「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第三部 ノゾミ 14

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    「無理です」

     不可能に決まってる、というのが、老人が話した作戦に対するぼくのいいぶんだった。

    「相手は蝶ですよ。そんなことができるわけないでしょう」

    『やってやれんことはないじゃろ。現に、お主をここまで案内してきたのも、その蝶ではないか』

    「だからといって、日本語がわかるだなんて思えません」

    『なんと、固定観念に支配された男じゃ。もっと発想を柔軟にせんと、よい大学に入るのは無理じゃぞ』

    「ぼくの進路にまで気を配っていただかなくても結構です。まったく、柔軟すぎる思考というのも、問題だと思いますよ。だいたい」

     ぼくは、頭の中で老人がいったことを、言葉に出してくりかえした。

    「この蝶に、一瞬でいいから、あの国枝さんの注意を引きつけるようにして飛んでくれ、なんていって、わかると思うんですか」

     ぼくがそういったとたんだった。

     蝶がはばたいた。

     止める間もなく、蝶はぼくの肩から飛び立つと、切れ間を通って、光の中に入って行った。

    「!」

    『話せばわかるんじゃ。いいか。沙矢香ちゃんが動いたら、飛び込め。飛び込んだら、刃を晶に押しつけるようにして、刀を渡すんじゃ。わかったか』

     ぼくは慌てて隙間に目をやり、覗き込んだ。

     国枝さんは、迫水さんに夢中で、なかなか蝶には気づいてくれないようだった。蝶は、ふわふわ、ひらひらと、その視界をかすめるように飛んだ。

     じりじりする数瞬が過ぎた。

     国枝さんが、いぶかしそうな顔をして、振り返った。

    「なに? あれを、どうしろって?」

     国枝さんは、見えない誰かに、そういった。どうやら、ぼくと同じように、頭に直接リンク(?)している相手と話しているらしい。

     国枝さんの唇が、きゅっと持ち上がった。

     迫水さんの前でとぐろを巻いていた蛇体が、するりとほどけた。

     国枝さんの目が、完全にこちらからそれた。伸び上がるように身を持ち上げる。

     今だ!

     ぼくは、刀を力いっぱいに突き出し、全速力で突進した。

     粘液の壁が破れ、ぼくは、たたらを踏みながら、光の中に躍り込んだ。そのまま、迫水さんだけを見ながら、その粘液に埋まった身体に、縦に刃の背を押し当てる。

     刀の効果は劇的なものだった。迫水さんの身体を覆っていた粘液が、蒸発でもしていくかのように消えていく。

     ぼくは、その柄を、自由になった迫水さんの右手に握らせた。

     右肩に、焼けた鉄の棒を押し当てられたような激痛を感じた。

     振り向いた。

     鬼のような形相の国枝さんと目が合った。

     ぼくの肩には、牙が食い込んでいた。国枝さんの牙だった。

     国枝さんが暴れた。右肩が、激しく引きずりまわされる。ぼくは、痛みと衝撃とからバランスを崩し、前のめりに倒れた。よくも肩口が千切れなかったものだ。

     倒れたぼくの身体に、国枝さんが絡みついてきた。うちの学校の同級生たちの中には、夢に見ることもあるかもしれない光景だったが、蛇の身体にまとわりつかれているぼくには、ただ単に、気持ち悪いだけだ。

     気持ち悪いで済んだらマシだった。

     国枝さんは、ぼくの身体を、猛烈な勢いで締め付けてきたのだ!

     骨がぎしぎしと鳴るのではないかと思われた。いや、ぼくは確かに、自分の頭にそんな音が響いてくるのを感じた。

    「わああああああっ!」

     全身を責めさいなむ苦痛に、ぼくは絶叫して転げまわった。それでも国枝さんは離れない。

     意識が遠くなりかけたとき、不意に身体が自由になった。

     ぜえぜえと息を切らしながら、なにが起こったのかと辺りを見回すと、びくびくとのたうっている、蛇の胴体が目に飛び込んできた。

     その首に当たる部分は、すっぱりと、金太郎飴のように両断されていた。

     ぼくは顔を上げた。

     一瞬、ぼくは自分の目は吸い寄せられるように動かなくなった。

     夕陽のような、緋色の羽織袴に身をつつんだ迫水さんが、刀を構えていたからだ。その顔は能面のような無表情だった。

    『この馬鹿娘』

     頭の中で、老人がいった。
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