名探偵・深見剛助(冗談謎解きミステリ掌編シリーズ)

    銃後殺人計画

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    「ぼくがわからないのは、なぜあなたが総理に対して殺人計画を……もっといってしまえば、テロ行為を計画しなければならなかったのか、ですよ。渡部夫人」

     あとわずかのところで、総理に対する殺人計画を未然に防いだ名探偵・深見剛助は、警察署の一室で、赤塚刑事とともに話をきいていた。

    「あの人が日本を、戦争ができる国家に変えたからです」

     夫人は青白い顔で、そう答えた。

    「わたしは、息子を守らなければならなかったのです」

    「それなんですがね」

     深見剛助は、頭をかいた。

    「あなたの息子さんは、戦場へ行かされる可能性はないといっていいでしょう。鬱病で、今も病院に通院している。労災も認められているし、あなたが心配するような事態には。現代戦では、最前線で戦う兵士にも、専門的な知識と技術が求められている。徴兵制など、過去の話です」

    「存じております」

     夫人はうなずいた。

    「……しかし、深見剛助先生、あなたは、いや、日本人の大部分は、国家総動員体制のもとでの、銃後の生活について考えたことがおありですか? これまでのように、電気ガス水道を安い値段でどんどん使える、そんな生活がいつまでも続くと、そうお考えですか?」

    「え……そりゃ、その」

     深見剛助は、言葉に詰まった。

    「息子は、労災を認められたことからもわかる通り、ブラック企業に勤めさせられて、深刻な鬱病を患ったのです。今は通院がなんとかできるまでになりましたが」

    「でも、それでも」

    「深見さん、こういう話はご存じですか。第二次世界大戦で、ドイツの軍需物資の生産量は、降伏直前に至るまで、常に右肩上がりを続けていたのです」

    「…………」

    「現代戦は、戦争を続けるために、背後に膨大な工業力を必要とします。この日本で、その工業力を維持するには、いわば『日本中の全企業がブラック企業化』する必要があるのです。月月火水木金金という歌を、わたしはテレビで聞きました」

    「でも奥さん」

    「通院できるまでに回復した息子は、必ずや工場か農場で働くことを強制されるでしょう。日本の空気が、そうさせるのです。そして国家のために、擦り切れるまで使い潰され、損耗の数字のひとつになるでしょう。わたしは、それを避けたかったのです」

    「深見さん、もういいでしょう」

     赤塚刑事がいった。

    「このご婦人は、心を病んでおられるのです」

    「しかし、ぼくには」

    「わたしは心を病んでいるのかもしれません。しかし、鉄格子のどちら側が正気の世界か、というのはミステリの名作がわたしたちに突きつけた難題ではありませんでしたっけ?」

    「奥さん、こちらへ」

     赤塚刑事が、しっかりとした声でいった。

     深見剛助は、ひとことつぶやくのが精一杯だった。

    「それでも、人を殺すのは間違っている」

     だが、自分のいった言葉に対する自信すら持てないことに気づかされるだけだった。


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    ~ Comment ~

    Re: 青井るいさん

    戦争というものはそういう人から先に倒れていくものなんです。

    ほんとなんです(´・ω・`)

    NoTitle

    戦争を否定した奴が人殺しの矛盾。
    人間はなんと主観的な世界でしか物事を見られないのか。
    戦争がありえるのもそういった〝己の国の為〟である。
    しかし現実を考えると武力が抑止力のウェイトを占めるのは大きい。

    ただ、この婦人の考えも後半部分は間違ってないんだよなぁ。
    ブラック反対! 戦争反対! 憲法9条反対!

    あ、でも首相。徴兵制をするなら僕をまっさきに選んで下さい。よろこんで行きますよ(笑)

    Re: 真城 青瑛さん

    総力戦を知らない子供たちが大人になって、「戦争っていうのは勝ちさえすりゃいいんだろ」と思って歩きはじめた帰結だと思います。

    どこの国でも……。

    Re: miss.keyさん

    集団的自衛権の是非うんぬんよりも、「基本的に戦争に巻き込まれたらその時点で一方的な国家存亡の危機」に瀕する日本において、腹黒だとかウソツキだとか二枚舌だとかいわれながらも日本を「参戦」の危機から間一髪のところで食い止めてきた「歯止め」が、近年になって急激に、ひとつまたひとつと外れていくのを見て恐怖を覚えないほうがどうかしている、と思えてならないのですが。

    となりの三国も、たぶんこちらを「飢えたライオン」と見ていることは同じでしょう。違いは、その飢えたライオンが、自分から檻の鍵を開け始めた、ということで。

    とにかく、こんな微妙なバランスの上に成り立っている束の間の安定を、自分から挑発的行動をして揺らして面白がっているとしか思えない極東諸国の指導者層を見るたび暗澹とした気持ちになってきます。

    東日本大震災以来、「杞憂」という言葉は使う気にはなれません。

    NoTitle

    武器を構えれば必ず誰か死んで恨みが増える
    武器を構えずに話し合うことが悪いことなのか
    今まで平和を守るために武器を構えずにいたのに、今度は武器を構えて平和を守るってどういうことなんでしょうね……

    と、僕は思うんです。
    思うだけなんですけどね

    戦争を否定すれば戦渦に巻き込まれないと考えるのは、傘が無ければ雨に濡れないと言うのと同じだ

     集団的自衛権を持ったからと言って直ぐそれによって戦争に向かうと考える思考の何と短絡なる事か。街頭デモしている人たちを見て、つくづくお花畑だなと感じるのです。戦争なんてしない方が良いし、現代において戦争がいかに損失であるか、戦争をしないで来た日本が一番よく判っています。それでも、戦争は起こり得るのです。自分はしたくなくても仕掛けられる事はあり得るのです。そういう相手に丸腰で話せばわかるは通じません。
     飢えたライオンに自分は危害を加えないから襲わないようにと説得しても無駄でしょう。隣の三国は飢えたライオンです。飢えとはこの場合、彼らの国の内政事情を指しますが、それは決して満たされる事はありません。放っておけば飛びかかって来る恐れが有ります。その不条理を跳ね除ける為には、せめて普通の国レベルの防衛措置はあってしかるべしではないでしょうかね。
     ちなみに、「話せばわかる」の犬養毅は問答無用で殺されました。世界とはそんなもんです。
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