「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 ノゾミ 2-3
そろって手洗いに顔を洗いに行ったぼくと武博おじさんが帰ってくると、迫水さんと冴子おばさんが静かに話をしていた。
「……父さんがなにもできないなんて」
「……でも、修行とはいえそんな人のところに行かせるのには、母さんは反対よ。沙矢香ちゃんをさらったやつらの一味なんでしょ。なにをされるかわからないわ」
武博おじさんは座った。
「そう考えるのももっともだ」
迫水さんは武博おじさんのほうを向いた。この家に来てから、ちらっと聞いたことがあるが、迫水さんが武博おじさんからちょっとでも離れるそぶりを見せると、今度は武博おじさんはショックのあまり失意のどん底に落ちてしまうらしい。心の中のそういうところさえ克服できれば、皆伝まで行くんだろうけどね、と、迫水さんはどこか寂しそうに話した。前からその傾向はあったが、ある時を境にひどくなったんだそうだ。どうも夢逐人としての仕事に失敗したときらしい。
今の武博おじさんは冷静なようだ。落ち着いた声で話している。
「だが、『夢鬼』たちの中にあれほどの使い手がいるとなれば、わたしたちは考え方そのものを改めなければならない。わたしたちが握っていると信じていた大きなアドバンテージのひとつ、ひとりの人間としての戦闘能力というものが存在しなかった、ということを意味するのだから。もし、肉体的な暴力に、時形流が訴えてきたとき、今の晶やわたしでは力及ばず、ということも考えられる」
あの迫水さんや武博おじさんが……!
「その危険から身を守るには、相手の手の内を知り、情報を集めるのが最善策だろう。なにしろ、幸運なことに、高木さんは、どうやらわたしたちに好意的らしい」
「えっ?」
ぼくは思わず声に出してしまった。
「だって、武博おじさんよりも自分が強いことを見せに来たんでしょう?」
「もし、わたしたちに害意を持っていたとしたら、夢鬼の側としては、なにも考えることはない。わたしと晶と、それに西連寺くん、きみとをいっぺんに殺してしまえば、鹿澄夢刀流は絶え、夢逐人の歴史はおしまいだ。だが相手はそれをやらなかった。なぜか」
ぼくは足りない頭で考えた。
「さっき、高木さんがいっていた言葉は真実で、時形流と夢逐人との和解を、本気で考えている、ということですか?」
武博おじさんはうなずいた。
「少なくとも、高木さんはそのつもりだろう。あの人だけは、真剣に和解を考えていると見て間違いないと思う。晶に時形流の秘伝を伝えて、戦力的に『夢鬼』側と『夢逐人』側とのパワーバランスを取ろうとしているのか、それとも、それ以上の考えがあってのことか、わたしには判断がつかないが」
武博おじさんは黙り込んだ。
「……父さんがなにもできないなんて」
「……でも、修行とはいえそんな人のところに行かせるのには、母さんは反対よ。沙矢香ちゃんをさらったやつらの一味なんでしょ。なにをされるかわからないわ」
武博おじさんは座った。
「そう考えるのももっともだ」
迫水さんは武博おじさんのほうを向いた。この家に来てから、ちらっと聞いたことがあるが、迫水さんが武博おじさんからちょっとでも離れるそぶりを見せると、今度は武博おじさんはショックのあまり失意のどん底に落ちてしまうらしい。心の中のそういうところさえ克服できれば、皆伝まで行くんだろうけどね、と、迫水さんはどこか寂しそうに話した。前からその傾向はあったが、ある時を境にひどくなったんだそうだ。どうも夢逐人としての仕事に失敗したときらしい。
今の武博おじさんは冷静なようだ。落ち着いた声で話している。
「だが、『夢鬼』たちの中にあれほどの使い手がいるとなれば、わたしたちは考え方そのものを改めなければならない。わたしたちが握っていると信じていた大きなアドバンテージのひとつ、ひとりの人間としての戦闘能力というものが存在しなかった、ということを意味するのだから。もし、肉体的な暴力に、時形流が訴えてきたとき、今の晶やわたしでは力及ばず、ということも考えられる」
あの迫水さんや武博おじさんが……!
「その危険から身を守るには、相手の手の内を知り、情報を集めるのが最善策だろう。なにしろ、幸運なことに、高木さんは、どうやらわたしたちに好意的らしい」
「えっ?」
ぼくは思わず声に出してしまった。
「だって、武博おじさんよりも自分が強いことを見せに来たんでしょう?」
「もし、わたしたちに害意を持っていたとしたら、夢鬼の側としては、なにも考えることはない。わたしと晶と、それに西連寺くん、きみとをいっぺんに殺してしまえば、鹿澄夢刀流は絶え、夢逐人の歴史はおしまいだ。だが相手はそれをやらなかった。なぜか」
ぼくは足りない頭で考えた。
「さっき、高木さんがいっていた言葉は真実で、時形流と夢逐人との和解を、本気で考えている、ということですか?」
武博おじさんはうなずいた。
「少なくとも、高木さんはそのつもりだろう。あの人だけは、真剣に和解を考えていると見て間違いないと思う。晶に時形流の秘伝を伝えて、戦力的に『夢鬼』側と『夢逐人』側とのパワーバランスを取ろうとしているのか、それとも、それ以上の考えがあってのことか、わたしには判断がつかないが」
武博おじさんは黙り込んだ。
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