「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 アキラ 1-4
ぼくは地上に放り出された金魚のように、口をぱくぱくさせた。
「と、父さん……本気でいってるの?」
「迫水のおじさん、うちの時形流は」
ぼくと西連寺くんは抗議したが、父さんはぴしゃりとはねつけた。
「晶、お前には、小さな池ではなく大海が必要だ。学校のようなものではなく、もっと広く深く危険な海が」
「でも……」
「そこを泳ぎきるための術はもう伝えてあるはずだ。鹿澄夢刀流目録。それさえあれば、たいていのことには対処できる」
「でもこの前は」
つい一週間前、ぼくは麻酔ガスで眠らされて、親友の国枝沙矢香ともども囚われの身になったのだ。あのときのことは記憶にしっかりと残っている。
「あれは晶、お前の不覚だ。鹿澄夢刀流の不覚ではない」
そういわれたら反論はできない。
「迫水のおじさん、どこからどう考えてもこれは罠です。高木さんは信じられる人だとは思いますが、その背後にある時形流と、ぼくの祖父である先代時形弘太郎についてはまったく信じられません」
高木氏が立ち上がるよりも、父さんが動くほうが早かった。
稲光のような素早さで、西連寺くんの首根っこを床に押さえつけ、喉もとに手刀を突きつけていたのだ。
「望くん。たとえ勘当されたとはいえ、自分の肉親をそのようにいうことは、わたしはやめたほうがいいと思う」
西連寺くんは、真っ青になってわずかにうなずいた。
「きみは叩いたりしなくとも、きちんと物事を理解できる人間だとわたしは思っている。これが娘の晶ならば、ぶん殴っているところだが」
言葉もない西連寺くんをなんとかすべく、ぼくは父さんに声をかけた。
「父さん、高木さんに悪いです。客人の前でこのような態度を見せることは、礼にかなったこととはとうてい思えません」
父さんはうなずくと、西連寺くんを解放した。西連寺くんは呼吸が乱れたのか、げほげほと咳き込んでいた。
高木氏に頭を下げ、父さんはいった。
「すみませんでした。お預けするにしても、手ぶらでおいそれとは行きますまい。しばし、時間の猶予をいただけますか?」
高木氏は再び汗をぬぐった。
「こちらとしてはかまいません。もちろん、この間のようなことがないよう、晶さんの身辺はわたしが責任を持ってお守りします」
「お願いします。冴子、高木さんを門までお送りしてくれ」
母さんが、高木さんを送っていくのを見ていた父さんは、くるりとこちらを向いた。
「と、父さん……本気でいってるの?」
「迫水のおじさん、うちの時形流は」
ぼくと西連寺くんは抗議したが、父さんはぴしゃりとはねつけた。
「晶、お前には、小さな池ではなく大海が必要だ。学校のようなものではなく、もっと広く深く危険な海が」
「でも……」
「そこを泳ぎきるための術はもう伝えてあるはずだ。鹿澄夢刀流目録。それさえあれば、たいていのことには対処できる」
「でもこの前は」
つい一週間前、ぼくは麻酔ガスで眠らされて、親友の国枝沙矢香ともども囚われの身になったのだ。あのときのことは記憶にしっかりと残っている。
「あれは晶、お前の不覚だ。鹿澄夢刀流の不覚ではない」
そういわれたら反論はできない。
「迫水のおじさん、どこからどう考えてもこれは罠です。高木さんは信じられる人だとは思いますが、その背後にある時形流と、ぼくの祖父である先代時形弘太郎についてはまったく信じられません」
高木氏が立ち上がるよりも、父さんが動くほうが早かった。
稲光のような素早さで、西連寺くんの首根っこを床に押さえつけ、喉もとに手刀を突きつけていたのだ。
「望くん。たとえ勘当されたとはいえ、自分の肉親をそのようにいうことは、わたしはやめたほうがいいと思う」
西連寺くんは、真っ青になってわずかにうなずいた。
「きみは叩いたりしなくとも、きちんと物事を理解できる人間だとわたしは思っている。これが娘の晶ならば、ぶん殴っているところだが」
言葉もない西連寺くんをなんとかすべく、ぼくは父さんに声をかけた。
「父さん、高木さんに悪いです。客人の前でこのような態度を見せることは、礼にかなったこととはとうてい思えません」
父さんはうなずくと、西連寺くんを解放した。西連寺くんは呼吸が乱れたのか、げほげほと咳き込んでいた。
高木氏に頭を下げ、父さんはいった。
「すみませんでした。お預けするにしても、手ぶらでおいそれとは行きますまい。しばし、時間の猶予をいただけますか?」
高木氏は再び汗をぬぐった。
「こちらとしてはかまいません。もちろん、この間のようなことがないよう、晶さんの身辺はわたしが責任を持ってお守りします」
「お願いします。冴子、高木さんを門までお送りしてくれ」
母さんが、高木さんを送っていくのを見ていた父さんは、くるりとこちらを向いた。
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