夢鬼人 ノゾミ 2-1

　２　ノゾミ



　ぼく、青啓高校二年生である西連寺望は、生まれてから十六年という短い年月の中で、それなりにさまざまな人間を見てきた。

　しかし、その中でも、迫水のおじさん……迫水さんのお父さんである武博さんほど振幅が激しい人は見たことがない。

「あきらあっ！」

　武博さんは顔をぐしゃぐしゃにして、涙を流しながら、愛する娘に抱きついていた。

「さびしいぞおっ、おとうさんはさびしいぞおっ」

「わかったから、父さん、離してってば。ぼくは三歳児じゃないんだってば」

「しかし、これから、おまえはひろいうみへでていかなくてはならないっ、ああっ、しんぱいだっ、しんぱいだあっ」

　高木さんを送って行った、奥さんの冴子おばさんが戻ってきた。

「まったく、晶を見るといつもこうなって、ほんと、これ以上ない親バカのくせに変なところではええかっこしいなんだから。ほらあなた、望くんが見てますよ」

　その声に、迫水のおじさんははっと我に返った。

　ぱっと離れて涙をぬぐうと、ぼくに向かって、まじめな声でいった。

「ああ、西連寺くん、男親というものは、いくつになっても、まあ、子供がかわいいものなんだ。いいか、きみも、大人になって結婚し、子供ができたらわかる」

　ぼくは、横目でちらりと迫水さんを見た。迫水さんもぼくのことを見た。ふたりして、ちょっと、下を向いた。

　武博さんの声のトーンが変わった。

「西連寺くん……、きみ……？」

「あなた！　お預かりしているよそ様の子に、変なことをしたら許しませんからね！」

　その声で、また心が平衡を取り戻したらしい。

「まあ、みんな座ってくれ。とりあえず冷静になろう」

　冴子おばさんがあきれたようにいった。

「この中でいちばん冷静じゃないのはあなたです」

　冴子おばさんはてきぱきと部屋の中を片づけてから、武博おじさんの隣に座った。

「わたしも、気になっていたんです。あなたらしくもない。いったい、どうして、よその家にうちの大事な晶を預けなくてはならないんですか」

　武博おじさんは下を向いた。

「負けたからだ。ああ答えるしかなかった。真剣勝負だったらわたしは斬られていた」

「……え？」

「……ええ？」

「……えええ？」

　ぼく、迫水さん、冴子おばさんの三人は、そろって驚きの叫びを上げた。