「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 アキラ 1-2
ぼくは二、三秒の間、いったい相手がなにをいっているのかわからなかった。脳細胞が言語を噛み砕いて理解するまでそのくらいかかったのだ。これが真剣勝負の場なら、ぼくは一刀のもとに両断されていてもおかしくはない。
「なんだって!」
「迫水さん……」
立ち上がりかけたぼくを、西連寺くんが手を引っ張って止めようとした。ぼくは反射的にその手を握り返し、腕を取って投げようとしたときに自分がなにをしているのかに気づいた。
「痛いよ、迫水さん!」
「ご、ごめんなさい」
手首のあたりをさすっている西連寺くんの肩に手をかけ、ぼくはもう一度高木氏の顔を見た。
その表情は真剣そのものだった。嘘をついているようにはまったく見えないが、往々にして、嘘をついている者にはこういう表情を苦もなくこしらえるやつがいる。
未熟な僕の目では、これが本気なのか冗談なのかもわからなかった。
父さんは同じように真剣な目で相手を見つめた。
「失礼ではありますが、正気でものをいっておられるのですか?」
高木氏はうなずいた。
「正気です」
「正気だとしたら、あなたはなにを求めておいでで?」
「これ以上の争いを生まないための、できるだけ速やかなる和解です。それ以上でも以下でもありません」
「しかし」
高木氏が、拳を白くなるほど強く握り締めていることにぼくは気づいた。
「迫水さん、あなたも古流を伝承しているなら、自分の家に伝わる秘伝を他の家に教えるということがなにを意味しているのかはわかるはずだ」
父さんは無表情のまま聞いていた。
「意味するのは、相手にすべての弱点をさらけ出すということです。違いますか?」
「踊りに弱点などというものがあったとは初耳ですね」
父さんの返した言葉に、高木氏はわずかに身を乗り出して答えた。
「だからわたしが来たんです」
父さんと高木氏はしばし、視線を交わした。互いに、能面のような無表情になっていた。この無表情は、父さんが本気になっている証拠みたいなものだ。
三十秒ほど経った。
高木氏の額に汗が浮いてきた。
父はふっと息を吐いた。
「さすがですね、高木さん」
「さすがどころでは……」
「そう、さすがどころではない」
「なんだって!」
「迫水さん……」
立ち上がりかけたぼくを、西連寺くんが手を引っ張って止めようとした。ぼくは反射的にその手を握り返し、腕を取って投げようとしたときに自分がなにをしているのかに気づいた。
「痛いよ、迫水さん!」
「ご、ごめんなさい」
手首のあたりをさすっている西連寺くんの肩に手をかけ、ぼくはもう一度高木氏の顔を見た。
その表情は真剣そのものだった。嘘をついているようにはまったく見えないが、往々にして、嘘をついている者にはこういう表情を苦もなくこしらえるやつがいる。
未熟な僕の目では、これが本気なのか冗談なのかもわからなかった。
父さんは同じように真剣な目で相手を見つめた。
「失礼ではありますが、正気でものをいっておられるのですか?」
高木氏はうなずいた。
「正気です」
「正気だとしたら、あなたはなにを求めておいでで?」
「これ以上の争いを生まないための、できるだけ速やかなる和解です。それ以上でも以下でもありません」
「しかし」
高木氏が、拳を白くなるほど強く握り締めていることにぼくは気づいた。
「迫水さん、あなたも古流を伝承しているなら、自分の家に伝わる秘伝を他の家に教えるということがなにを意味しているのかはわかるはずだ」
父さんは無表情のまま聞いていた。
「意味するのは、相手にすべての弱点をさらけ出すということです。違いますか?」
「踊りに弱点などというものがあったとは初耳ですね」
父さんの返した言葉に、高木氏はわずかに身を乗り出して答えた。
「だからわたしが来たんです」
父さんと高木氏はしばし、視線を交わした。互いに、能面のような無表情になっていた。この無表情は、父さんが本気になっている証拠みたいなものだ。
三十秒ほど経った。
高木氏の額に汗が浮いてきた。
父はふっと息を吐いた。
「さすがですね、高木さん」
「さすがどころでは……」
「そう、さすがどころではない」
- 関連記事
-
- 夢鬼人 アキラ 1-3
- 夢鬼人 アキラ 1-2
- 夢鬼人 アキラ 1-1
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~