそれを手から離すでないぞ』

    「これを?」

    『そうじゃ。生きるも死ぬも、それにかかっていると思え』

     生きるの死ぬのって、これ、夢なんですけど。そう抗議しようと思ったが、やめた。なにをいっても無駄なような気がしたので。

    『さあ、蝶が飛んで行ったほうに歩いてみよ』

    「まっすぐ?」

    『まっすぐ』

     ぼくは、首をひとつ振ると、歩き始めた。
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    Re: ツバサさん

    わたしの大好きなゲームや小説、アニメでは、夢の中でも武器がないと、敵にやられて精神的に多大なダメージを受けてしまうんです。(^_^;)

    世の中そういうものなんです(笑)

    NoTitle

    自分の見ている夢に他の人が出てきたら相当驚きますよね\(゜Д゜)ノ
    それにしても日本刀が「生きるも死ぬも、それにかかっている」とはいったいどういう事なんでしょう(´・ω・`)?
    でも、なんとなく夢の中と言えども武器があると安心しそうです(笑)
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