「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 アキラ 3-2
板張りの部屋に来た。
『よく見ろ』
高木さんはそういうと、静かに舞い始めた。長く感じられたが、実際は十秒くらいのものだったろう。
もとの体勢に戻った高木さんは、座り、いった。
『やってみろ』
え?
『なにをしている。見たとおりに舞えばいいんだ』
ぼくは、高木さんがこれからなにをしようとしているのかわかった。形稽古だ。できるかぎりやるだけだ。
ぼくはさっきの高木さんにできるだけ似せて立ち、高木さんが動いたとおりに動いた。感情だとかそういうことは込めない。ただただ、機械的に動く。
舞いを終え、もとの体勢に戻ったとき、高木さんが口を開いた。
『やはりいい目をしている』
『合格ですか?』
高木さんはうなずいた。ぼくはほっとして一瞬力を抜いたが、高木さんはさらに補足を付け加えた。
『小学校の国語の教科書の最初のページに書かれているひらがなを間違えずに読めたか、という意味なら合格だ』
高木さんは再び立ち上がった。
『現代人のほとんどは、古い時代の動き方を忘れてしまったせいもあり、さっきわたしがいった、ひらがなの読みかた、すらわからなくなってしまっている。ひらがなの読みかたがなにを意味しているかはわかるな』
『はい。相手の動きを見て、それを自分の身体の動きとしてコピーすることですね。祖父や父との形稽古で、最初に徹底されたのはそこでした』
ふたりが組になって行なう組太刀では、わずかの動きの狂いでも大怪我をするおそれがある。かつてテレビで中継されたのを見た、とある流派の三角棒を使っての演舞は悲惨だった。三角棒とは、その名の通り、三角形に鋭く加工された木の棒である。たぶん、刀と杖と棒の長所を取り入れて考え出された武器だろう。師匠の老人と、高弟であろう弟子の女性が、三角棒を持って寸止めで打ち合うのだが、テレビ中継ということであがってしまったのか、呼吸がずれた。次の瞬間、女の人の額がぱっくりと裂け、テレビ画面にも鮮やかな真っ赤な筋が、出血していることがはっきりとわかる筋が浮かび上がったのだ。ふたりはそれでも演舞を続け、一礼して終わったのだが、女の人の出血は止まらなかった。カメラが切り替わったのでそこから先は見ていないが、満場の人の前で額を割られてしまったあの女性が、その後どんな運命をたどったのか、考えるだけで恐ろしい。
『わかっているなら次だ』
高木さんはいった。
『よく見ろ』
高木さんはそういうと、静かに舞い始めた。長く感じられたが、実際は十秒くらいのものだったろう。
もとの体勢に戻った高木さんは、座り、いった。
『やってみろ』
え?
『なにをしている。見たとおりに舞えばいいんだ』
ぼくは、高木さんがこれからなにをしようとしているのかわかった。形稽古だ。できるかぎりやるだけだ。
ぼくはさっきの高木さんにできるだけ似せて立ち、高木さんが動いたとおりに動いた。感情だとかそういうことは込めない。ただただ、機械的に動く。
舞いを終え、もとの体勢に戻ったとき、高木さんが口を開いた。
『やはりいい目をしている』
『合格ですか?』
高木さんはうなずいた。ぼくはほっとして一瞬力を抜いたが、高木さんはさらに補足を付け加えた。
『小学校の国語の教科書の最初のページに書かれているひらがなを間違えずに読めたか、という意味なら合格だ』
高木さんは再び立ち上がった。
『現代人のほとんどは、古い時代の動き方を忘れてしまったせいもあり、さっきわたしがいった、ひらがなの読みかた、すらわからなくなってしまっている。ひらがなの読みかたがなにを意味しているかはわかるな』
『はい。相手の動きを見て、それを自分の身体の動きとしてコピーすることですね。祖父や父との形稽古で、最初に徹底されたのはそこでした』
ふたりが組になって行なう組太刀では、わずかの動きの狂いでも大怪我をするおそれがある。かつてテレビで中継されたのを見た、とある流派の三角棒を使っての演舞は悲惨だった。三角棒とは、その名の通り、三角形に鋭く加工された木の棒である。たぶん、刀と杖と棒の長所を取り入れて考え出された武器だろう。師匠の老人と、高弟であろう弟子の女性が、三角棒を持って寸止めで打ち合うのだが、テレビ中継ということであがってしまったのか、呼吸がずれた。次の瞬間、女の人の額がぱっくりと裂け、テレビ画面にも鮮やかな真っ赤な筋が、出血していることがはっきりとわかる筋が浮かび上がったのだ。ふたりはそれでも演舞を続け、一礼して終わったのだが、女の人の出血は止まらなかった。カメラが切り替わったのでそこから先は見ていないが、満場の人の前で額を割られてしまったあの女性が、その後どんな運命をたどったのか、考えるだけで恐ろしい。
『わかっているなら次だ』
高木さんはいった。
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