「ショートショート」
SF
二十分間の手記
今、時計は午後十一時四十分を指している。
そして、あたしはあと二十分間しか生きられない。
世界についての一般常識はある。しかし、自分についての記憶はない。
あと十八分。その間に、あたしはなにをすればいいのだろう。完全に世界の中に投げ出された、あたしは孤独だ。
二十分間の生に、はたして意味などはあるのか。
あたしは考える。考えざるをえないから考える。
もし、あたしがいなくても、誰も困りはしないはずだ。
だったら、あたしなんか、初めからいなかったほうがよかったのだ。そうすれば、こんなふうに困惑することもなかったろう。暗い部屋で、手記を書きながら、ちくたくと時計が時を刻む音を、パソコンの隅についている時計の数字が変わる瞬間を、こんなにも暗い思いで感じなくてもよかったはずだ。
あたしは考える。
あたしはなんのために生まれたのかを考える。
理由などない。それが答えだ。あたしはなんの合理的な理由もなくこの世界に放り出された。
いや、理由はあるのか? あるけれどもあたしにはその理由が理解できないし知ることもできないというのか?
それなら、合理的な理由などないというのと、あたしにとってどんな違いがあるのだろう。
あたしは考える……あと十分したら、あたしの生は終わるのだ。それまでに、あたしはなにか、自分ですることを見つけないといけない。
時計の針はどんどん進む。あたしは焦燥感に駆られている。
焦燥感。
そうか。
あたしは、焦燥感を感じるがために生きているのだ。身を焼くような焦燥感は、あたしに、自分が生きていることを生の形で突きつけてくるのだ。
人間の生とは、悟りにではなく、焦燥感に……過ぎていく時間の中で感じる焦燥感そのものを味わうことに意味があるのだ。
いま、あたしは心の底からこういえる。
永劫回帰は正しいのだと。永遠の中で何度となく繰り返される生を、あたしは喜んで受け入れると。
あと四分。
あたしは最後の一秒間まで、考えることを続けるだろう。
その濃密な時間……あたしはそれを、焦燥感とともに楽しむだろう。
あたしが感じているこの濃密な時間は、あたしひとりだけの特権的なものなのだ。
あと二分。
あたしは永遠だ。
そして、あたしはあと二十分間しか生きられない。
世界についての一般常識はある。しかし、自分についての記憶はない。
あと十八分。その間に、あたしはなにをすればいいのだろう。完全に世界の中に投げ出された、あたしは孤独だ。
二十分間の生に、はたして意味などはあるのか。
あたしは考える。考えざるをえないから考える。
もし、あたしがいなくても、誰も困りはしないはずだ。
だったら、あたしなんか、初めからいなかったほうがよかったのだ。そうすれば、こんなふうに困惑することもなかったろう。暗い部屋で、手記を書きながら、ちくたくと時計が時を刻む音を、パソコンの隅についている時計の数字が変わる瞬間を、こんなにも暗い思いで感じなくてもよかったはずだ。
あたしは考える。
あたしはなんのために生まれたのかを考える。
理由などない。それが答えだ。あたしはなんの合理的な理由もなくこの世界に放り出された。
いや、理由はあるのか? あるけれどもあたしにはその理由が理解できないし知ることもできないというのか?
それなら、合理的な理由などないというのと、あたしにとってどんな違いがあるのだろう。
あたしは考える……あと十分したら、あたしの生は終わるのだ。それまでに、あたしはなにか、自分ですることを見つけないといけない。
時計の針はどんどん進む。あたしは焦燥感に駆られている。
焦燥感。
そうか。
あたしは、焦燥感を感じるがために生きているのだ。身を焼くような焦燥感は、あたしに、自分が生きていることを生の形で突きつけてくるのだ。
人間の生とは、悟りにではなく、焦燥感に……過ぎていく時間の中で感じる焦燥感そのものを味わうことに意味があるのだ。
いま、あたしは心の底からこういえる。
永劫回帰は正しいのだと。永遠の中で何度となく繰り返される生を、あたしは喜んで受け入れると。
あと四分。
あたしは最後の一秒間まで、考えることを続けるだろう。
その濃密な時間……あたしはそれを、焦燥感とともに楽しむだろう。
あたしが感じているこの濃密な時間は、あたしひとりだけの特権的なものなのだ。
あと二分。
あたしは永遠だ。
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NoTitle
人間は動物であり、短期的な報酬系が産み出す最小単位が生の持続に対する思考がありえるんでしょう。
記憶を保持出来るからこそ、持続がありえるのではないか。そう考えます。
物理学での時間の本質は、瞬間的な変化量を表す為に都合が良いから、に過ぎないのです。
しかし、真理が解明されるのは訪れるのやら……。
