「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 アキラ 1-1
1 アキラ
その人品いやしからぬ紳士は、この六月の暑い日だというにもかかわらず、スーツの上下をびしっと着こなして汗ひとつかいていなかった。
「時形のところから参りました、高木と申します」
父の前に正座した紳士は、頭を下げてそういった。頭を下げたとはいっても、目は父からそらしてはいなかった。案内されてきた足の運びひとつをとっても、たしなみ程度ではなく、かなりの武術の心得があるとぼくには思われた。
奥のほうで正座していたぼくと西連寺くんはちらりと横目で互いを見やった。
西連寺くんの目にはどことなく不安な色があった。ということは、ぼくの目にも不安な色があるということである。
「迫水です」
海外から戻って来たばかりの父さんは、こちらも武家のならいに則った礼をした。頭を下げても相手からは目を離さない。ちょっとでも目を離したら最後、その瞬間に頭をかち割られているかもしれないからだ。ぼくは冗談でいっているのではない。父ならやれる。祖父はもっと手際よくやれる。ぼくでも相手が完全な素人だったらたぶんできると思う。古武術を継承するというのは、つまりはそういう人間に肉体と精神を改造するということでもあるのだ。
「このたびは、先代がとんでもないことを……」
先代?
ぼくは西連寺くんと、思わず顔を見合わせた。
そんなぼくたちを見たのか、高木氏は、説明を付け加えた。
「先代は隠居された。今、時形弘太郎を継いでいるのは、望さん、あなたの実の父親ですよ」
西連寺くんの顔が厳しくなった。父親となにかあったのだろうか。
「それで、あんなことをしでかして、いったいなにをしに来られたのですかな?」
父さんの言葉に、高木氏はまた頭を下げた。
「お詫びするためです」
「詫びならうちではなく、国枝さんのほうになされるべきですな。うちの晶はバカですが、あなたがたに詫びられるようなことはしておりません」
「重々承知いたしております。国枝さんのほうにはすでに謝罪に行ったのですが、沙矢香さんに面会を求めることはかないませんでした。それではわれわれの気がすみません」
「なにをなさりたいというのですか」
高木氏は真剣な目で父さんを見た。
「どうか晶さんをお預けください。時形流のうち、知るすべてを伝えましょう。それが時形流としての最大の謝罪です」
その人品いやしからぬ紳士は、この六月の暑い日だというにもかかわらず、スーツの上下をびしっと着こなして汗ひとつかいていなかった。
「時形のところから参りました、高木と申します」
父の前に正座した紳士は、頭を下げてそういった。頭を下げたとはいっても、目は父からそらしてはいなかった。案内されてきた足の運びひとつをとっても、たしなみ程度ではなく、かなりの武術の心得があるとぼくには思われた。
奥のほうで正座していたぼくと西連寺くんはちらりと横目で互いを見やった。
西連寺くんの目にはどことなく不安な色があった。ということは、ぼくの目にも不安な色があるということである。
「迫水です」
海外から戻って来たばかりの父さんは、こちらも武家のならいに則った礼をした。頭を下げても相手からは目を離さない。ちょっとでも目を離したら最後、その瞬間に頭をかち割られているかもしれないからだ。ぼくは冗談でいっているのではない。父ならやれる。祖父はもっと手際よくやれる。ぼくでも相手が完全な素人だったらたぶんできると思う。古武術を継承するというのは、つまりはそういう人間に肉体と精神を改造するということでもあるのだ。
「このたびは、先代がとんでもないことを……」
先代?
ぼくは西連寺くんと、思わず顔を見合わせた。
そんなぼくたちを見たのか、高木氏は、説明を付け加えた。
「先代は隠居された。今、時形弘太郎を継いでいるのは、望さん、あなたの実の父親ですよ」
西連寺くんの顔が厳しくなった。父親となにかあったのだろうか。
「それで、あんなことをしでかして、いったいなにをしに来られたのですかな?」
父さんの言葉に、高木氏はまた頭を下げた。
「お詫びするためです」
「詫びならうちではなく、国枝さんのほうになされるべきですな。うちの晶はバカですが、あなたがたに詫びられるようなことはしておりません」
「重々承知いたしております。国枝さんのほうにはすでに謝罪に行ったのですが、沙矢香さんに面会を求めることはかないませんでした。それではわれわれの気がすみません」
「なにをなさりたいというのですか」
高木氏は真剣な目で父さんを見た。
「どうか晶さんをお預けください。時形流のうち、知るすべてを伝えましょう。それが時形流としての最大の謝罪です」
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