FC2ブログ

    名探偵・深見剛助(冗談謎解きミステリ掌編シリーズ)

    殺人のない殺人事件

     ←オタ句 7月7日 →オタ句 7月8日
     名探偵・深見剛助は悩んでいた。ワトスン役の赤塚刑事も悩んでいた。

    「いったいぼくたちはなにをしたらいいんでしょう、赤塚さん」

    「深見さんみたいな名探偵にわからないことが、わたしにわかるはずがないでしょう」

     ふたりは眉根を寄せあって、互いに、「うむむむ」とうなった。

    「これって、いわゆるあれですか。『死体のない殺人事件』でしょうか」

     赤塚刑事の問いに、深見剛助は首を横に振った。

    「いや、それなら、死体が出ている可能性がある以上、殺人は起こっていることになりますよ。すると、殺人のない殺人事件にはなりません」

    「でも、被害者が事故で死んだなら、もしくは『生きている』なら」

    「その場合は、『殺人事件』ではないことになる。単なる『事故』か、『失踪事件』です」

     深見剛助は頭をぼりぼりとかいた。ずぼらに見えて最新のシャンプーを毎日欠かさない名探偵にはめずらしく、ぼろぼろと大量のふけが落ちた。そうとう長いこと考えにふけっているらしい。

    「となると」

    「論理矛盾というやつです。『AかつAでない』というものですね。ここで論理記号を使えばかっこいいのですが、どうも作者が現代論理学の授業をサボっていたようで、論理式の書きかたをすっかり忘れているらしい」

    「困ったなあ。これじゃ、小説が進まない。長編ノベルズが多い深見剛助ものにしては、珍しく軽いショートショートだって聞いたから楽ができると思ったのに」

     上のほうを向いてうんうんうなっていた赤塚刑事は、パッと目を輝かせた。

    「深見さん、これって、あれではないですか? 作者の大好きな笠井潔の作品によく出てくる、弁証法。テーゼとアンチテーゼの矛盾対立の中からジンテーゼが出てくるってやつ」

     深見剛助は首を振った。

    「笠井潔先生は、弁証法は反対者までも自分の一要素にしてしまう究極の権力知だ、っていって忌み嫌ってます。ぼくはそんなことをいったら人間はどうやって生きて行ったらいいかわからないと思ってます。むしろぼくとしては西田幾多郎先生の『絶対矛盾の自己同一』という言葉のほうがダイナミックに動いていく現実をうまくとらえた言葉じゃないかと思っているくらいで……違う! こんなことをしていてもこの難題が解けるわけじゃないんだ!」

     深見剛助は頭をがしがしとかきむしった。ふけが粉雪のようにあちこちに散乱するのを、赤塚刑事はスウェイバックでかわした。

    「じゃあ、作者はぼくたちになにをさせたいんですか。『殺人のない殺人事件』から、なにかを生み出さなければ。わたしも深見さんも、永久にこの小説の中に閉じ込められてしまいますよ」

    「でも、殺人のない殺人事件は、ジン・テーゼを生み出さないじゃないですか。出てくるのはただの論理矛盾だ。それに、ぼくが考えるに、いつもの作者のパターンからいって、真相はものすごくくだらないところにあるに違いない」

     赤塚刑事は泣きそうな顔になっていた。

    「なんとか、それを見つけてくださいよ、深見さん。このままじゃわたしは、刑事巡査の任を解かれて、ハコ番に降格だ。ああなったら、二度と深見さんと組むことも……」

     深見剛助はまじまじと赤塚刑事を見つめていた。

    「今、なんとおっしゃいましたか、赤塚さん」

    「え? 二度と深見さんと組むことも、って」

    「その前です。ハコ番に降格とか」

    「え? ああ、はい」

    「事件は解決しました。もとより、事件などなかったのです」

     深見剛助は確信に満ち満ちた声でいった。

    「どういうことなんですか、深見さん。わたしにはなにがなんだか」

    「簡単です。あなたが、ハコ番に降格されることはありません。なぜなら、『殺人事件』は、この場合、『人が殺される事件』のことではないからです。殺されるのは、『人事の件』なんです」

    「ということは……」

    「そうですよ、赤塚さん。あなたは、人事異動されることはないということなんです! よかった! これで今回の謎も解けた!」

     赤塚刑事は呆然としていた。

    「じゃ……じゃあ、わたしがけさ、署長からいわれたことも……なかったということに……」

    「え?」

    「この事件を解決したら、部長刑事になれるはずだったんですが……」

    「…………」

    「…………」

     赤塚刑事はおいおいと泣き出した。深見剛助はなにもいえずにそんな相手を見ていることしかできなかった。

     こうして作者がいうのもなんだが、うまい話というのはないんだよ赤塚くん。ふっふっふ。


    関連記事
    スポンサーサイト






    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    もくじ  3kaku_s_L.png X氏の日常
    【オタ句 7月7日】へ  【オタ句 7月8日】へ

    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    解決しても事件は事件ですが、起こらなかったら事件ではありません。

    だから殺人だと思ったら自殺、というのに「なんとか殺人事件」とタイトルをつけるのはどうかなあ、と……。

    NoTitle

    事件は人が意図的に起こすものですからね。
    起こす起こさないはその人次第というわけですね。。。。
    解決してしまったら、事件でもないですしね。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【オタ句 7月7日】へ
    • 【オタ句 7月8日】へ