「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 第三部 ノゾミ 18

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    「晶さんは、静かにお迎えしたのですが、周囲に、屈強そうな高校生を配置したのは、我ながら失敗でした。特に、うちの一人に、バットを持たせたのは大失敗でした」

     廊下を歩きながら、祖父が、話題を変えた。

     老人は、当然のことを聞いた、というように軽くうなずいた。

    「それで、あそこに高校生がごろごろ転がっていたのですな」

    「十秒もしないうちにバットが奪い取られ、あっという間に全員が殴り倒されてしまいました」

    「それで、なにを使ったのですかな。ハロセン?」

    「かないませんね」

     理解できない。ぼくは、この凍りつくようなやりとりを緩和しようと、いった。

    「ハロセンってなんです?」

    「望。黙っていられないのか」

    「よいではないですかな。若いの、ハロセンというのは、麻酔ガスの一種じゃ。今の話によると、うちの晶はそれで熟睡中、というわけじゃな。興味があったら事典で調べてみい」老人は含み笑いをした。「バットがあったことは幸運だったかも知れませんぞ。晶が刀を抜いていたら、掃除にモップが何本も必要だったでしょうからな」

     祖父は、とある粗末な扉の前で立ち止まった。

    「ここです」

    「なにも、若い娘を、物置きに閉じ込めることはないでしょうが。晶にはいい薬じゃが、沙矢香ちゃんには気の毒な話じゃ。それじゃ、女将さん、大変でしょうが、中から二人を連れ出してはもらえませんかな。少年、頼むぞ」

     女将さんは、蒼白な表情で、扉を開けると、中に入っていった。

     まず、ぐったりとした晶さんが引き出されてきた。ジャージ姿だ。動きやすいからとはいえ、なんとも、センスがない。だけど、そこが素敵だと、ぼくは、肩を貸しながら考えた。

     次は国枝さんだった。半分くらい目が覚めかけているのか、ちょっとぼーっとしているが、女将さんに肩を貸されて、自分の足で歩いてくる。

    「この老体が背負うには、ちいとばかり重そうな身体じゃな。すまぬが、女将さん、出口まで、頼みますぞ」

    「あなたは背負わないのですか」

    「ここを出るまでは。さて、影切を返していただこう。その、お主が背にしておる、窓際に飾られた脇差には、見覚えがありますな。盗まれた手紙、というやつですかな? わしだってポオくらい読んでおるもので。取ってくださらんか。取ったらゆっくりとその場に置き、離れていただこう。なんとかに刃物という言葉もあるが、なんとかでない人間が刃物を握ったら、もっと恐ろしいことになる可能性もあるのを知っておるので」

     祖父はいわれた通りにした。

    「少年! 取って来い。そして抜いてみろ」

     ぼくが?

     ぼくは、迫水さんをそっと床に下ろすと、脇差を手にとった。迫水さんが振っていたと聞いたせいか、ものすごい重さを感じる。手が切れたらどうしようかと、びくびくしながら抜いた。老人は一瞥した。

    「オーケーじゃ。それでは、退散するとしようかの」

     ぼくは、老人に、脇差を渡した。老人は、腰に差した。ぼくたちは、そのまま、玄関まで歩いていった。

     玄関にたどり着いたときに、老人がいった。

    「さて、この問題については、わしらも、お主らも口をつぐむことで同意した。ついでに、良からぬ考えを起こすといかんからいっておく。沙矢香ちゃんは、お主が考えているようなことをマスコミに対していったりはしない」

     祖父の顔が歪んだ。

    「なんのことです?」

    「しらばっくれる必要はないぞ。お主がここに至るまで、わしや、そこの少年に対して余裕たっぷりなのは、わしらがなにをしようとも、夢鬼と化した沙矢香ちゃんが、警察やマスコミに対し、わしや晶や、ここにいるお主の孫とに対して不利な、デタラメきわまる証言をする、と、確信しているからじゃ。だが、世の中、そう、思うようにはいかん」

    「な、なんのことだか、さっぱりわかりませんな」

     動揺を隠せない祖父の、その場しのぎのセリフに対し、ぼくは老人の言葉を引き取って、続けた。いうのが、孫の責任というものだ。

    「迫水さんが、闇切で斬ったのは、蛇の身体と化して顕われていた、国枝さんの妄執だけだったんです。なにかの理由によって、遠ざけられていた、理性とかそうしたものは、別な形で、国枝さんに戻ってきました。今の国枝さんは、しっかりした、もとの国枝さんなんです。暗示をかけられたとしても、もう残っていないでしょう」

     ぼくは、あのときの夢の続きを思い出した。
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    ~ Comment ~

    Re: カテンベさん

    こうして自分の昔書いた小説をもう一度読み返すと、「恥ずかしい」としかいえなかったりします。

    続きについては……当然、われわれとしては前向きな対応を取るべきかと思われますが、行政上の問題点が指摘されていないわけでもないですので、内閣としては、よく検討したうえでお答えしたいと思います。

    玉虫色なことしか書けん(^^;)

    え?

    言うてるうちにおしまいなの?

    迫水家だけやなくて時形家も同じように願いを聞き入れられて代々こういうのを引き継いできたんなら、他にも同様の例はありそうやから、ナンボでも膨らんでいきそうなのにね

    刀が3つ、てのやと、兄弟が多かったら、刀を抱いて眠れません、な先祖もいたんやろうなぁ、てのも気になりますし

    刀を抱いて眠る女の子、林間学校へ行くの巻、とかもあるんかなぁ?どーなるんやろ?と勝手な想像をしたりしてたのになぁ〜

    終わる前から続編を希望します(^-^)/

    Re: ROUGEさん

    ほんとに心配しましたよ。

    5月になればもう初夏ですし、いろいろと厳しい季節になってきます。

    お身体お大事になさってくださいね。

    Re: 安田 勁さん

    ごめん90回のつもりでいたら60回だった(^_^;)

    今週末には終わりです(^_^;)

    たはは(^_^;)

    NoTitle

    なんと言うかこう、おじいちゃん頼もしい。
    90話くらいの予定との事なので、そろそろ後半戦なのでしょうか?
    アキラ君無双とか期待してみたり(毎回こんなコメントしてる気がする)

    NoTitle

    内容に関係無いコメントで申し訳ないです。
    色々御心配ありがとう。
    嬉しかったです(*^_^*)

    小説楽しみにして読んでますよ
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