名探偵・深見剛助(冗談謎解きミステリ掌編シリーズ)

    集団的自衛権殺人事件

     ←オタ句 7月2日 →自炊日記・その30(2014年6月)
    「赤塚さん、新聞で読みましたが、この事件のどこに、ぼくが介入する必要があるんです。犯人も、犯行も、明白のように思えるんですがねえ」

     警察署に向かうタクシーの中、名探偵・深見剛助は横の赤塚刑事にいった。

    「それが頭を抱えるような事態になっているんですよ。新聞を読んだということは、だいたいのことはご承知ですね?」

    「犯行は上等中学校の教室内で起きた。名門校です。転校生がナイフで刺し殺され、少年がナイフを、血に染まったやつを持って立っていた。教室内にいた学生、いや、証人が全員、少年の犯行を認めている」

     そこまでいって、深見剛助は頭をかいた。

    「これだけの状況下でなにをどうしろというんです」

    「本人は無罪を主張している。その理由が、まことにけったいというか……署に着いたようですね。詳しくは中で、少年の口から聞いてください」

     ふたりはタクシーを降りた。



    「君が、無罪を主張していると聞いたんだけれど、ほんとうかい?」

    「はい。やったのは、ぼくじゃありません」

    「でも、血に染まったナイフからは、君の指紋が検出されているんだよ」

     少年はうなずいた。

    「ええ、時間を稼がなくちゃならなかったので」

     深見剛助は赤塚刑事と顔を見合わせた。

    「時間ってなんのだい」

    「はい。ナイフの柄についている、ぼくより先に握って刺した友達の、血まみれとなった手袋を処分するための時間です」

    「そんなことをして、きみになんの得があるんだい」

    「得はありません。同盟している友達との、集団的自衛権が要求したんです」

    「集団的自衛権?」

    「ええ、うちのクラスは、全員が互いに集団的自衛権を認めているんです。もし、誰か外敵がクラスの誰かと争いになったら、同盟者はなんとしてでもその人を守らなくてはいけません」

    「自分がやったことではないのに?」

    「集団的自衛権ですから」

    「少年院に行くことは……」

    「クラスのみんながお金を出して、優秀な弁護士をつけてくれることになってます」

    「中学生がいくらやったって……」

    「ぼくの学校は名門校ですよ。経済力はけっこうあるんです」

     証人のすべてが口裏を合わせているというのか。人がひとり死んで、それが「なかったこと」にされようとしているのか。

    「手袋のゆくえがわからない以上、優秀な弁護士がついたら、ぼくはいいところ証拠不十分じゃないですか。事件が明白に見えたから、初動捜査もいいかげんなものだったでしょうし」

    「罪の意識はないのですか」

    「ぼくが殺したわけじゃありません」

    「じゃあ、誰がやったんです」

    「それをしゃべったら集団的自衛権になりません」

     こんなことが許されていいのか!

    「わかりました。ぼくも、素人ですが名探偵と呼ばれた男です。これから、なんとしてでも、あなたを犯人とする証拠をつかんでみせます」

    「いったでしょう、ぼくは犯人じゃ……」

    「そんなことはどうでもいいんです。あなたを犯人とするための証拠を、なんとしてでも見つけ出してみせます。そのとき、あなたの友人たちや、優秀な弁護士が、どんな主張をするか、さぞや見ものでしょうね」

