「夢逐人(オリジナル長編小説)」
夢鬼人
夢鬼人 ノゾミ 4-4
「なんだ」
「短いってことは、当然、相手の刃のほうが早くこちらに届くっていうことですよね」
「当たり前じゃないか」
「ということは、短い刀を持った者の戦いかたって……」
「簡単だ。敵が得物を振り回すよりも早く、その内懐に飛び込んで斬りつければいい。今の世の中、甲冑をまとっている人間なんてそうはいない。この戦法を身につければたいていの相手とは互角に戦える」
どうやらぼくはまだ不審そうな顔をしていたらしい。
「きみは古代ローマの歴史については詳しいか?」
「社会の選択教科では地理を取ったもので、ほとんど知りません……」
「だったら覚えておけ。古代の地中海世界を席巻した無敵のローマ陸軍は、戦場においてはまずピルムと呼ばれる投げ槍を使って敵の陣形を混乱させてから突撃し、白兵戦に持ち込んで、グラディウスと呼ばれるごく短い両刃の剣を振るって数に倍する相手を斬りまくって勝利したのだ」
説明されても、ぼくは不安げに手元の木刀を見つめるしかなかった。
……世の中って、そう教科書通りに行くものなの?
「さて」
武博おじさんはぼくの前で同じような短い木刀を構えた。
「鹿澄夢刀流では、まずは刀をこう構える。やってみろ」
ぼくは見よう見まねで構えた。
「よし。剣を構えた態勢のまま力を抜いてみろ。力みすぎだ」
「はい」
といっても、どうすればいいのかよくわからない。先ほどの棒振りで、腕も足も手もがたがただ。
武博おじさんは、そんなぼくに近寄ると、手で身体の矯正を始めた。
「ここは力が抜けきっていない。だからこういう具合になるんだ。正しい位置に持ってくるとこうだ」
肩がぐいっと押し下げられた。
痛たたた!
「足もこんな開き方をするべきではないな。ここはこのようにやや低く構える」
両肩に手が置かれ、腰が押し下げられた。足の骨と筋肉が、きしんでぎしぎしいう音が聞こえたような気がした。
ここにいたのでは殺されるのではないか、ぼくの頭をそんな思いがよぎった。
「よし、それでいい。振ってみろ。うーん、違うな。そこはそう動くんじゃない。こうだ。もう一度」
朝に三千、夕に五千……あながち、嘘でもないような気がしてきた。これがぼくの剣術修行の第一日目だった。
「短いってことは、当然、相手の刃のほうが早くこちらに届くっていうことですよね」
「当たり前じゃないか」
「ということは、短い刀を持った者の戦いかたって……」
「簡単だ。敵が得物を振り回すよりも早く、その内懐に飛び込んで斬りつければいい。今の世の中、甲冑をまとっている人間なんてそうはいない。この戦法を身につければたいていの相手とは互角に戦える」
どうやらぼくはまだ不審そうな顔をしていたらしい。
「きみは古代ローマの歴史については詳しいか?」
「社会の選択教科では地理を取ったもので、ほとんど知りません……」
「だったら覚えておけ。古代の地中海世界を席巻した無敵のローマ陸軍は、戦場においてはまずピルムと呼ばれる投げ槍を使って敵の陣形を混乱させてから突撃し、白兵戦に持ち込んで、グラディウスと呼ばれるごく短い両刃の剣を振るって数に倍する相手を斬りまくって勝利したのだ」
説明されても、ぼくは不安げに手元の木刀を見つめるしかなかった。
……世の中って、そう教科書通りに行くものなの?
「さて」
武博おじさんはぼくの前で同じような短い木刀を構えた。
「鹿澄夢刀流では、まずは刀をこう構える。やってみろ」
ぼくは見よう見まねで構えた。
「よし。剣を構えた態勢のまま力を抜いてみろ。力みすぎだ」
「はい」
といっても、どうすればいいのかよくわからない。先ほどの棒振りで、腕も足も手もがたがただ。
武博おじさんは、そんなぼくに近寄ると、手で身体の矯正を始めた。
「ここは力が抜けきっていない。だからこういう具合になるんだ。正しい位置に持ってくるとこうだ」
肩がぐいっと押し下げられた。
痛たたた!
「足もこんな開き方をするべきではないな。ここはこのようにやや低く構える」
両肩に手が置かれ、腰が押し下げられた。足の骨と筋肉が、きしんでぎしぎしいう音が聞こえたような気がした。
ここにいたのでは殺されるのではないか、ぼくの頭をそんな思いがよぎった。
「よし、それでいい。振ってみろ。うーん、違うな。そこはそう動くんじゃない。こうだ。もう一度」
朝に三千、夕に五千……あながち、嘘でもないような気がしてきた。これがぼくの剣術修行の第一日目だった。
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