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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:17 縛り首の宿

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    縛り首の宿



     出張の調査を終えたエドさんは、愛車を飛ばして事務所への道を戻っていました。急いでいるのにはわけがありました。町の露店で手に入れた年代ものの聖書を、一刻も早く自分のアパートに持って帰りたかったのです。

     しかし、夜になるにしたがって天気が崩れ、雨になり、そして気がついたときにはひどい嵐になっていました。

     ふと、前方を見ると、『モーガンズ・イン』という古びた宿屋の看板がありました。天の助けです。エドさんは飛び込みました。

     なんとも淋しい受付にいたのは、同じくなんとも淋しげな顔をした若い男でした。宿帳に記入を求められたエドさんは、先に書かれたものが、ちょうど百年前の日付に誤記されていることに気づきました。

     石油ランプの灯る古い部屋に案内されたエドさんは、ひとりになると、さっそく例の聖書を取り出し、眺めてにやにやしました。いかにもご利益がありそうで、インテリアとして申し分なかったからです。汚さないようにテーブルに置くと、ベッドに入って今度は普通の本屋で買った怪奇実話集を開きました。

     ランプの灯りの中でぞくぞくしながら読んでいると、その一ページに目が落ちました。

    『モーガンズ・イン跡。ここは、「縛り首の宿」として幽霊が出ることで有名である』

     本によると、ある嵐の日、アンという名の少女が行方不明になりました。さらわれたのではないかという疑惑が広がり、犯人と目されたのは、ひとりで宿屋を開いていたテリーという若者でした。アンと恋仲だった若者は、アンの両親に反対されたことから、さらって隠してしまったのだろうと疑われたのです。村人たちはその晩、アンを帰さなかったらテリーを絞首刑にしてしまうことで一致しました。夜のうちにむごい私刑が行なわれ、テリーは縛り首になって死にました。それ以来、『モーガンズ・イン』の跡地には、若者の幽霊が出るようになったとか。

     エドさんは、ぞっとしながらページを閉じようとしました。その瞬間、ある一節が目に触れました。事件が起こったのは。

    「ちょうど百年前の今月今夜!」

     エドさんは、本を投げ出してランプを消しました。『モーガンズ・イン』なんてよくある名前ですし、宿帳も書き間違えでしょう。

     エドさんは不安げに窓の外をうかがい、目を疑いました。いくつものたいまつの光が、列を作ってこの宿屋へ向かってきたのです。

     ゆっくりと、地を揺るがすかのような低い声の唱和が聞こえてきました。

    『……テリー・モーガン、アンを帰せ』

    『……テリー・モーガン、アンを帰せ』

    『……さもないと、お前は縛り首だ』

    『……さもないと……』

     エドさんはもう我慢ができませんでした。テーブルの上の怪奇実話集を引っつかむと、部屋を飛び出し、宿の扉を大きく開け、嵐の中に駆け込んで行ったのです。

     宿を取り囲んだたいまつの群れに向かって、エドさんは叫びました。

    「やめろ! テリー君は無実なんだ! アンは、薬草を摘みに山に入った時に地すべりに遭い、足をやられて動けなくなったんだ! 本の通りなら凍えて死んでしまうところだが、いま行けば、たぶん助かる! 見ろ! ちゃんと、この本に全部書いてあるんだ!」

     その瞬間、エドさんの目の前にぴかっと雷が落ちました。あまりの衝撃に、エドさんは本を取り落とし、気を失いました……。



    「お客さん、もうお昼ですよ」

     エドさんはベッドの中で気がつきました。起こしたのは、陽気そうなおばさんでした。

    「嵐は……彼らは!」

    「寝ぼけてるんですかねえ。嵐なんてどこに。ここ一週間、ずうっといい天気ですよ」

     ぼんやりとした頭で階下の食堂へ降りていったエドさんは、看板を見て驚きました。『神の御業亭』となっていたのです。

    「ここ、『モーガンズ・イン』じゃ……」

    「お客さん、よく知ってますね。昔は、そう呼んでいたんですよ。しかし百年前の嵐の夜に、アンという女の子が姿を消し、恋仲だった若いころのひいじいさんが縛り首の私刑になりそうになりましてね。そのとき、謎の男が現れて、真実はすべてここにあり、って聖書を高々とかかげたんです。その言葉の通り探してみると、アンがいたじゃないですか。これが後のひいばあさん。……その聖書は、そこに飾ってありますよ。うちの宝物です」

     飾り棚を見てエドさんは叫びました。見る影もなく古びていましたが、露店で買ったあの聖書に間違いありません。昨晩、暗闇の中でつかむ本を間違えてしまったのでしょう。

    「神様、あなた残酷です」

     エドさんはそっとぼやきました。

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    Re: fateさん

    ファンタジーですから(^^)

    このシリーズ、半分わたしの願望小説みたいなもので……(笑)

    良いなぁ!!