     そういい捨てて、深見剛助は立ち上がった。

    「だって、みんなはいったんだ! 集団的自衛権さえしっかりしていれば、犯罪にもいじめにも巻き込まれることはないんだって!」

     少年を冷ややかな目で見つめ、深見剛助はいった。

    「集団的自衛権は、単なる権利にすぎないんですよ。権利があるからというだけで、殺人からも、戦争からも守ってもらえると考えるほうが、間違っているんです」

     深見剛助は面会室を出た。

    「赤塚さん。ぼくは怒っています。本気で怒っています」

     戸口で待っていた赤塚刑事は、目をぱちぱちさせた。

    「なにに怒っているんです、そんなに」

    「それがわからないのがいちばんつらい。集団的自衛権、その概念そのものかもしれません」

     背中をわずかに曲げた深見剛助は、二十も老けたような足取りで、警察署の廊下を歩いていった。



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    ~ Comment ~

    Re: ダメ子さん

    それもわたしが懸念しているところです。

    二階に上がってハシゴを外されたらどうするつもりなのかと……。

    なんか場当たり的なんだよなあ、最近の政治……。

    NoTitle

    集団的自衛権よりも
    集団に逆らえなくなってきてる感じが心配…
    ただでさえ人目を気にする私はビクビクです

    このあと本当に弁護士を雇ってくれるのかなあ…
    勝てそうならいいけど負けそうだったら勝手な暴走ってことにして…

    Re: いもかるびさん

    もとが時事政治ネタの替え歌で売っていた人間なので、政府がなにかヤバい方面に走り出したらひとこといわないと気が済まないのです(^_^;)

    状況的には冷戦時代のころのほうが一触即発でイヤな空気が漂っていたそうですが、今は大戦の経験者が指導層にいないので、より戦争に近くなっていると思います。

    自民の大量議席減になってもおかしくない法案だの政策だのを急ピッチでぼんぼこ数の暴力で通している今の内閣を見ていると、国際外交ではすでに開戦のXデイが事実上決定しているのではないかとすら思えます。

    わたしは、東日本大震災以来「杞憂」という言葉は使わないと決めています。

    Re: LandMさん

    わたしのような病気は、有事になったら絶対銃後です。わたしが最前線に投入される事態が来たらそのときは国が滅ぶ末期状態です。

    それとも、有事になったら真っ先に青酸カリが配布されるかもしれません。とほほ。

    Re: きみやすさん

    楽しんでくださって光栄です。今月はネタが尽きるまで深見剛助とオタ俳句で押しまくるつもりです。

    気に入られたらほかのもお読みになってくださいね(^_^)

    Re: カテンベさん

    一般的な大人は同盟を結んでいるわけではないですから、それに対して結束している同盟者たちはある意味強いです。

    深見剛助はそれをわかった上で「切り崩し」にかかったわけであります。集団的自衛権のために、「やむを得ず切り捨てられる捨て駒」になったときに、われわれは運命を従容として受け入れられるでしょうか?

    ここではそこまで書きませんでしたが……。

    NoTitle

    思想信条はひとまずおいておきまして
    今回の話は特に皮肉が利いて面白いです。

    ニュース等で太鼓たたきながら賛成だの反対だの騒いでる人たちをみていると
    この人達本当に賛同してもらいたいのかと疑問を感じますが。
    後、逆上ぎみに互いの陣営をののしってばかりの言論人とかいう人達も同様。
    今回の話みたいにスマートに主張してもらえないものだろうか

    よくネットで情報どうのこうのいいますが
    どうせ人間なんて自分が気持ちいいと思える情報しか入れようとしないのだから
    そうすれば偏ってくるのなんて当たり前で
    いつのまにか世の中には右部族と左部族しかいないような風潮になってきているし。


    この手の感想を書くにも周りの目をうかがわなきゃならん世の中になってきて窮屈です。

    NoTitle

    ・・・・・ううむ。
    私の職業はどうやっても有事の際は最前線なんだよなあ。。。
    衛生兵として。
    集団的自衛権云々の前からもう法律で決まってますからね。

    病院でも戦場でもやることは一つ。
    癒すことと看ることだけです。

    そのときは骨でも拾ってください。
    ポールさん。
    ま、初めからその覚悟で仕事してますからいいんですけど。

    ( 一一)

    NoTitle

    おはようございます。

    あの問題をいち早く取り上げて
    きちんとショートショートの枠組みに落し込まれているのには
    感服しました。

    麻生さんの例の言動も絡めていて、見事です。

    集団的自衛権なんて言うたりして、集団リンチくらいはありそなもんやし

    殺人にまでなったんやったら、死体埋め埋めしてわからなくするのをクラスみんなで。てなことくらいはありそな気もするわ

    でも、この展開は予想の斜め上いってるわぁ
    こんなんなったら、関係者以外の一般人の集団的自衛権てので、クラスみんな、社会的抹殺されてまうんやないやろか?
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