「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢逐人
夢逐人 第三部 ノゾミ 13
国枝さんは、とろりとした目で、赤い舌を伸ばし、迫水さんの頬をちろちろとなめていた。
「アキラ、あなたも、あたしたちと同じく、仲間になっちゃいなさいよ。そうすれば、あたしとあなたは、夢の中ではいつだって一緒にいられるんだから……」
ぼくは、老人にささやいた。
「あたしたち、っていいましたよ。仲間、とも」
『そうじゃな』
「知っていることと、なにか関係があるんですか?」
『それについて、今ここで話しても、百害あって一利なしじゃぞ。それにしても、沙矢香ちゃんは、晶に、いったいなにをしてるのじゃ。ぼんやりとしていてよく見えん』
「見ないほうがいいです」
ぼくは、赤面した。
突如、国枝さんが、釜首(?)を持ち上げた。
「うるさいわねっ」
ぼくは、見つかったかと思って、身がすくんだ。
でも、それは、早とちりだったようだ。国枝さんは、ぶるぶると身体を震わせると、叫んだ。
「あたしは、好きなようにやるの! 目だかなんだか知らないけれど、あたしはあんたらの道具じゃないんだから!」
そして、また、とろりとした目になって、迫水さんに頬擦りをする。
露骨にエロチックだった。
ぼくは、老人にささやいた。
「どうやら、国枝さんも、ぼくたちと同じようなことになっているらしいですね」
『そのようじゃな』
「『目』というのはなんでしょう? 国枝さんの後ろでなにかやっているやつらの名前でしょうか?」
『いや。話の流れからすれば、沙矢香ちゃんが、「目」という道具にされていると考えるほうが自然じゃろう。おそらく、沙矢香ちゃんをどうこうしている相手は、夢の中で判然と物を見るための目を持っていない。だから、沙矢香ちゃんの視力を借りて物を見ておるのじゃな。ちょうど、わしがお主の目と耳を借りておるように』
なるほど。
国枝さんは、迫水さんの身体の前から動かない。しゃべっていることも、大して内容は感じられないことばかりだった。
ぼくは、じりじりした。
「このままここで見ていろっていうんですか」
『お主、沙矢香ちゃんを斬れるか? 精神論でなく、肉体的に』
「えっ」
ぼくは、言葉に詰まった。そういえば、ここは夢の中とはいえ、ぼくは剣の修行なんかまったくしたことはない。小学生のころに見た夢の中で、アキラちゃんにいわれたように、武術の門を叩いておくんだった。
「でも、このままでは、絵に描いたような、じり貧です」
『慌てるでない。その刀を、晶に渡せれば、こちらにもチャンスがある。問題は、沙矢香ちゃんが、晶の前に陣取って離れない、ということじゃ。なにか、沙矢香ちゃんの気をそらせられるものさえあればいいのじゃが』
「そんなもの、ここにはなにも……」
なにも?
ぼくは、肩を見た。
老人が、叫んだ。
『それじゃ!』
ぼくの肩に止まっている蝶が、かすかに身じろぎしたように見えた。
「アキラ、あなたも、あたしたちと同じく、仲間になっちゃいなさいよ。そうすれば、あたしとあなたは、夢の中ではいつだって一緒にいられるんだから……」
ぼくは、老人にささやいた。
「あたしたち、っていいましたよ。仲間、とも」
『そうじゃな』
「知っていることと、なにか関係があるんですか?」
『それについて、今ここで話しても、百害あって一利なしじゃぞ。それにしても、沙矢香ちゃんは、晶に、いったいなにをしてるのじゃ。ぼんやりとしていてよく見えん』
「見ないほうがいいです」
ぼくは、赤面した。
突如、国枝さんが、釜首(?)を持ち上げた。
「うるさいわねっ」
ぼくは、見つかったかと思って、身がすくんだ。
でも、それは、早とちりだったようだ。国枝さんは、ぶるぶると身体を震わせると、叫んだ。
「あたしは、好きなようにやるの! 目だかなんだか知らないけれど、あたしはあんたらの道具じゃないんだから!」
そして、また、とろりとした目になって、迫水さんに頬擦りをする。
露骨にエロチックだった。
ぼくは、老人にささやいた。
「どうやら、国枝さんも、ぼくたちと同じようなことになっているらしいですね」
『そのようじゃな』
「『目』というのはなんでしょう? 国枝さんの後ろでなにかやっているやつらの名前でしょうか?」
『いや。話の流れからすれば、沙矢香ちゃんが、「目」という道具にされていると考えるほうが自然じゃろう。おそらく、沙矢香ちゃんをどうこうしている相手は、夢の中で判然と物を見るための目を持っていない。だから、沙矢香ちゃんの視力を借りて物を見ておるのじゃな。ちょうど、わしがお主の目と耳を借りておるように』
なるほど。
国枝さんは、迫水さんの身体の前から動かない。しゃべっていることも、大して内容は感じられないことばかりだった。
ぼくは、じりじりした。
「このままここで見ていろっていうんですか」
『お主、沙矢香ちゃんを斬れるか? 精神論でなく、肉体的に』
「えっ」
ぼくは、言葉に詰まった。そういえば、ここは夢の中とはいえ、ぼくは剣の修行なんかまったくしたことはない。小学生のころに見た夢の中で、アキラちゃんにいわれたように、武術の門を叩いておくんだった。
「でも、このままでは、絵に描いたような、じり貧です」
『慌てるでない。その刀を、晶に渡せれば、こちらにもチャンスがある。問題は、沙矢香ちゃんが、晶の前に陣取って離れない、ということじゃ。なにか、沙矢香ちゃんの気をそらせられるものさえあればいいのじゃが』
「そんなもの、ここにはなにも……」
なにも?
ぼくは、肩を見た。
老人が、叫んだ。
『それじゃ!』
ぼくの肩に止まっている蝶が、かすかに身じろぎしたように見えた。
- 関連記事
-
- 夢逐人 第三部 ノゾミ 14
- 夢逐人 第三部 ノゾミ 13
- 夢逐人 第三部 ノゾミ 12
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

~ Comment ~
NoTitle
百害あって一利なしか、、、
実際にそういうことがあるのか微妙ですけどね。
実際には百害あって一利なしより百害あって一利しかない。
…の方が適切なような気がするのは。
今までの人生経験ですかね。
まあ、その辺は人次第でしょうね。
私は何事にも一利はあると考える性格だからでしょうかね。
実際にそういうことがあるのか微妙ですけどね。
実際には百害あって一利なしより百害あって一利しかない。
…の方が適切なような気がするのは。
今までの人生経験ですかね。
まあ、その辺は人次第でしょうね。
私は何事にも一利はあると考える性格だからでしょうかね。
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: LandMさん
今の政権与党も似たようなことをしてるんじゃないかなあ。と考えたがるわたしはサヨクの悲観主義者(^_^;)