「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第三部 ノゾミ 17

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    「ほほう」

     老人は、うれしそうな声を出した。

    「いいお孫さんじゃな」

    「家を裏切ったのですから、不出来ですよ」

     ぼくの心に、その言葉は痛烈に響いた。

     老人は、驚いたとばかりにいった。

    「家族の人さらいを糾弾してはいけないなどとは、昔の人もいっておらんかったはずじゃなかったかの?」

    「昔の世界で、そんなことをしたら密告者も死罪ですよ。江戸時代に、親の殺人を密告した嫁が、死罪となっています」

    「あの事件では、新井白石が奔走して、死罪は逃れられたものだとばかり思っておりましたがな。まあよろしい。わしが見るところ、あなたのお孫さんは、愚かかも知れんが、間違ったことはしておらん。その祖父に比べたら、ですがな」

    「孫の出来不出来については、後で場を設けて話し合いたいものです。ところで、そんなことを話すために、ここまできたわけではないでしょう?」

    「まさしく。こちらの要求は簡単じゃ。沙矢香ちゃんと、晶と、影切を返していただきたい」

    「いやだといったら」

    「あなたの心臓が止まることになりますな」

    「面白い。その刀でですか?」

    「お望みなら」

     どちらの顔も、笑みはたたえているが、その視線は凍りつくように冷たかった。

     数秒の間、空気がかちかちに固まったように思えた。

     先に力を抜いたのは、祖父のほうだった。

    「斬りにいらっしゃらないようですな」

    「はじめから血を流すことを前提にしてもしかたのないことですのでな」

     老人はそういうと、掌を妙な形に握った。

    「もう一度いいますぞ。沙矢香ちゃんと、晶と、影切を返していただきたい」

    「その前に、こちらにも、見返り、というものがあってしかるべきだと思うのですが」

    「命、では、不足ですかな?」

    「これは手厳しい」

     二人の老人は、ひとしきり笑った。

     笑い終えると、迫水老人は、無表情な顔になった。

    「なぜかようなことを、と聞いたら失礼ですかな」

    「いえ、別に。そちらも気づいていらっしゃるでしょうが、われわれも、仲間を増やす必要があった、ということですよ。室町から今に至るまで、あなたがたの執拗なやりかたにより、われわれは多くの仲間を失ってしまったのですから」

    「なんのために増やすので」

    「生物が増えるのに理屈が入用ですか?」

    「それもそうですな」

    「晶さんなら、実に有能な、我らの仲間になってくれたはずなのですが」

    「沙矢香ちゃんのように?」

    「国枝さんのようにです。あの子は、いい子だ」

     祖父の言葉にも、老人は激する様子も見せなかった。ただ単に、無表情が、より能面みたいになっただけだ。

     老人は、低い声でいった。

    「沙矢香ちゃんは返してもらいますがな、さらったことに対するもみ消し工作に協力する、というのではいかがかな?」

    「ほう」

     祖父も無表情になっていた。

    「沙矢香ちゃんには、記憶喪失になっていた、ということになっていただく。その間のことは、なにもなかったことになりますな。それが誰にとっても万々歳だと」

    「忘れておられるようだが、あなたのお孫さん……でいいんですかな? は、こちらに刀物を持って乗り込んで来たことを忘れているのでは?」

    「動機を考えれば、酌量の余地はある、と、警察でも考えるのではないかな。もしかしたら学校にいられなくなるかもしれんが、なに、学校へ行かなくともまっすぐに育った人間は幾万人とおる。それに、そんな大きなことになって、困るのは、わしらよりもむしろお主のほうだと思うのでな」

     祖父は、しばらく、黙った。

    「呑んだほうがよさそうですね」

    「ご理解いただけてよかったですじゃ」

     老人は、そういうと、半歩下がった。

    「どうしました?」

    「あの女将では、どうも頼りないので、しっかりと案内をしてくれる人がほしかったのじゃよ。とはいえ、お主を、わしの後ろには、置きたくないものでの。前方を歩いてくれんかのう」

     祖父は、無表情で、従った。
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    Re: ツバサさん

    実力者同士の言葉の応酬って、書いていると楽しいんですよね。

    互いに相手の先へ先へと思考を回すわけですから。

    書いていると自分が頭がよくなったように思える(゜゜☆\(^^;サッカク!

    NoTitle

    おー・・・、こういう言葉の応酬でも迫力がありますね~(゜Д゜)))
    顔は笑っているのに、目には殺気が物凄くあるんでしょうねー。
    いやはや、こういう場には居合わせたくないものです(笑)

    Re: レルバルさん

    わたしもそういう話は大好きなのであります。

    「名人戦」というところですかな(^^)

    NoTitle

    こういう老人っていうのはこう。
    弱いように見せかけてどちゃくそ強いっていうのが鉄板なんだと思うのであります。
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