FC2ブログ

    名探偵・深見剛助(冗談謎解きミステリ掌編シリーズ)

    名探偵は虚しかった

     ←オタ句 7月4日 →オタ句 7月5日
    「死んでます、深見さん。漫画に出てくるスナイパーの犯行でしょうか、後頭部から、きれいに一発、ライフルですね。頭蓋骨の中のことは知りませんが、これで脳味噌が正常な機能を保っていたら、明日白子ポン酢をおごりますよ」

    「けっこうです」

     名探偵・深見剛助は、死体のそばにかがみこんだ赤塚刑事の脇で、口もとを押さえた。

    「推理して突き止めた犯人が、こうして殺されてしまうんですからね。めぐる因果はなんとやら、ですか」

    「いや、犯人じゃない、容疑者です。この被害者、小保方さんは、証言で『STAP』と書かれたシャツを着た男が、事件現場から逃げていくのを見た、といっている」

     赤塚刑事は立ち上がり、スマホのタッチパネルに指を伸ばして、手短に本署に連絡した。

    「不出来なウソですよ。証言に従って、刑事たちが走り回ったにもかかわらず、実在するという証拠すらつかめないんですから」

    「本人は、二百回は会った、といっていた」

    「それがどうして、他の誰とも会っていないんですか。ウソでなければなんなんです」

     深見剛助は、沈んだ表情で死体を見下ろした。

    「ぼくの推理が間違っていたのかもしれない。ひとつを除くすべてのピースがきれいに収まるところに収まっても、そのひとつのピースで、パズル全体の構図が変わってしまうことは、本格ミステリではよくあることだ」

    「そりゃそうですが、この小説、もう最終ページ近くですよ。大丈夫、これ以上の事件が起きるはずはありませんって」

     パトカーのサイレンが聞こえてきた。

    「ある意味、この犯人も、ここで撃たれて死んで、よかったのかもしれませんね。少なくとも、名探偵の心の中に、疑問とともに永遠に生き続けるわけですから」

    「そうでしょうか、赤塚さん。ぼくは……」

    「もし、ここで長生きなんかしたらたいへんですよ。日本人の国民性を見ればわかるでしょう。待っているのは、一生、ウソつきだの国家の恥だのいわれ続ける屈辱的な人生だ。もし、真実を語っていたことがわかっても、そのときはすべてが手遅れ、というのがオチですからね」

     深見剛助は赤塚刑事と視線を交わし、相手のいっていることが真実であることを理解した。

     到着した鑑識課員たちが、作業を始めた。

     深見剛助に、事件を解決した喜びはなかった。決められた長さの小説の中で、話を終わらせるだけの力しか持っていない、名探偵としての自分が、ただただ虚しいだけだった。

    関連記事
    スポンサーサイト






    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    【オタ句 7月4日】へ  【オタ句 7月5日】へ

    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    これも「時間の壁」の趣向ですね。「時間の壁」を乗り越えないと、その被害者の言が正しいのか正しくないのかわからない……って、これってダイイングメッセージにピラミッド建てる話とまったく同じ構造じゃん!(^^;)

    パターン化してるなあ。やっぱり落ちるべくして落ちたのかこのシリーズ(^^;)

    NoTitle

    これは、哀愁漂う……。
    今までとは逆ベクトルで印象に残りました。
    それでいて、このシリーズでないと書けないお話ですね。

    小説の登場人物にはどうしても「役割」を果たしてもらわなくてはいけないので、書いていて申し訳なくなることってありますね。
    不慮の死を遂げることが決まってるキャラとか、本当にスマンって思います;;

    それにしても、「話を終わらせる能力」を持っているなら十分名探偵です、深見さん! (いろいろやってみて、探偵役はまず『謎を解く』ことに情熱を持っていないとダメだ、ということを悟るのに20年以上かかったヤツ)

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    Re: 面白半分さん

    ポオの昔から、名探偵はデウス・エクス・マキナでしたからねえ。

    ウルトラマンもそのクチですな。(笑)

    NoTitle

    決められた長さの小説の中で、話を終わらせる

    なるほど、これは名探偵の条件ですなあ
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【オタ句 7月4日】へ
    • 【オタ句 7月5日】へ