「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 ノゾミ 4-2
「まずは素振りをいってみようか。どのように振っても構わない。思ったように棒を振って見ろ」
「棒?」
ぼくはあたりを見回した。
「あそこに転がっている棒ですか?」
野球のバットくらいの長さの棒が、道場の隅に転がっていた。
「なんでもかまわん。たしかあれは、小さいころに悪さをしたあき……」
ぼくは勢いよく走って棒を取り上げた。いったんおじさんの振幅が娘かわいさのほうに振れたら、犠牲者になるのはこのぼくしかいないからだ。
「これですね! これを振ればいいんですね! そうですね!」
武博おじさんは、はっ、と我に返ったような顔をすると、うなずいた。
「そうだ。もとはそれは押入れにかけていた心張棒だった。まあ、きみが振るにはちょうどいい長さと重さだな」
ぼくはとりあえず、棒を青眼……でいいのかな、とにかく時代劇の侍のように前に突き出すと、頭の上に大きく振り上げて、そのまま振り下ろしてみた。
「あのう……こうですか?」
「とりあえず何度も振ってみろ」
「はい。いち、にい、さん、し……」
ぼくはわけもわからず棒を振った。武博おじさんはなにもいわない。
「さんじゅうしち、さんじゅうはち、さんじゅうく……」
武博おじさんはまだなにもいう様子はなかった。
「ひゃくごじゅうご、ひゃくごじゅうろく、ひゃくごじゅうしち……」
腕が痛くなってきた。足も痛くなってきた。こんなことで、ほんとうに剣術の修行になるのだろうか。
「さんびゃくさんじゅうに、さんびゃくさんじゅうさん、さんびゃくさんじゅうし、さんびゃくさんじゅうご……」
変な具合に身体を動かしているせいなのか、筋肉が痛い。呼吸も苦しくなってきた。まさか武博おじさんは、ぼくを単にいじめているだけではないのだろうか。
「きゅうひゃくきゅうじゅうはち、きゅうひゃくきゅうじゅうきゅう、せん、せんいち、せんに……」
千回も振ったら、やめてよし、と許しが出るのかと思ったが、武博おじさんはまだなにもいわない。
ぼくは延々と棒を振った。
「せんごひゃくいち……」
そこが限界だった。ぼくの腕はがちがちになり、棒を握っていられなくなった。手の皮なんか水ぶくれを通り越してひどくむけている。血までにじんできた。その痛みさえもがなんだかよくわからなくなっている。
手から、棒がぽろりと落ちた。
「棒?」
ぼくはあたりを見回した。
「あそこに転がっている棒ですか?」
野球のバットくらいの長さの棒が、道場の隅に転がっていた。
「なんでもかまわん。たしかあれは、小さいころに悪さをしたあき……」
ぼくは勢いよく走って棒を取り上げた。いったんおじさんの振幅が娘かわいさのほうに振れたら、犠牲者になるのはこのぼくしかいないからだ。
「これですね! これを振ればいいんですね! そうですね!」
武博おじさんは、はっ、と我に返ったような顔をすると、うなずいた。
「そうだ。もとはそれは押入れにかけていた心張棒だった。まあ、きみが振るにはちょうどいい長さと重さだな」
ぼくはとりあえず、棒を青眼……でいいのかな、とにかく時代劇の侍のように前に突き出すと、頭の上に大きく振り上げて、そのまま振り下ろしてみた。
「あのう……こうですか?」
「とりあえず何度も振ってみろ」
「はい。いち、にい、さん、し……」
ぼくはわけもわからず棒を振った。武博おじさんはなにもいわない。
「さんじゅうしち、さんじゅうはち、さんじゅうく……」
武博おじさんはまだなにもいう様子はなかった。
「ひゃくごじゅうご、ひゃくごじゅうろく、ひゃくごじゅうしち……」
腕が痛くなってきた。足も痛くなってきた。こんなことで、ほんとうに剣術の修行になるのだろうか。
「さんびゃくさんじゅうに、さんびゃくさんじゅうさん、さんびゃくさんじゅうし、さんびゃくさんじゅうご……」
変な具合に身体を動かしているせいなのか、筋肉が痛い。呼吸も苦しくなってきた。まさか武博おじさんは、ぼくを単にいじめているだけではないのだろうか。
「きゅうひゃくきゅうじゅうはち、きゅうひゃくきゅうじゅうきゅう、せん、せんいち、せんに……」
千回も振ったら、やめてよし、と許しが出るのかと思ったが、武博おじさんはまだなにもいわない。
ぼくは延々と棒を振った。
「せんごひゃくいち……」
そこが限界だった。ぼくの腕はがちがちになり、棒を握っていられなくなった。手の皮なんか水ぶくれを通り越してひどくむけている。血までにじんできた。その痛みさえもがなんだかよくわからなくなっている。
手から、棒がぽろりと落ちた。
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