    いつもエドさんばっかり、良い役!
    ここぞ、ってときに意図せず活躍してしまう性質の成せる技でしょうか。

    く、悔しい…っ
    fateだって、ハトに頼られたいし、ヒマワリの化身にも会ってみたいし、タイムスリップもしてみたいっ

    でも、そんなんじゃ身体がいくつあっても足りなそうだから、やはりエドさんに任せておこうかね(--;

    Re: YUKAさん

    こうして読み返してみると、エドさん、けっこうかっこいいですね(笑)

    このシリーズ、ほんとはもっとほのぼのを狙っていたのですが(^^;)

    こんばんは♪

    とうとうエドさん、過去にも登場^^
    しかも、救世主~

    結末はいいお話でおさまっていて、楽しみました♪

    Re: 有村司さん

    な、なにかあったのですか。

    眠れないのはかなりつらいですからねえ(経験者は語る)。

    わたしの小説が心を落ち着かせる役に立つのなら願ってもないことですが。

    ご無理はなさらないよう……。

    おはようございます。

    むしゃくしゃが収まらず、眠れないのでエドさん詣でに来てしまいました。

    「バスビーストゥープイン」の話を思い出しましたねえ。あちらは救われずに、現代もれっきとした怪談として残っていますが…。

    もしかしたら、あの犯人も無実だったのかも?などと考えてしまいました。
    しかし、時を超えて人助けをしてしまうエドさん…流石です(笑)

    Re: ぴゆうさん

    こういうところで「いい話」ばかり書いた反動で終末港はあんなことになってしまった(笑)。

    意外とバランスは取れて……ないない(笑)。

    NoTitle

    なんかとてもいい話。
    救世主だよねぇ。
    そんなことがあってもいいよね。

    >まりぃさん

    がんばりますです。(^^)

    まりぃさんもブログの更新に気合いを入れてください。

    なんでしたらリンクしましょうか?

    きましたよっ!

    なんか今回は怖めの話でしたね~^^
    でも面白かったですっ☆
    これからも頑張ってくださいね!

    >曾良/そら(SOLA)さん

    またもお越しをありがとうございます。
    このショートショートのもとネタは、ジェラルド・カーシュのセレンディピティ刑事ものの一作なのですが、そちらでは純然たるホラー(ギャグが入ってますが)でした。
    ちとそれはわたしの趣味に合わなかったので、なんとか好みに合う結末を、と考えてこういう話にしましたが、もしかしてよくある話?(^^;)

    お友達のお話にも、合理的な解決をつい考えてしまう、もうミステリファンの宿痾ですな(爆)。
    世の中には不思議なことで済ませておいたほうが精神安定にもなにごとにもいいことがあることは重々承知なのですけど(^^;)

    こういう話を大人向けの小説に焼き直すとホックやキングっぽくなっていい味が出るかも。
    知人が、コレに近い感じの白昼夢のような経験をしたこともあり(実際にあったと私は信じていますが)、興味深く読みました。宿に困って途方に暮れていたら、ある旅館の女性がうちなら空いていますよと教えてくれて、案内されるままにその女性が経営する小さな旅館に泊まることになり・・・というもので、翌朝目覚めるとまったく違う名前の旅館で老夫婦がいて・・・老夫婦の話では、昨夜その人が自ら部屋を求めてやってきた、困っていたようだったので泊めてあげた、そしてその居たはずの娘さんはずっと以前に若くして亡くなった方だったという。聖書とか時空とかは関係有りませんが、誰に話しても信じてもらえない奇妙な体験をしたそうです。私は、そういうのは経験した人にしかわからないというか、そういうこともあるだろうと思っているので(経験がないわけではないので!)、素直に信じてあげました(笑

    >ネミエルさん

    これらのシリーズは、もともと某JOMOの童話賞用の投稿作品として書いたのですが、ボツを食らってしまいました(^^;)
    でも書いているうちに愛着が出てきたので時おり思いついたように書いてます。50話溜まったら同人誌にしたいけれど、お金と置き場が……(^^;;)

    なるほど、僕にエドさん物語をはじめからよめという指令ですね、わかります。

    読みます。

    ふむふむ・・・w・・・
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