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    「夢逐人(オリジナル長編小説)」
    夢逐人

    夢逐人 エピローグ 1

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    エピローグ



     ぼく、迫水晶が麻酔ガスによる眠りから覚めて正気に戻るまでに、祖父や母さん、西連寺くんに、もちろん沙矢香たちは、たいへんな目に遭ったらしい。

     母さんの話によると、沙矢香は、記憶喪失になってふらふら歩いているところを、母さんが「寒月楼」近くの路上で発見、車に乗せてすぐに警察に連れて行った、ということにしたそうだ。日本刀もなければ殴りあいもなし。ぼくの学生生活の首はつながったらしい。関わった全員が口裏を合わせれば、そういうことになる。

     気の毒なのは沙矢香だった。たとえ、なにかの怪しげな技により自分の潜在意識が肥大化されていたとはいえ、自分がなにをやったのかを、その目でつぶさに見(祖父と西連寺くんに聞いたところでは、沙矢香の話だと、蝶の姿を取ってはいたが、夢の中での意識ははっきりしていたそうだ。自分の心が二つに分かれ、その双方をリアルに感ずるなどという異常な事態、ぼくは未だに体験したことはない)ただけにとどまらず、その光景をぼくをはじめ、みんなに見られてしまったのである。ぼくと同じ、十六歳の女子高生にとっては耐え難いことだ。ぼくにも姿を見せないことを考えると、沙矢香はすっかり落ち込んでしまったのだろう。明日以降、学校に来てくれるかどうか心配だ。

     気の毒なことでは、西連寺くんも似たようなものだった。二人の話では、今回の事件の裏にいたのが、西連寺君のおじいさんで、決定的に逆らってしまうことになった西連寺くんは、どうやら本当に、明日寝るところにも困る身の上に成り果ててしまったらしい。結局、うちに泊まることになった。それを聞いて、ぼくは、両手を上げ、万歳して喜びそうになったが、どういうふうに泊まるのか、を聞いて、運命の無情さを感じた。西連寺くんは、道場に布団を敷いて寝ることになる。その隣では、祖父が同じく寝るそうだ。夢逐人の常として、祖父はそばに「闇切」を置いて寝ることにしているらしい。「凶夢」の最中にいたとしても、よほどのことがなければ、近くで人が歩いたりなどの異状を感じたら、祖父は刀を持って跳ね起きるだろう。これじゃ、西連寺くんは、トイレにも行けない。高校を卒業したら、しばらくは、巫女のバイトをするつもりのぼくは、それもあって不埒なことは毛頭考えてはいなかったが、それでも、西連寺くんとは、一晩に渡って語り明かしたいことが積もっていた。もろもろの意味で、残念だ。

     薬が切れて、頭がすっきりしたとき、最初に感じたのは、食欲だった。傍からは眠っていたとしか思えないかもしれないが、あれはあれで、意外と腹にくるのだ。ぼくは、ダイエットを気にしている沙矢香が見たら卒倒しそうな勢いで、遅めの夕飯を食べた。

     日はとっぷり暮れていた。

     祖父からこってりとお説教とご体罰を食らう前に、やるべきことはやっておこう、と、木剣を握り、日課となっている、型の練習を始めた。それに、西連寺くんも布団を敷きに来るだろうし。

     剣を振る。型をひたすら反復だ。影討……跳蛙……流柳……そして。

     ぼくの手は、呉羽、で、止まった。やる気になれなかった。実際、やる気、などというものは、ある意味、日々の武術の鍛錬において邪魔以外のなにものでもないのだが、今日はそれが特にひどかった。

     ぼくはもう一度、影討からやり直そうと、木剣を握り替えた。

     そのとき、戸口に、誰かが立っているのに気づいた。普通なら周囲は真っ暗闇だが、母屋からのかすかな光と、気配でわかったのだ。祖父が見たら、「晶、不覚!」と、いうところだろうが。

     誰が立っているのかなど、考えるまでもなかった。

    「西連寺くん?」

    「ノゾミちゃん、で、いいよ」

     ノゾミちゃんの言葉に、ぼくは嬉しくなって、いった。

    「じゃ、ぼくも、アキラちゃん、で、いい」

    「……迫水さん」

     ノゾミちゃんは、慌てたようにいった。ぼくはがっかりした。

    「なに? 西連寺くん」

     こっちのほうが据わりがいいのも確かだ。よく考えたら、誰が聞いているかもわからない。残念だけれど、安全なほうを取ろう。

    「国枝さんのことだけど……ここじゃ、なんだね。ちょっと、外、行こうか」

    「いいよ」

     ぼくたちは、道場の表に出た。

     月は出ていなかった。

     代わりに、星がとてもきれいだった。

     ぼくたちは、しばらく星を眺めていた。

    「おじいさんから、全部、聞いたよ」

    「なにを?」

    「夢逐人のことを」

     ぼくは、うなずいた。西連寺くんに聞かれるのだったら、いいや。あの夢の記憶を持っている以上、笑ったり、馬鹿にしたりすることは、ないだろうから。問題があるとしたら、口伝の秘密だけだろうけど、祖父が話したのなら、そこに深い思慮というものがあるに違いない。

    「どう思った?」

     それでも訊ねてしまう。

    「うん。すごいよ。人間にああいうことができるなんて、まだまだ人間も、捨てたもんじゃない」

     また、しばらく、だんまりが続いた。
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