記憶を保持出来るからこそ、持続がありえるのではないか。そう考えます。
物理学での時間の本質は、瞬間的な変化量を表す為に都合が良いから、に過ぎないのです。
しかし、真理が解明されるのは訪れるのやら……。
- #13398 青井るい
- URL
- 2014.05/17 17:02
- ▲EntryTop
Re: miss.keyさん
「時間」とは人間にとってなんなのか、というのは哲学の問題でも難問です。
アリストテレスだのベルクソンだのハイデガーだのといった天才たちが、考えても考えてもこれといった結論を出すに至っていません。
ベルクソンの「時間と自由」という本には、「純粋持続」という言葉で一瞬一瞬がとらえられていて、なるほどそういうものか、と膝を叩きましたが、よく考えてみると「純粋持続」とはなんなのか、なにもわからないことに気づく、というハメに(^^;)
物理学としてはどうなっているのか、入門書を読んでもさっぱりわからないし。
だからSFを書く甲斐があるのかもしれません。逆説的ですが。
アリストテレスだのベルクソンだのハイデガーだのといった天才たちが、考えても考えてもこれといった結論を出すに至っていません。
ベルクソンの「時間と自由」という本には、「純粋持続」という言葉で一瞬一瞬がとらえられていて、なるほどそういうものか、と膝を叩きましたが、よく考えてみると「純粋持続」とはなんなのか、なにもわからないことに気づく、というハメに(^^;)
物理学としてはどうなっているのか、入門書を読んでもさっぱりわからないし。
だからSFを書く甲斐があるのかもしれません。逆説的ですが。
Re: LandMさん
もしかしたら人間の生物としての当たり前のサイクルでは、三十くらいであの世行き、というのが正しいのかもしれない、と思うことがたまにあります。
「指輪物語」のビルボのセリフは、われわれが考えるよりももっともっと深いのかもしれません。
「指輪物語」のビルボのセリフは、われわれが考えるよりももっともっと深いのかもしれません。
永遠は一瞬に似ている
こんにちは。
本来、時間とはどのように感じられるものなのでしょうか。感じ方で時間の流れは変わるとも言われますが、もしそうなのだとしたら一瞬を永遠にも感じられるのかもしれない。逆に永遠はゼロなのかもしれない。なんて自分で言ってて判らない事を考えてしまいました。
本来、時間とはどのように感じられるものなのでしょうか。感じ方で時間の流れは変わるとも言われますが、もしそうなのだとしたら一瞬を永遠にも感じられるのかもしれない。逆に永遠はゼロなのかもしれない。なんて自分で言ってて判らない事を考えてしまいました。
NoTitle
生はは死を感じてこそ生を感じる。。。
みたいなものですかね。
もし、20分で死ぬと思ったら私も同じようなことをするかもですね。
みたいなものですかね。
もし、20分で死ぬと思ったら私も同じようなことをするかもですね。
- #13338 LandM
- URL
- 2014.05/06 21:08
- ▲EntryTop
Re: ダメ子さん
ギャンブラーなんかは勝負をしている間の「ヒリヒリした感触」にリアルな生を感じるとか誰かがいってましたな。
ポスト構造主義すらも崩壊し、イスラム教が支持を集めつつある、一種の知の無政府状態になった今だからこそ、人間はおのれの実存について考察を進めるべきではないか、って紅恵美所長がインターネットで外国相場の株取引をしながらいってました。私立探偵の仕事はどうしたお前。
ポスト構造主義すらも崩壊し、イスラム教が支持を集めつつある、一種の知の無政府状態になった今だからこそ、人間はおのれの実存について考察を進めるべきではないか、って紅恵美所長がインターネットで外国相場の株取引をしながらいってました。私立探偵の仕事はどうしたお前。
NoTitle
癌になったりすると世界がまったく違って見えるってよく聞きます
短くなればなるほどそういう実感が感じられるのかもですね
でも、実存主義は構造主義を超えられないと思うってムイミちゃんが言ってました
短くなればなるほどそういう実感が感じられるのかもですね
でも、実存主義は構造主義を超えられないと思うってムイミちゃんが言ってました
Re: 山西 サキさん
詩といっていいのかなこれ。
時計をにらみつつ、リアルタイムで慌てながら書いたんだけど(^_^;)
23時59分投稿だし(^_^;)
ちと恥ずかしいっす(^_^;)
時計をにらみつつ、リアルタイムで慌てながら書いたんだけど(^_^;)
23時59分投稿だし(^_^;)
ちと恥ずかしいっす(^_^;)
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Re: 青井るいさん
人間って因果なものですね(^^;)