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    「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第三部 ノゾミ 12

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    「な、なんだ、これ」

    『闇切が夢膿を浄化したのじゃ』

    「は?」

    『いいから、よけいなことを考えんで、刀を先頭にして壁に当たらんか! 駆け足! 突撃! 突っ込めえ!』

     つくづく、押しが弱い性格だ。

     ぼくは、いわれるがままに、刀を槍のように突き出すと、へっぴり腰のまま、目をつぶって前へと突進した。

     刀に、なにか力が宿っているのか、まさかとは思うが、ぼくに、なにかの力が宿っているのか、それとも、夢ながらの御都合主義にすぎないのか、目の前に立ちはだかっていた壁は、モーゼが海を割るかのように、ぼくの突撃に対してすうっと道を開けていった。刀の切っ先に、軽くはあるが確かな手応えがあるため、存在はわかるものの、それがなければ、本当にあることすらも疑ってしまうような頼りない壁だ。

    『うぬぼれるでないぞ』

     老人が、ぼくの心を読み取ったかのようにいった。

    『闇切がなければ、お前なぞとうの昔に、夢膿に呑まれておる』

     また、よくわからない話を。しかし、そのおかげで生きているのかもしれない。

    「そうですね」

     ぼくは、話を合わせた。

     切っ先から、手ごたえが消えた。

     同時に、まぶしい光が洩れてくる。目がくらみそうになった。

     しかし……これは、なんだ?

     どうして、この光は、かくも禍々しい感じがするのだ!

     ぼくは、立ち止まった。光を、危険なものだと思ったから、だけではない。

     まぶしい光の洩れてくる先から、声のようなものが聞こえてきたからだ。

    「あなたは、あたしだけのものよ……」

     官能的で、情熱的な声だった。

    「もう、渡さない、誰にも、あの男にも、誰にも……」

     ぼくと、老人は、同時に、同じことを考えていた。

    『あの声は!』

     それは、国枝さんの声に間違いなかった。

     じゃ、相手は、誰だ?

     ぼくは、光が洩れている隙間に目を近づけ、覗き込んだ。

     紫と茶のまだら模様をした、粘液に埋もれて、迫水さんが顔だけを出していた。その目は閉じられていた。

     そしてそこに絡みつくように、国枝さんがいた。そう、絡みつくように。間違いじゃない。なぜなら、ぼくの目の前にいる国枝さんは。

     人面蛇体だったのだ。

     頭が沸騰した。

     ぼくは、刀を使い、穴をこじあけて乗り込もうとした。

    『待てい!』

     頭の中で、老人の大喝が炸烈した。うわんうわんと残響が、脳髄を駆け巡った。

    「どうして止めるんです」

     ぼくは、小声でささやいた。そうできるだけの冷静さを、さっきの大喝が取り戻してくれていた。

    『あの声は沙矢香ちゃんじゃ』

    「知ってます」

    『だとしたら、すぐに晶の命を奪うとかいうことはせんじゃろう。というより、晶の命を奪う、などということを考えているかどうかも疑問じゃな。ここは慌てず、沙矢香ちゃんのいうことを聞いてからでも遅くはないじゃろう』

    「そんな悠長な。ぼくたちがこうして夢を見ている間にも、晶さんたちはどうなっているか……」

    『ここでこうして夢に出てきている限り、晶は安心じゃ。ほれ、お前もいうておったろうが。晶の夢を見たことがあると。隣で晶が顔を赤らめていたことを忘れたのか? あれは、晶も、お主と同じ夢を見ていたのじゃよ。いわば、晶とお主は、夢において直結しているのじゃな』

    「本当に?」

    『あの後、晶に問いただしたからな。嘘をついている顔ではなかったぞ』

     そうだったらいいな、と、薄々は思っていたが、実際にこうしていわれてみると、なんとなく信じられないという気持ちのほうが大きかった。

     しかし、老人は、そういう前提で話をしている。

     ぼくは、自分の心に平静を保たせようと努力しつつ、いった。

    「夢から覚めたら、ぼくに隠していることを全部聞かせてもらいますよ。ここまで来た以上、ぼくにも、知る権利というやつがあるんですからね」

    『しゃべれないこともあるんじゃが、是非もあるまい。これが全て片づいたら、話せることだけは話して進ぜよう』

    「約束ですよ」

    『二言はない』

     その言葉を信じ、ぼくは、国枝さんの声のほうに耳を澄ませた。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    やっぱり脳裏に、邪恋に燃えるヒロインといったら安珍と清姫の清姫なんだよなあ。

    沙矢香ちゃんにもそのうちお似合いの相手が……見つかるといいな(笑)

    やっぱり続きが気になって

    ちょっとだけ、と読み始めたら、沙矢香ちゃん失踪! 望くんの神社訪問! 晶ちゃんまで失踪! ……と、クリックする手が止まらなくなり、ここまで一気に読み進んでしまいましたよ(^_^;)

    そして沙矢香ちゃーん。思いっきり気持ちをこじらせてる!
    彼女は……多分、一生愛情関係で苦労しそうですね。恋愛したら恋愛の沼にハマりそうだし、子供産んだら溺愛したりとか。

    愛情をこじらせた女性が人面蛇体、は伝統芸能的でいいですね。

    望くんの頑張りが自分的にかなりツボです。がんばれ男の子!
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